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「意外ね」
「何が?」
「里中さんへの対応よ」
一般解放されている屋上に移動して昼食を取りながら携帯端末を操作して情報の整理をしていると、隣に座り、購買で買ってきたフルーツサンドイッチを片手に凪が口を開いた。
「星野の事だから、里中さんの事を徹底的に糾弾するって思ってたわよ」
部員勧誘の時とは違う、大人しい対応はある意味浩明らしからぬ対応だった。
「お前な、私の事をどういう人間だと思って見てるの?」
「聞きたい?」
「やめとく」
断ってから、凪に買ってきてもらったペットボトルのお茶を流し込む。聞いたら洒落にならず凹みそうな気配がする。
「で、どうして何も言わなかったの?」
「これ以上、傷口に塩擦り込んでどうすんだよ」
持ってきた弁当をつつきながら、凪を見た。
「自分の意志でやったのならともかく、彼女は脅されて無理矢理書かされた被害者。ならばこれ以上言うのは酷だろ? それに」
「それに?」
浩明が一呼吸置くと凪が聞き返した。
「里中さんは本当に責任感の強い人なんだろうね。今調べてたんだけど橘先生、昨日から出張中で本当に一人で苦情の対応をしていたんだよ」
「あぁ~、納得したわ」
携帯端末から授業の休講の情報を出して凪に見せた。
「ところで、さっきから何を調べてんのよ?」
空いてる手で携帯端末を操作して、空間ディスプレイを何枚も立ち上げて、その全てに目を通していってる。何枚かを覗いてみるとWebニュースのようだった。
「動機を調べてるんだよ」
「動機? 犯人が分かったの!?」
驚いて凪が浩明に詰め寄った。
「こら、近い近い」
凪が詰め寄った結果、胸にある年相応以上の物が浩明の腕に押し付けられていた。その結果、浩明からは、彼女のシャツの隙間から覗くそれが圧迫されて強調された谷間が丸見えだった。
「うわぁ!」
言われて気付いた途端、小さく悲鳴をあげ、顔を真っ赤に染めて後ずさりして離れた。
「なんならずっと押し付けてていいぞ」
「やるか変態!」
その姿を茶化すと、罵倒の言葉が返ってきた。
「ま、冗談はさておき」と一息つけると「色々と気になる点は多々あるけど、大体の目星は付いてる」と凪に言った。
「気になる点?」
「このネタをリークした犯人は何の為にこんな馬鹿げた事をしたんだろ?」
「星野と天統さん達とを争わせる為……とか?」
恐る恐る凪が答えた。
「正解。で、問題はその後はどうなる?」
「その後って……それが目的じゃないの?」
意味が分からず聞き返した。
「あくまでもそれは犯人にとって目的の為の過程にある筈、つまりドンパチやった後に犯人は何をするのか、それの手がかりを探してるんだよ」
「なるほど。それで、どうして生徒会の事を調べてるの?」
浩明が見ている記事は過去数年分の生徒会関係の資料だった。
「あの馬鹿が生徒会室で言ったタイミングでこの記事が配信されたのなら、生徒会関係に原因があると思ってね。
それとも、君が誰かに口を滑らせてリークされたなんて考えたくもないんだけど?」
「あ、それは考えなくていいわ」
即答で凪は否定した。
仮にそんな事態になっていたら、浩明の隣に座って昼食など取れる筈がない。
「それで何か分かったの?」
「さっぱり分からん」
「はい?」
浩明の答えに肩すかしを受けた凪の声が半オクターブあがった。
「大体、編入して間もない私があの馬鹿共の確執なんか知るわけないだろ」
浩明の言い分も最だ。この学校に天統家の一族がいるのを承知で来ているが、そんなきな臭い所まで知っているわけがない。そこまで知っていたら間違いなくストーカー予備軍と呼ばれてもおかしくないだろう。
「分かったのは生徒会が去年まで予算を湯水のように使い込んでいたって事くらいだな」
生徒会のインタビュー記事に掲載されている写真を拡大して凪に見せる。
「これが三年前、こっちが二年前、でこれが去年、見て何か気付かない?」
「何か……って役員?」
「アホか!」
古典的なボケに凪の頭を軽く叩いて突っ込んだ。
「背景に写っている備品、前年度と違うのが多すぎないか?」
「本当だ」
「ま、この件には関係ないと思うけどロクな予算運用をしてないって事だけは確かだね」
年度末に増える道路工事のようなものだと切り捨てた。
「じゃあ、どうするの?
行き詰まってるって事じゃない」
「そうだなぁ……、ここは関係者に話を聞いてみるか」
「関係者って生徒会のメンバー?」
「いや、ここは外堀から聞いていこう」
生徒会の外部メンバーのリストを見ながら言った。