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「いや、ほんと参るわ。ちょっと嘘を問い詰めに行って、まさかの退学勧告ってマジ?」

「マジだと思うよ」

 浩明の横を歩く凪が溜息を吐く。頭のなかでは分かっているのだが、実際にはそう簡単に割り切れるものではない。

「星野、アンタ平然としてるけど、驚かないの?」

 凪の言葉に飄々と答える浩明の口調からは、戸惑う様子がなく、むしろ想像通りの展開とおもっている空気すら感じる。

「確かに急展開過ぎると言われれば否定できないけど、ありえないとは言い切れない事態だったと思うよ」

 自分達の行動を思い返して浩明が凪を諭す。

「じゃあ星野、アンタはそれで納得できるの?」

 凪の言葉に、浩明は「まぁね」と答えてから続ける。

「納得もなにも、今回の件が片付いたら退学届けを叩きつけて辞める予定でしたからねえ」

「は?」

 凪の瞳が驚きで大きく見開いた。

「ほ、星野、それマジで言ってんの?」

「えぇ、この高校には八割方、見切りをつけてますから」

「見切り……って」

 呆れて言葉を濁した。言わんとしているのも大体分かるからだ。自分でも同じ立場なら間違いなくそうしただろう。しかし、ひとつだけ分からない事がある。

「アンタ、この高校でやりたい事があったんじゃないの?」

 青海高校に天統家の兄弟がいると知ったうえで、つまり騒動を起こしてでもやりたい事をそう簡単に諦める事が出来るのだろうか。

「あぁ、あれね」

 凪の当然の疑問を、思い出したように面倒くさそうに頭を搔きながら答える。

「もともとあの馬鹿共を見返してやるつもりで入ったんだがね。まさか、あんな自己完結で反省してます気取りの偽善者になっているとは思わなくてね。あんな連中、見返す云々以前に関わる気すら失せたわ」

「わお、評価最悪じゃん」

 吐き捨てるような物言いに、凪が苦笑を漏らす。

 もともとドン底にあった天統家と結城家の兄妹達の評価が、今回の一件でドン底を更に踏み抜いたようだ。

「それはさておき、今後はどうするつもりなの?」

 気まずい空気を払拭するつもりも兼ねて、凪は話題を変える。

「そうだな」

 浩明も、その意図を汲んで応じる。

「図らずも私達は、犯人の目論見通りの行動を取ってしまった。つまり犯人にとって最高のシチュエーションを作ったわけだ。即ち……」

「犯人が近いうちに動くって事?」

 凪が引き継ぐ。

「確実にな。誰がどう動いて何をするか、状況を見極めてから動く必要がある。しばらくは様子見だな。……と言っても一両日中には必ず何かある筈だろうよ」

「なんでそこまで言い切れるのよ?」

「一連の動きから察するに犯人は何か急いでる感がする。このタイミングで動かないわけがないって事だ」

「成程。で、その間、私達は何をするの?」

 凪がニヤニヤと意地悪く聞いてくる。ただ指をこまねいて何かが起こるのを待っている筈がない。自分は相当な腹黒だと認識されているようで心の中で溜息を漏らすと「そうだな」と切り出した。

「とりあえず、駅前のデパートで買い物して、夜の街を散策といくか」

「あら、それってデートのお誘い?」

「いや、逃げ込んだ家に菓子折り持ってお詫びに行って、その後、事件現場を見て回るだけだよ」

 期待を込めて聞いてくる凪の言葉を切り捨てる。

「あ……、そ、そうね」

 あまりにもバッサリとした物言いに、毒を抜かれて呆気に取られた顔で返してしまう。

「それと君、そう言った物言いは意中の相手に言いなさい」

 凪を窘めてから「行くぞ」と促すと、凪は「ほ~い」と返事をして、浩明の横を並んで歩き出す。

「何よ、少し位は期待させてくれてもいいのに……」

 小声で洩らした愚痴が浩明の耳に届く事はなかった。



 その数日後、副会長、小早川秀俊による生徒会長、大谷慶への解職請求が出された。






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