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スランプで久しぶりの更新になります。全然、話が進んでないのが悲しいっす
「うわぁ……」
浩明が爆発のあった場所に来てみると、銀行強盗が立て籠もっているからだった。さっきの爆発は犯人が脅しのために放ったらしい。どうやら犯人は、かなり危険な精神状態に追い込まれているか、自分の力を誇示したい馬鹿のどちらかだろう……
内側からの爆発によって無残に吹き飛ばされたシャッター。しかし、そこから見えたのはそこ以外は何事もなかったように無傷な室内。そして爆炎と共に飛び散った魔力粒子。間違いなく爆発魔法が放たれた証拠だ。
―どうやら高位魔術師が立てこもってるようだな
高位に位置する魔術師の真骨頂は、己の放った魔法で目当てのもの意外に影響を与えない事にある。つまり、森の中で炎魔法を放ち、ある一帯を焼き尽くしても、決してそこから先には延焼させない、あるいは電撃魔法を放っても、周辺地域の電子機器に影響を与えないなどという、二次災害を起こさない事だ。 立てこもり犯が敢えて大通り側に面した一面だけを爆破した理由はひとつしかない。
―脅しってやつか
人質の命は自分達の掌の中、妙な真似をしたら……というところであろうか
―場所を代えた方がいいようですかね
野次馬が集まり始めたのを見届けながら、浩明は人の流れに逆らうようにその場を去った。
―さて……と、どうしますかね
斜め向かい側のビルの屋上から爆破された銀行と、野次馬が集まり人だかりが出来ているのを見ながら一人呟いた。
浩明が現場にではなくここに来た理由、それは浩明自身の魔法にある。浩明は自分の放つ魔法を見られるのを極端に嫌う。何故なら浩明の魔法の術式が他とは一線を外したイレギュラーだからだ。
今川焼き(税込み525円)の恨みは晴らしたいが、いかんせん野次馬が多く、無闇に魔法を放てば嫌でも目立ってしまう。
「切り札は人目に曝したくない」というのが正直なところだ。
「転校初日からこれを使うことになるとは、今日はとんだ厄日ですねえ」
愚痴りながら、変装目的でかけている眼鏡の付け根のスイッチを押してレーダーモードに切り替えて、現場を見る。これは中遠距離狙撃魔法を放つ時のスコープ代わりとして役に立つので仕事の時には重宝している。
もっとも、人前で魔法を使いたくないから仕方なく中遠距離狙撃になる時が多くなるだけで、本来は近接攻撃魔法を得意とする浩明にはかなり皮肉な道具である。
とはいえ、使い勝手の良い道具にはかわりないので最大限に有効活用させてもらうわけで、ズームを調整して現場を見下ろした。
―チャンスは屋内から出た所を一撃といきますか
いつでも魔法が放てるように胸の前で腕を交差させて意識を集中し、大気中に飛び散った魔力を両腕に集めて収束させる。
浩明がイレギュラーと呼ばれる理由。それは魔力供給と魔法の発動方法が、一般の魔術師と根本的に違うことにある。
一般の魔術師は、魔法を放つ時には己の体内の魔力をコンバーターにより魔法として変換するのに対して、浩明の魔法は体内の魔力を使わず、大気中に飛散している魔力粒子を体内に取り込み、コンバーターを介さずに、直接、魔法に変換する。そして、術式構築された魔力を魔法に変換して発動するのに本来必要な詠唱を行わない無詠唱によって魔法を発動させるという、正にイレギュラーと呼ばれてもおかしくない戦闘スタイルをしているからだ。
―後は出てくるのを待つのみ……
魔力粒子を体内に集めて、いつでも発動できるように準備を整えて、下の様子を伺っていると、思わぬ展開になっているようだった。
天統総一郎とその妹である天統雅は才能の全てを授かったと言っても過言ではない。日本で最高峰の魔術師の家系として君臨する天統家に生まれ、次期当主と副当主としての英才教育と、人を惹きつけてやまない性格と風貌は、高校生でありながらその実力と知名度は全国にとどろき渡っている。 そんな二人もまだ学生、学校帰りに友達と寄り道もするし、買い物もする。そんな二人が銀行強盗に遭遇したのは、家族ぐるみの友人である結城康秀とこのみ兄妹と買い物をしていて、一段落がついて、雅行きつけの喫茶店で世間話に興じている最中であった。
轟音を聞いて四人は慌てて店を出ると、人の流れを頼りに事件現場に向かい、野次馬の人混みを縫うように最前列に出た。
「これはまた……見事に吹き飛んでいるな」
「確かに、相当な術者が犯行グループいるようですわね」
「まぁ、頭のほうはかなり残念みたいだけどな」
「お兄ちゃん、それは……分かっていても察してあげようよ」
壁が吹き飛ばされ、未だに黒煙の立ちのぼる現場を見て、立てこもり犯への評価と皮肉を込めてそうもらした。脅しか挑発のつもりか知らないが、わざわざ壁を取っ払って、内部を晒してくれたのだ。情報がこちらにだだ漏れなのはありがたい。
「え……っと、立てこもり犯は二人に、人質は……まぁいいか」
「康秀、よくない、よくないからね」
「何だよ、俺と雅とで防御壁を作って、総一郎とこのみがあの馬鹿二人を叩けばいいじゃないか」
「お兄ちゃん、その馬鹿な提案は頭のどの辺が腐ったら出てくるものなの?」
満面の笑顔で猛毒交じりの皮肉を込めた妹からの返しに「これは手厳しい」と肩をすくめた。
「冗談はさておき、通報されて間もないみたいだし、最悪の場合、俺達でなんとかするしかないようだぜ」
騒然としている周囲に康秀が目を向けて言うと、「そうだな」と総一郎が答えた。
「で、さっきの爆発魔法を放った馬鹿魔術師は……どっちだ?」
改めて二人組を観察する。
背の高い覆面男の方は、人質にコンバーターを向けて、今にも放ちかねない雰囲気だ。もう一人は銀行員に罵声を浴びせながら現金を鞄に詰め込ませている。
察するに、今の脅しに慌てて現金を鞄に詰め込み始めたようだ。
「どうする? 入ってあの馬鹿二人、やっちまうか?」
「いや、出てくるのを待って一気に仕掛けよう。」
下手に刺激すれば最悪の事態になりかねない。今にも殴り込みかけそうな康秀を制して、人質の安全を優先して作戦を立てた……と言っても作戦というまでもなく
「雅が気を引き、その隙に俺と康秀が飛びかかるから、このみはバックアップをしてくれ」
ただ「待ち伏せして出てきたところを一網打尽」という、作戦と呼んでいいのか分からない方法を選んだだけなのだが、現状では、それが一番有効だろうという事で、四人はいつでもいけるように構えた。
立てこもり犯を睨み付ける事、数分間。四人はいつ出てくるか分からない犯人に神経を集中させていたが、思わぬところから突破口が開かれた。
突如、壁に付いていた銀行の看板が落ちてきたのだ。
「なっ!?」
突然の事態に、声をあげるのもままならない四人と、音を聞きつけて出てきた強盗犯二人が、予定外の事態に呆気に取られた。
しかし、そんな六人の事態を無視するかのように、更に、銀行の二階の窓ガラスが粉々に砕け散って強盗犯に降り注いだ。
「今だ!」
思わず、破片から我が身を守ろうと体を丸めた犯人に、総一郎と康秀が飛びかかった。
勝敗は一瞬で決まった。 総一郎は一気に背後に回り込み、後頭部に一撃を加え意識を刈り取った。一方の康秀はもう一人の犯人の鼻目掛けて右足を蹴り上げていた。それも、身体硬化魔法を右足にかけたオマケ付きの一撃だ。それを受けた犯人はサッカーボールのように壁に飛ばされ、激突してから地面に横たわった。
「よし、これで片づいたか」
凹んだ鼻から鼻血を出している犯人を見て、康秀が達成感を込めて言うと、総一郎が「康秀、やり過ぎ」とたしなめた。
「うるせぇな。俺は総一郎のように器用じゃねぇんだよ」
「あの短時間で身体硬化魔法を変換発動させといて、それを言う?」
総一郎のたしなめに、康秀はふてくされたように返すと、このみが呆れて言った。
間もなく誰が通報したか分からないが、駆けつけたお巡りさんによって、犯人二人は連行されていった。
「しかし、運がよかったな。狙ったようなタイミングで看板が落ちて、割れたガラスのおかげで一気に片付いたんだから」
事件解決のきっかけになった看板の残骸を見ながら、康秀の安堵の声をあげた。
「康秀、偶然なんてそう簡単には起こんないみたいだよ。これ、見てみろよ」
それに、水を差すように総一郎がみんなに看板の根元を見るように促した。
「普通、落ちてきた看板の根元がばっさり切られてるか?」
「つまり、誰かが私達の事をずっと見ていたという事ですか?」
それを見ながら、雅が総一郎の言いたかった事を続けた。
「おそらく……、まぁ誰かは分からないけど、確実に言えるのは、これを落とした魔術師は、ここにいるみんなに見られたくない何かがあるって事だろうね」
「それは買い被り過ぎなんじゃないの? 看板を切り落として、ガラスを割っただけじゃないか」
「少なくとも看板を落とした切断魔法の後に間髪置かずにガラスを割った破壊魔法を放った速さはかなりのものだよ」
魔力をコンバーターで変換する現代魔法を連続発動するとどうしてもタイムラグが生じてしまう。
数十秒という僅かの時間だが、それが致命的になる事もある。そのため、連続する構築魔法の時間短縮は、永遠の課題と言われている。
「これは面白い事になりそうだね」
正体不明の正義の味方を気取った魔術師。
「調べてみる価値はありそうだね」
総一郎が不適な笑みを浮かべてそう言うと「お兄様の悪い病気がまた始まったわね」と雅が呆れて言った。
感想、お待ちしております。