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午前零時にシャッスです!
初めて予約投稿してみました。
捻くれ者の本領発揮です。かなりえげつない対応をしますのでご了承ください。
風紀委員の橘の配慮に浩明は苦笑を漏らした。声を掛けられる行為が目立つ教室ではなく、廊下だったからだ。
「なんか用ですか?」
「あぁ、君を迎えに来たんだ」
「おかしいな、先輩からのデートの誘いなんて受けた覚えがないんですがね」
浩明が本題をはぐらかすように答える。
「私じゃない。生徒会長からだ」
「会長? なんで」
思わぬ人物の名前が出たので、浩明は聞き返した。
「なんでって、会長が君にメールを送ったはずだぞ」
「メール?」
「私の前で送信していたから間違いなく届いているはずだ」
ローカルネットワークの発達により、企業、高校など閉鎖空間内でのネットワーク回線は格段に進歩した。青海高校では、携帯端末からローカルネットワークに接続する事が義務化されており、そのネットワークを通じて、学園側からの通知や課題をデータ化して送信している。更には、学生同士でもデータやメールのやり取りが可能になりコミュニケーションに一役かっているのだ。
「もしかしてまだ読んでないのか?」
「メール、メール……?」
呟きながら、ローカルネットワークに接続された携帯端末の履歴を確認していく。
「もしかしてあれかな……」
「思い出したか?」
「昼過ぎに生徒会のロゴが入っていたメールがきてましたね」
「それだ。読んでなかったのか?」
「間違いだと思ったんで読まずに削除しました」
「君はなんて事をしてるんだ!」
途端に怒鳴られた。
「読まずに削除って何を考えてるんだ?」
橘は呆れた声で浩明を見た。
「いやぁ、落ちこぼれと有名な普通科の私に生徒会からメールが来る事自体が間違いだと思いましたが」
「落ちこぼれ」の部分を強調して答えてくる。
―なんでそう自分を卑下するかね
橘は頭痛を起こしそうになった。浩明は「落ちこぼれの普通科」などというカテゴリーには到底当てはまるわけがない。
食堂と部員勧誘の一件以来、魔術専攻科の学生による浩明への対応は、恐れてさける学生が5割を占めている。逆に名前を挙げようとして返り討ちされる命知らずが3割、全ての言動に耳を塞ぐようにして我関せずを貫いているのが1割9分、積極的に関わろうするのが一分(いうまでもなく灯明寺凪の事である)となっている。
その特殊な術式と、言動も相まって魔術専攻科では「イレギュラー」というありがた迷惑なあだ名で呼ばれている位だ。
「少なくとも会長と私は君の事を『落ちこぼれ』などとはおもっていないぞ」
「さぁ、口ではなんとでも言えますからねぇ……で、その生徒会長さんが私に何の用ですか?」
あくまで信用していないが話だけは聞いておこう。
ありありと見えるその態度に眉をひそめた。
「会長が君と話がしたいそうだ。付いてきてくれないか」
「お断りします」
言い終わると同時に返事が返ってきた。
タイムラグゼロの即答で浩明は誘いを断った。当然の選択だ。
「なんの躊躇もなく即答だったな」
「いやいや、当然の結果ですよ」
皮肉を精一杯の笑顔で返した。
「どうして断るんだ?」
「用事がありますので」
「用事?」
「昨日買った本を読みたいんですよ」
「なるほど……つまり暇って事だな」
理由を一蹴した。
「いえ、ですから暇じゃないんですよ」
「茶の一杯に付き合うだけでいいから付いて来い」
なおも断ろうとするのを一喝された。
「一杯だけですよ」
念を押した。
青海高校は教室のある校舎、実習に使われる実習棟、部活動の部室が集まった部室棟、会議室や図書室、職員室のある事務棟に分けられている。
移動には二階の渡り廊下からの移動が一般的となっている。一階からの移動も可能なのだが、各建物との間に中庭があり、通り抜け可能にする為、一階の渡り廊下には壁がなく、中庭に行く目的以外には使われていない。この高校の設計者の妙なこだわりだと言われている。
―ムダに豪華な部屋だ
浩明が生徒会室に抱いた印象はその一言に尽きた。
空間モニタのパソコンや設備機器、事務作業に必要なのは分かるが全て最新型モデルのものだ、更に最新型のTVや、簡易の給湯設備まで設置されている。
「学費の三割はここの設備ににつぎ込まれている」、そう言われたら、それが例え嘘だとしても信じることは出来ないだろう。
「会長、星野を連れてきました」
「明美ちゃんご苦労様」
声に反応して意識を声の主に向けた。おっとりとした雰囲気が似合う女性生徒とあからさまな敵意を込めた男子生徒が立っていた。
「こんにちは、星野君。生徒会長の大谷慶です。よろしく」
女子生徒の方が笑顔を向けた。
「どうも、星野です」
それに対して浩明もおどけた笑顔で返した。
「こちらは副会長の……」
「小早川秀俊だ」
慶の紹介に先んじて事務的な口調で名乗った。不機嫌を隠すことないその態度で接してくるが生憎と慣れているので気にしないことにする。
「どうも」
慶に対しての笑顔とは違うポーカーフェイスの笑顔で応じた。
「さぁ、立っててもお話ができないわ。みんな、席に着きましょ」
二人の微妙な空気を先んじて打ち消すように促された。
会議に使われていそうな一枚板の長テーブルに向かい合うようにして片側に慶、小早川が、向かい合うように慶の前に浩明が、小早川の前に橘が向かい合うように座った。
「あ、お茶を淹れるわね」
「会長、そんな事しなくても」
立ち上がろうとする慶を小早川が止めようとする。
「おかまいなく。話が終わったらすぐおいとましますから」
せっかくの好意だが、きっぱりと断った。
―長居は無用だ
斜め向かいの小早川の態度を見てそう決めた。もともと来たくもなかったのだから都合がいい。
「小早川君、そんな言い方はないでしょ」
「ですが……」
「星野君も、そんな冷たい事を言わないで飲んでいって。いいお茶があるのよ」
浩明に対するあからさまな態度をたしなめてから、一度断った浩明にもう一度すすめてくる。
「お気遣いなく……ってか、学校の予算を私物化してお茶を仕入れてるんですか?」
「生徒会で飲んでるお茶は、会長が家から持ってきてるんだ」
断りついでに皮肉混じりに返したら、橘がその皮肉を否定した。
「みんなで集まった時、美味しいお茶の方がいいでしょ?」
「なるほど……ではなおの事お断りします」
納得した反応を見せた浩明は、今度はきっぱりと断った。
「権力者からの贈賄など受けとうごさいませんから」
「贈賄って……お茶の一杯で大袈裟な」
「その一杯が菓子になり、菓子が食事になり、食事が酒になり、最後は金になる。どっかの税務官の自伝にそう書いてましたよ」
「お前なぁ、一杯だけ付き合う約束だろ」
その言葉に押し黙らされる。橘はそれを納得したと受け取ると
「会長、お茶を四人分淹れてくれ。極上に熱いのをたっぷりと……な」
簡単には帰さない。分かりやすすぎる言葉に浩明は観念した。
前回のクイズ、元ネタ分かった方おられましたか?
正解は劇場版の「HERO」です。
差し歯一本に百万円取る代わりに患者のプライバシーを完全に守る歯医者を参考にしました。
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