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おはシャッスです。

今回は「再会は決別」がテーマです!

 兄弟の再会は歪だった。

「どうも初めまして、星野浩明です」 

 天統総一郎達四人の前で、かつての弟、浩明はわざわざ席から立って一礼した。完全に初対面の対応だ。

「お、おい、浩明、『初めまして』はないだろ?」

「そ、そうですわ。私達が誰だか忘れてしまったんですか?」

 かたや兄の総一郎と妹の雅は強張っていた表情を崩して、ぎこちなく笑みを浮かべて挨拶してきた。

「初対面のくせに馴れ馴れしいっすね…名前知らないけど取り巻きはべらせてる有名人でしょ。」

 別に知りたくもないけど、と付け加えておく。それよりも見ず知らずの有名人にまで名前を覚えられてるのはちょっとやりすぎたか。

「まぁ別に構わないんだけど道塞ぐのだけはやめたほうがいいよ」

「そ、それは悪かった……ってそれじゃなくて!」

 謝ろうとして雅が突っ込んだ。

「それじゃない……、あっ、食堂の時にいた子だよね。あの時は弁護してくれたのって君だよね? おかげで助かったよ、ありがとう」

 面と向かってのお礼がまだだったので、雅の前まで行き、その手を取って感謝の言葉を述べた。

「あ、どうも……じゃなくて」「えっ、違う? じゃあ、あれかな……先週の銀行強盗、あれえげつない事してたねぇ。こっちが上から狙撃しようとしたら『渡りに船』で先に手を出したでしょ?」

 食堂の一件ではないようなので、先週起きた銀行強盗の事を話題に出した。見つからないようにしていたが念のための確認だ。

「あれ見てたのか……って、看板と窓ガラスやったのお前だったのかよ!?」

「あ、いっけね……まぁいいか、もう魔術師だってバレてるし」

 失言を失言じゃないと納得させるように呟いた。

「そうじゃなくてな、お前、俺達が本当に誰なのか分からないのか?」

 念を押すように丁寧に総一郎は浩明に聞いた。

「お兄さん方ねぇ、自分達が取り巻きはべらせるほどの有名人だからって、初対面の人間が自分達の事を知ってて当然だって考えはやめたら?」

 その態度にうんざりした浩明は呆れたように二人を見た。

「な、何を言ってるんだ。俺達は兄弟だろうが!」

「そうですわ。お兄様」

「兄弟!?」

「へぇ……、こりゃ驚いた」

 総一郎と雅の言葉に驚きの声を挙げたのが慶、腕を組んで事態の静観を決め込んだのは橘の方だ。小早川は無言のまま総一郎達と浩明を交互に見ている。

「あぁ……、悪いんだけど君達、誰かと勘違いしてない? 私、妹なんかいないし、兄は英二兄さん一人だけなんだけど?」

 しどろもどろになりながら、二人は浩明に言い返したが、それを切り捨てて否定した。

「おい浩明、お前、本当に何を言ってるんだ?」

「総一郎君の事も雅ちゃんの事も忘れちゃったの?」

 浩明の受け答えの異常さに看過しきれなくなり、康秀とこのみが総一郎達に助け舟を出すように口を開いた。

「生憎、画面のなかの女の子を嫁だの妹だと言う知り合いはいますけど、初対面の赤の他人を兄だ弟だと言ってくるような知り合いなんかおりませんが?」

 ネットの友人の家に遊びに行った時、「俺の嫁だ」と言ってパソコンのなかの女の子の画像(ベッドに横たわる下着姿の女の子)を前に延々と語られたのが可愛いくらいだ。

「二次元のキャラまでは許せるけど、現実の人間でそれに走るってちょっと引いたぞ」

「お前……とことん二人を変質者に堕としたいのな」

 ドン引きの浩明の姿に康秀の苦言が漏れる。お互いに会話が平行線のままだ。

「浩明、いい加減にしろ!俺だ、天統総一郎だ!」

「天統……あ、あぁ」 

「やっと思い出したか」

 安堵の声を漏らす総一郎に対して、浩明は四人に向けていたしせんが怪訝なものから軽蔑に変わった。

「これは失礼な事を。捨て子だった私を拾っていただいた恩人を忘れるとは」

「な、何、捨て子!?」

 安堵から一転、驚愕に変わった。

「捨て子っておま、一体何を言って……」 

「あんな落ちこぼれが血を分けた兄弟なわけないだろ。父上がどっかで拾ってきた捨て子だ。むしろ拾って世話してやってるんだから感謝こそされても恨むなんてお門違いだ……確かそう申されたのは御当主殿でごさいましたよね」

「!!」

 あれは、忘れもしない10歳の時だ。この二人は、友人に浩明の事を聞かれた際、血の繋がった浩明を「捨て子」だと言って「一家の恥だ、死ねばいいのに」と笑いながら話していたのを聞いてしまったのだ。

 浩明にとって忘れたくても忘れられない、思い出したくもない記憶である。血を分けた兄から言われた言葉は、いつか認めてもらえるだろうと抱いていた希望を粉々に打ち砕き、どん底に叩き落とした。

 それ以来、泣く事も笑う事もなくなり、励んでいた修業もやめ、食事もせず、学校にも行かず部屋に籠もり、二人の希望通り死を待つだけの生活になった。いじめられ続けていた浩明を哀れに思い励ましていた使用人にですらそれ以来、近付けさせなかったのだから日に日にやせ衰えていくのに時間はかからなかった。

 やがて立つことすら出来なくなった頃に、仕事の関係で引っ越しの挨拶に来た英二によって発見され、そのまま引き取る形になったのだ。

 後に聞いた話だが、「浩明は俺が引き取って育てる」と英二が父であった天統吉秀てんとうよしひでに言ったら「そんなゴミ、欲しければくれてやる」と言ったらしく、その言葉に逆上して、その場で殴りとばして病院送りにしてから絶縁状を叩きつけたそうである。曰わく「どっちにしろ出て行く時には殴る予定だったから別に後悔はしていない。」だそうだ。

「いや、申し訳ない。餌いらずの猫を飼い始めたとは思わなくてねぇ、まぁ取り巻き作ってた時点で気付くべきだったわ」

 相手が天統家の一族だと分かった途端、ひやかしを一転、軽蔑の眼差しで四人を見た。

「浩明……」

「そんな無理して馴れ馴れしく下の名前で呼ばなくていいですよ。端から他人なんですから星野でいいですよ」

「星野君、落ち着いて」

「会長さん、ちょっと黙っててくれません」

 浩明を宥めようとする慶に視線を向けず、感情のこもっていない口調で制した。

「浩明、あれは……」

「ご心配なく。別に怨んじゃいませんから。人生のどん底を経験したおかげで大抵の事には動じなくなりましたし、何より……」

 一旦区切って息を整える

「人の皮を被った犬畜生に人間の道徳を求めること自体が間違いだったんですから」

「ちょっ、ち、違…」

 反論するのを無視して、冷め切ったお茶を飲み干して喋り続けた喉を潤す。

「お茶の一杯、ご馳走様です。では失礼、目を洗いたいのでね」

 空になったマグカップをテーブルに戻すと浩明は生徒会室を後にした。





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