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おはシャッスです。
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皆さん、ありがとうございます!
少し短めですが切りがいいので投稿します。
「どうぞ」
目の前にはもうもうと湯気の立った紅茶が注がれたマグカップが置かれた。湯気から香る紅茶の香りが立ち上るが誰も手をつける様子がない。
「で、何の用ですか?」
慶が四人分の紅茶を置き終わり席に着くと、浩明は用件を切り出した。
「部員勧誘でやらかした私に対する査問? それとも懲罰委員会で出た処分の通知ですか?」
「そんなもの、紅茶片手にやるか!」
橘に突っ込まれた。
「星野君、そんなつもりで呼んだんじゃないからね」
「すいませんね、昔からお偉いさんに呼ばれる時はストレス発散目的の暴行が当たり前だったもんですからね」
「暴行って……君は一体どんな人生を送ってきたんだ」
思わぬ単語に明美が思わず聞いた。
「ご想像通りの人生ですよ。私は捨て子でね、最初に引き取った家がロクデナシでしたからね」
天統浩明として生きてきた十年間、魔術師として魔法が使えない落ちこぼれだった天統浩明は物心ついた頃から一族の人間から蔑まれ、周囲の顔色を伺いながら生きてきた。
「能無し」と罵られ、「一族の面汚し出来損ない」と殴られ、実の両親からは「生むんじゃなかった」と言われ、愛情というものを受けた経験がなかった。
それでも、いつかは「認めてくれる」、そう信じて鍛錬に励んだが周囲からの目は冷ややかだった。
母親は「無駄な努力だ」と否定され、親戚達からは「修業の手助け」だと攻撃魔法の標的にされ、その光景を見て一族の大人達は止めるどころか煽ってきたくらいだ。
「不幸自慢じゃないですが……茶が不味くなる話ですから止めましょう」
当時の事を思い出してしまい、話を打ち切った。三人もそれ以上は聞こうとしなかった。
「で、会長さんは何の用で私を呼んだんですかね」
「えっ、あ、そ、そうだ、それだよ」
重い話から一転、用件を切り出すと、慶はしどろもどろになりながらも、取り繕うように手をポンと軽くたたいて本題を切り出した。
「私達生徒会は、この青海高校をより良い学校にしたくて活動しているの」
「より良い学校?」
「そう、それで普通科の星野君にも意見を聞きたくて呼んだんだよ」
「意見?」
―この人は何を言ってるんだ?
そう言いかけたのを怪訝な表情を浮かべて止めた。「より良く」以前の問題が目の前に山積みなのを気付いてないのか? 笑顔で聞いてくる生徒会長を思わず凝視した。
「星野君、なんでもいいからあなたの意見を聞かせてくれないかな?」
「意見ねぇ……」
「星野、言いたい事があるならハッキリ言え」
「そうだよ」
言い淀む口調の浩明を明美と慶が促す。二人に促されて浩明は重い口を開いた。
「でしたら……まずは魔術専攻科の学生全員に道徳の授業を必修化させたらどうですか? 小学一年生が習うところからやり直させたほうがいいですよ」
「なっ!」
「貴様!」
浩明の言葉に慶と橘は絶句し、小早川が机を叩いて立ち上がった。
「あら、どうしました? 『ハッキリ言え』って言ったからハッキリと述べさせてもらったんですけど」
三者三様に予想通りのリアクションだったので狼狽える事なく聞いた。
「君は随分と過激な事を言うな。今の発言、来週の生徒総会で言ってたら血祭りだぞ」
「そりゃ面白い。どっちが血祭りになるのか楽しみだ」
「面白いって星野君?」
橘が警告すると、むしろ楽しそうに笑みを浮かべて答えた。どうなるかは言わずもがなである。
「貴様、普通科の分際で!」
「ほらそれだ」
テーブル越しに浩明の胸ぐらを掴もうとする秀俊の言葉を聞いてそれを指摘した。
「生徒会の副会長ですら『普通科の分際で』って見下してんですよ」
「あ!」
慶が浩明の言葉の真意を察してはっとなった。
「生徒の見本になるべき生徒会の人間がこれですからねぇ……手始めに『弱い者いじめはやめましょう』から始めたらどうですか?」
「星野、その位にしといてやれ。小早川、お前も座れ」
橘が浩明を止めて、小早川にも座るように促す。
「星野、お前はずけずけ言い過ぎだ。少しは抑えろ」
「真実は時に辛辣になるものですよ」
橘の注意を、浩明はかわすように返した。
「明美ちゃん、私は大じょ……」
その時、タイミング悪くドアが開いた。
「失礼します」
「ふくかいちょ~、ぶっ飛ばしていい?」
「このみ、手が腐るぞ。やめとけ」
「お前もな」
一人目以外は挨拶とはいえない挨拶で四人の生徒が入ってきた。どうやら他の役員だろうと、そちらを見た浩明は四人の顔を見た瞬間、
「あ……」
思わず声をあげていた。四人のほうも浩明の姿を見た瞬間、表情が凍りついて歩みを止めた。
「浩明?」
「どうも初めまして。星野浩明です」
星野浩明と天統総一郎と雅兄妹、結城康秀とこのみとの再会は呆気ない一言から始まった。
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