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「あら、凌がれた?」

 脚力強化を掛けて放った浩明の一撃を両手を交差させてガードした康秀から距離を取り構え直すと、思わず感嘆の声が小さく洩れる。

 浩明の戦闘スタイルは基本「一撃必殺」、だからこそ馬鹿にされるほどのポジションに身を置き、相手の油断を誘い、更に逆上させ冷静な判断を鈍らせる念の入れようだ。その成果は、俗に言う「校舎裏の呼び出し」でも発揮されており浩明を「格下」と見下して集団で襲い掛かり、全員返り討と言う結果がそれを証明している。

「何驚いてんだ。自慢の一撃が凌がれたのがそんなにショックだったか?」

「いやいや、素直に感嘆してるだけですよ」

 素直に浩明は驚いた。「近接戦闘が得意」というのもあながち嘘ではないようだ。

 今までの取り巻き相手と多少は違う、康秀の認識を改める。

「今度はこっちからいくぜ」

「おや、不意討ちでなくていいんですか?」

 あからさまな挑発に、康秀の表情が僅かに歪む。

「その減らず口。いい加減、黙らせてやらぁ。術式起動!」

 それも一瞬、康秀は脚力を強化させ、浩明との距離を詰めて拳を振るう。しかし、それはあっさりと浩明にかわされる。続けて振るったほうの反対の腕を壁側に下がることでかわし、ならばと繰り出された回し蹴りを腕でガードする。

 康秀から繰り出される一撃をことごとくかわし、時に打ち払っていなして決定打を与えさせない。

「この! ちょこまかと」

「あれ、止まった的にしか当てれませんか?」何度目かの顔に来る拳を顔を右に傾ける事でかわすと「それとも、いつもやり合っている相手なら余裕で当たっていたとでも?」と挑発的な問いかけで康秀の頭に更に血を昇らせる。

 その結果、「こんの野郎!」と、面白い位にその挑発に乗って躍起になって浩明に襲い掛かる。それを

「よっ」、「ほっ」と声を出してかわしてゆく。

 ―格が違う

 口に出さないが凪は思わず心の中で漏らした。秘密主義のため、浩明の魔術師としての実力は殆ど分からないが、康秀の実力はよく知っている。成績は魔術科でもトップクラス、特に実技での模擬戦では上級生相手にも引けを取らないと専らの評価を得ている。そんな康秀ならば星野浩明に勝てる。魔術師でありながら同じ魔術師である自分達を目の敵にする星野浩明に鉄槌を下してくれる。魔術専攻科の学生達もそれを願い、そうなると信じていた。

 しかし、目の前の光景は予想を裏切る展開となっていた。近接格闘を得意とする康秀の攻撃が決定的な一打に至っていない。むしろ煽られて冷静さを欠き、感情のままに浩明に向かっていく姿は滑稽を通り越して哀れさすら漂ってくる。

「御嫡男殿……」

 康秀のがむしゃらな一撃をかわしながら切り出した。

「もしかして、わざと当ててないの?」

「何だと!?」

「それとも、それが実力?」

「どういう意味だ!?」

 康秀をいたぶる様な言い回しに怒鳴り返す。

「いや、まぁ、あれだ。どこぞの馬鹿のような弱いものいじめは趣味じゃないんでね」

「野郎、なめた事言いやがって!」

「さっきから全然当たってないのが実力を証明しているとおもいますがねえ」

 結城家の次期当主を「格下」扱い、それも上から目線で肩を竦め、その実力を哀れむような物言いに康秀がとんでもないカードを切った。

「だったら、これでどうだ!」

 康秀がコンバーターに手を添えて発動プロセスに入る。

「ちょっと!」

「康秀、待て!」

 凪と総一郎が同時に声をあげる。康秀が放とうとしているのは恐らく広域魔法。かわさせないようにするのが目的だろうが場所が悪過ぎる。狭い廊下でギャラリーも巻き込まれる。明らかにやり過ぎだ。

 最悪の事態に気付いてないのか、魔力粒子を変換し終えた康秀は後は起動トリガーを切ろうとしていた。

「術式起動!」

 康秀が発動するその瞬間、浩明が動いた。





 康秀が起動トリガーを発した瞬間、浩明は魔力粒子をプラズマへと変換、左腕に纏わせてエネルギーを溜め込む。その拳を凪の真横の壁に向けて正拳突きを放つ。

「なっ!?」

 解放されたプラズマエネルギーをゼロ距離で受けた壁は耐久力を意図も容易く失い、 轟音と共に吹き飛ばされ、人が通れる程の穴を作る。

 予想外の行動に、誰かから呆気に取られる声が聞こえる。

「いくぞ」

同様に呆気に取られていた凪の腰に手を回すと抱き寄せて、空けた穴から飛び降りる。

「へ……うわあああぁぁぁ」

 悲鳴をあげる凪と共に地上に着地した瞬間、二人が飛び降りた穴から曝炎が吹き出た。




「た~まや~」

 着地と同時に飛び降りた先から吹き出続ける煙を見ながら愉快そうな笑みを浮かべている。

「あたたた……」

「おい、大丈夫……」

 着地したと同時にへたり込んで飛び降りた衝撃を緩和させようと腰をさする凪に思わず言葉が途切れる。着地した拍子にスカートがめくれ、黒のニーソックスで隠し切れない部分の生足と付け根の薄布がちらちらと見えている。それに加えてシャツの胸元から見える北半球の谷間の組み合わせという絶景に釘付けになっていると、飛び降りた時の衝撃で涙を滲ませていた凪が睨み付けてきたので慌てて視線を逸らす。

「アンタねぇ……」

 そこで、浩明がばつが悪そうに視線を逸らしているのに気付き、自分の姿を改めて見直すと、「ッ!!」と声にならない悲鳴と同時に顔を真っ赤にさせ、胸元を両手で隠し、背を向ける事で視線を完全に絶つと、「見るな馬鹿!!」と、理不尽な罵声を飛ばしながら慌ててスカートを直す。彼女にとって唯一の救いはギャラリーが浩明一人だけだった事だろう。

「あぁ、まぁ、あれだ。なかなかぐっとくる光景だったぞ」

「死ね変態!!」

 一応褒めたつもりの感想の返事は、ゴミを見るかのような蔑みの視線と共に返される。一応、褒めたつもりだったが、これ以上の発言は失言になりそうなので肩を竦めるだけにしておく。

「アンタねえ、飛び降りるなら先に言っておきなさいよ」

「すまんな、あの状況で最優先すべきものを考えた結果、これがベストだったんだよ」

「最優先?」

 立ち上がろうとする凪に手を貸しながら説明を始める。

「君も気付いていたと思うが、結城先輩が発動させようとした、いや発動させたのは広域殲滅型だ」

 途中、訂正を入れつつ続ける。

「あの狭い廊下でそんな魔法を放てばどうなるか、それを考えたら最優先すべきはひとつ、君の安全確保を選ぶべきだと判断したまでだ」

「え?」

 思ってもいなかった理由に凪の表情が固まった。しかし、浩明はそれに気付く事なく続けた。

「成り行きで手伝ってもらっているとはいえ、私は君の事を気に入っているし、何よりその綺麗な顔に怪我でもされては困りますからねえ」

 凪の頬が熱に浮かされたようにみるみる赤くなっていく。

「もし、君に何かあったら私は……、おいどうした?」

「!!」

 その変化が、最高潮に達して漸くその変化に気付いた浩明が、心配するようにその紅く染まった頬に手を触れた瞬間、びくりと全身を震わせると、その手から逃れるように勢いよく後ずさりをしようとして浩明が吹き飛ばした瓦礫に足を取られて地面に臀部をぶつけて、スカートがめくれて、さっき以上の痴態を晒しているが、そんな事を気にする事無くそのままの体勢で後ずさりながら二メートル離れた壁にぶつかって背を預けて止まる。

 不意討ちで異性に「君の事を気に入っている」、更に「綺麗な顔」と言われて、交際経験のない凪に平静を保てる訳がない。

「あ、ああああんた、な、なななんて事、い、いい言ってんのよ!」

 頬どころか顔全体を紅く染め、しどろもどろの呂律の回らない口調で口をパクパクとさせ、動揺と羞恥の混ざった顔で浩明を見ていても、その姿を責めれる人間はおそらくいない筈だ。

「あのさ、私なにかおかしな事言ったか?」

「うっさいこのド天然!」

 おまけに、なぜ凪がこのような反応をしたのか分かっていないのだから始末が悪い。

 -別の意味でとんでもない破壊力だわ

 頭に?マークを浮かべているのが丸見えの浩明の言動に、ある意味ら理不尽な罵声を浴びせるも、浩明には柳に風、全く気にする事なく言い返す。

「文句は後で聞いてやるか、早く立ってくれる? 目のやり場に困るんだけど……」

「見るなバカ---!!」

 悲痛な叫びが響き渡った。



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