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学校で調べたいものを調べ終えた浩明と凪は、何故か雑貨屋に来ていた。それも何故かあからさまに若い女性をターゲットとしたファンシーショップの前だ。
「ここ、前から一度来てみたかったのよね」
「それは分かるが、どこに行くか位は言ってほしかったねえ」
興奮を抑えつつはしゃぐ凪とは対照的に、浩明はげんなりとした口調で答える。
凪がちょっと寄りたい所が付き合ってと言うので付いて来たのであるが、店のショーウインドーに並んでいる品揃えからして、普段、本屋にしか行かない浩明には未知の空間だ。
「だってさ、言ったら逃げるでしょ?」
浩明の真似をして人差し指を立てての詰問に、視線を逸らして沈黙する事で答える。
「では、私はそこの喫茶店で待ってるから終わったら連絡してくれ」
せめてもの悪あがきに、近くの喫茶店を指差し、凪に背を向けようとするも、「ちょい待ち」と腕を掴まれる。
「大丈夫よ。ほら、男の人でも買い物してる人いるじゃない」
「ええ、隣にお似合いの女性が立ってて仲良く商品を見てるねえ」
凪の指差した先を見て、明らかにカップルじゃないか、と言い返すと、凪は途端に睨みつけてくる。
「アンタね、私は男子更衣室まで付き合ってあげたんだから、この位は私に付き合いなさい!」
それを言われると、浩明には反論の余地が無い。
頬を紅く染めた凪に、強引に腕を掴まれて浩明は店内に入っていった。
「星野、これ似合うかな?」
「いいんじゃない?」
花をあしらった髪飾りを当てて聞いてくるのを、ぶっきらぼうに返す。
「こっちのはどう?」
「いいと思うよ」
「頭にどうでも、が付きそうな感想ね?」
「君ね、似合ってると言ってるんだから、素直に受け取ればいいだろ」
睨んでくる凪に、やれやれと言わんばかりの口調で言い返すと、凪は呆れて溜め息を漏らす。
「アンタに意見を求めた私が馬鹿だったわ……」
服に拘らない男に、アクセサリーだファッションとかの意見を求めても無駄なだけ。
薄々分かっていたことだが、いざ、それが分かるとつい溜め息を漏らしても許されるだろう。
つい、近くの仲睦まじいカップルを羨ましく目が行っても許される筈だ。
「大体、君は何を着ても似合うんだから、安いほうでいいんじゃないの?」
「似合うって言われるのは嬉しいけど、それじゃ一緒に来た意味ないでしょ」
「意味?」と、聞かれて「なんでもない、ただの言い間違いよ」と慌てて凪は訂正する。
前々からいつかは来ようとチェックしていた凪が、店に足を踏み入れるのを躊躇っていた理由。それは、この店が如何せん来店する客にカップル客が多い事だ。友人同士で一度、入店しようとしたが、その時は、カップル客がだけだったため、思わず今度にしようと断念、かといって、一人で行ける度胸など有るわけもなく、時間だけが過ぎていく事態となっていたが、今回は、最近出来た数少ない男友達の浩明という存在がいるわけで、念願の来店を果たせたという訳だ。最も、ファッションだとか見た目に対して全く無頓着な浩明を連れてきた事が、唯一にして最大の誤算だったのであるが。
「あぁ、まぁ、あれだ。灯明寺にはそういった髪飾りよりも、今付けてるようなリボンのほうが似合ってるぞ。正直、髪飾りは撫でる時に邪魔になるし」
さしもの浩明でも、自分の行動が凪の期待を大きく裏切った事が分かったようで、なんとか取りなそうと、落胆の色を浮かべた凪の頭を撫でると、「へ?」と、ころりと態度を変えた。
「星野は、こういう髪型のほうが好み?」
「まぁ、魅力を感じるねえ」
撫で終えると、余韻に浸っているのか、頬を緩めた凪に、思ったままの感想を述べる。
「成程、星野はこういう髪型が好みなんだ」
「別に、私の好みに合わせなくても構わないんだけど」
「何言ってんの、男の子に誉められて嬉しくない女はいないわよ」
「そういうもんか?」
「そういうものよ。これで後は目の前で買ってプレゼントしてくれたら好感度アップね」
「好感度ってどこのエロゲ……、ちょっと待て。灯明寺、今のは殆どの女性に当てはまる事なのか?」
「まぁ、異性に贈り物されて喜ばない子はいないんじゃない? まぁ、余りにも高価なのはひかれるけど、それがどうかしたの?」
急に振られた質問に怪訝に返すと、浩明はニヤリと笑みで返して、とんでもない言葉を口にした。
「灯明寺、ありがとう。君のおかげで来週の生徒総会は面白い事になりそうだよ」