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データを回収した二人は、その足で生徒会室に来て、書類を机にひろげていた。目的は生徒会に保管されている会計書類と領収証が、小早川の端末に保管されていたデータとの違いを確認し、捏造が本当にあったかを調べる為だったが、全てを確認し終えた浩明の出した結論に、「なんでよ?」と、横にいた凪が困惑したように疑問詞を口にする。というのも、
「どうやら、彼が手元に隠していたデータと、ここにある領収証と部費のリストを照らし合わせた結果、用途不明な、それもかなりの金の動きがあったのは確かだねえ」
書類を見終えた浩明の口から、そんな言葉が出てくれば当然だろう。
「ちょっと、予算の使い込みはでっち上げだって言ってなかった?」
「あくまで可能性を言ったまでだ。まぁ、使い込みが事実だったおかげで雅嬢が襲われた理由がはっきりしたよ」
「理由?」
あえて動機とは言わなかった事を怪訝に思って浩明を見ると、予測済みだったようで浩明が続ける。
「雅嬢が襲われて真っ先に疑われるのは当然、私だ。その私をみんなの前で糾弾し、疑いをかけた上で冤罪だと証明されれば、先導した彼等の信頼はがた落ち。そこで生徒会予算の使い込みまでやっていたと出てくれば……どうなる?」
「そりゃ、そんな事してるんなら、やっててもおかしくないって……まさか、罪を擦り付ける為って事?」
言わんとしてる事を悟って、表情が凍りつく。
「更衣室で言った通り、彼等が使い込みをする可能性は限りなく低い。だけど問題を起こした人間ならばあってもおかしくない。そう思わせた所で決定的な証拠が出てくれば完全に信じ込むだろうねえ」
「だから、天統さんを星野の振りして襲ったって事?」
「状況からして十中八九、彼の犯行だろうね。でもって私と馬鹿連中が衝突したところで私の無実を証明し、彼等を悪者にし、使い込みを擦り付けようとした。そんなとこだろ。まぁ、実際は彼の思った以上の展開になったようだがね」
恐らく、冤罪を証明し、浩明に恩を売って黙らせるつもりが、鉄壁のアリバイ片手に自分で冤罪を証明し、おまけに逆上させて襲わせた挙げ句、まさかの返り討ち(それも、一名は再起不能寸前のおまけ付き)、まさしく願ったり叶ったりの展開だろう。
「じゃあ、早速を副会長に問い詰めに行かないと」
「行っても、証拠を出せって言われるのがオチだろうよ」
浩明が述べたのはあくまでも推測、知らないと言われればそれまでだ。
「それに、最大の謎がまだ残ってるだろ?」
「最大の謎?」
凪が首を傾げると、浩明は呆れたように溜め息を漏らす。
「動機だよ。動機?」
「動機って……使い込みをした理由?」
「いや、なすり付けをしようとした相手にあの馬鹿連中を選んだ理由だよ」
「そんなの、同じ生徒会だからじゃないの?」
肩を竦めて答える。何を分かり切った事を言わんばかりの態度だ。
「確かに失脚の手段としては、これ以上ないといったところだ。だが、万が一、失敗した時の事を考えると余りにもリスクが高過ぎる。腐っても名門魔術師の御曹司だ。いち学生がまともに張り合えるとはとうていおもえないね」
「いや、それ。アンタが言っても説得力無いわよ」
「はい?」
浩明にジト目で睨まれて、茶化すのをやめ、慌てて視線を逸らす。それを
「たかだか、場末の高校の生徒会長になるためにそれほどのリスクを負う必要があると思うか?」
「て事は、そこまでのリスクを負ってでもやろうとしてるって言いたいの?」
「あるいは、なにかの理由があって生徒総会に間に合わせる必要があったかだ」
怪訝な表情で、考え込む二人の耳に授業終了のチャイムの音が響いた。