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四時間目の授業時間中、新聞部に来た凪は部長である里中絵里さとなかえりに睨まれた。単位制の青海高校では受ける授業を学生が選ぶ事が出来るので、その時間の授業を取得していない部員がいる筈、と訪れたのだが、責任者がいたのはある意味、僥倖だった。

「あなた……」

「どうも、星野浩明の代理の灯明寺凪です。星野本人がちょっと外せない用事があって来れないので代わりに私が来ました」

 凪がここに来た理由を言うと里中は「何の用?」とうんざりしたように聞いてきた。

「分かってると思いますけど、昨日のWebニュースの件なんですが」

「またその話! 朝から苦情が殺到してて対応に追われてやっと落ち着いたところなのよ」

 どうやら午前中の授業を全て休んで彼女一人で対応していたようだ。

「それはお疲れ様です。私は苦情を言いに来たんじゃないんで安心してください」

 凪の言葉に、里中は安堵のため息を漏らすが、続けて出てきた言葉に表情が凍った。

「今回、星野が受けた精神的苦痛に対する慰謝料だけ頂ければすぐに引き上げますから」

「慰謝料? どういう事よ」

 里中は冷静を装った口調で応対した。

「彼、事実無根の記事が原因で天統さん達の取り巻きに襲われかけて、更に冤罪を掛けられたんですよ。当然の請求ですよね?」

「ふざけないでよ。こんな金額払えるワケないでしょ!」

 相場の慰謝料が書かれた資料を見せてから同等の金額を要求すると、里中は声を荒げた。

「じゃあ、学校側に請求する事になるわよ。学生の不始末は学校側が責任を負う義務がありますから」

「何ですって……」

「それも断られたらこの記事と一部始終をマスコミに話すって言ってましたから、大人しく払った方がいいですよ」

「待ちなさいよ」

「要求に従ったほうがいいですよ。昨日の今日で事件としてニュースに出ていない理由って、天統さん達が星野の事を犯人だと思い込んで庇ったからで、犯人が星野じゃないと分かったら被害届を出すはずですよ。そうなったらどうなりますかねぇ……」

 凪が不適な笑みで追い詰めるようにたたみ掛けた。

「冗談じゃないわよ! 私達だってこんな記事なんか書きたくなかったわよ」

「やはり、そうだったか」

 里中が感情を露わにし、凪に怒鳴りつけたと同時に、新聞部のドアが開けられた。

「灯明寺、憎まれ役をさせてすまなかったな」

「別にいいわよ」

 開けた人物こと浩明は、凪の頭を撫でながら言った。

「里中さん、灯明寺の事を悪く思わないくれよ。わざと怒らせるように言ってもらってたんだ」

「どういう事よ?」

「口止めされてたら素直に応じてくれそうにないと思ってね」

「成程ね……、まんまとはめられたわけね」

 意図を察した里中は力無く溜め息を漏らした。

「察するに脅されてた……というところかな?」

「そうよ」

 開き直り諦めのため息を漏らして椅子に座り込んだ。

「どうして脅されてたって分かったのよ?」

 凪が小さく挙手をして聞いてくる。

「ここ最近の新聞部の配信したニュースを一通り読ませてもらったんだけどさ、内容は、学校行事の写真、各部活動の取材、表彰された学生へのインタビュー、OBの活躍の切り抜きと、まぁ、学校新聞らしいほほえましい記事だらけだ」

 新聞部が配信したWebニュースを次々と空間ディスプレイに表示していく。

「配信するニュースを決めているのはあなたですよね」

「えぇ」

「その中に、このような三流ゴシップ記事の配信を新聞部の人間が自ら決めたとは思えなくてね」

「それで脅されてるって思ったわけだ」

 浩明が言おうとしている事を凪がまとめた。

「私に恨みを持ち、尚且つあの連中に喧嘩を売ろうとする事が出来る命知らずが都合よく新聞部にいた……と考えるよりも説明がつくだろ」

「冗談じゃないわよ。新聞部にそんな人間なんかいるわけないでしょ」

「では、詳しい事情を説明してくれないかな。誰に脅されて書いたか、あの情報はどこから手に入れたのか、この記事に関わる全てをね」

 問題の記事を見せて、里中に本題を切り出した。

「そ、それは……」

 しかし、里中は何故か、浩明達から目をそらして、躊躇するように歯切れの悪い口調で答えた。

「なんか問題でもある?」

「いや、その……」

「里中さん、脅されていた内容は話さなくていいから、情報をどこから手に入れただけ教えてくれないかな」

 脅されていたなら話しても大丈夫な筈なのに何故、躊躇する必要があるのか、浩明がもう一度促すと、横から凪が口を挟んだ。

「おい、何勝手に口を挟んで」

「必要なのは情報だけじゃない。彼女の弱みは関係ないわ」

 抗議する浩明に間髪入れずに反論して黙らせた。

「それなら、話してくれるわよね?」

「それなら……」

 凪の折衷案に里中は応じて話し始めた。



 事の経緯は単純なものだった。

 大会前の取材中、彼女の携帯端末に「お前の秘密を握っている。バラされたくなければこちらの指示に従え」という内容の電話がきたそうで、当初は「こんな不確定な記事は書けない」と拒んだものの、脅しに屈して泣く泣くその指示に従って記事を書いたのだそうだ。

「なんと言うか……、あまりにもベタな手口ね」

「こんな事になってしまってごめんなさい。全ては私の責任よ」

 凪が苦笑してボヤくと、里中は浩明に頭を下げて謝った。

「ひとつだけ聞きたいんだけど、記事の配信の決定権が君にある事を知っている人に心当たりってある?」

「友人はみんな知ってるわ。あと、顧問の橘先生かな」

「分かった。ありがとう」

 里中の言葉を聞き終えると浩明と凪は新聞部を出た。




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