16
仕事の合間にシャッスです!
今回のネタはある映画のオマージュがあります。
分かりますかね?
ヒントはあとがきで……
では、本編をどうぞです
浩明に続いて凪が手押しでドアを開けて店内に入ると息をのんだ。
電子書籍が主流となり本屋へ行く事自体が希である。
週刊誌ですら電子書籍化して自宅で購入可能な時代にわざわざ本屋に足を運びに行く必要がなく、凪が感嘆するのも不思議ではない。
「本が一杯だ」
「当たり前だろ。本屋なんだから」
客がまばらな店内で凪の声はよく響いた。
「確か……間違いない。こっちだ」
携帯端末を見て目的のものを確認していた浩明は、珍しいのか周りをきょろきょろと見回している凪について来るよう促した。
「ねぇ、寄り道はいいけど、何しに来たのよ」
「いいからついて来い」 後ろから聞いてくる凪に前を見ながら答える。
「何買いに来たのよ」
「まだ決めてない。これから決めるところだ」
「はぁ?」
―意味分かんないんですけど?
先を行く浩明の背中を見ながら、凪が眉をひそめた。
買いたいものがないのに買い物に行く発想が凪には理解出来ない。
―実は教えるつもりがなくて時間稼ぎのつもりかしら?
そんな姑息な発想をする凪とは裏腹に、浩明はレジの女性店員の前に立った。
「あの、探してる本を検索したら、倉庫の中にあるって出てきたんですけど、探しに行きたいんで倉庫を開けてくれませんか」
浩明の言葉に頭の中でクエスチョンマークを凪は浮かべた。
―何言ってんの?
「何を買うか決めてない」と言いながら「探し物があるから探させてくれ」と店員に話し掛ける。常識外れな頼みにますますもって意味が分からない。
「探す? あなた達が?」
「えぇ」
女性店員は少し驚いたように目を大きく開けて二人を見た。
「ふぅん」
「何か?」
「いや、若いなぁって思っただけよ」
―それはそうだろう
店内に同年代の子がいないのを見ながら凪は思った。
「こっちよ」
女性店員はニヤリと笑って二人をバックヤードに案内した。
「ここよ」
倉庫と言われて案内された場所は、想像していた倉庫とはまるで違っていた。 本が一冊ずつ丁寧に本棚に入れられており、小さなテーブルと一対の椅子が置かれ書架庫と呼ばれても違和感がないくらいだ。
本の入った段ボールが山積みの中から探すのを想像していた凪は肩すかしをくらった。
「それじゃ、探し物が見つかったら声をかけて。ここに探しにくる人は他にもいるんだから」
「私達のような若いのも来るんですか?」
「えぇ、たまにあなたたちのようなカップルでね」
浩明の質問に、女性店員は閉めかけたドアを片手に答えた。
「そうですか……、まぁ、私達は彼女が満足したらすぐにでも出ますよ」
「彼女が?
へぇ……そっかなるほどなるほど、ふぅん、彼氏君も大変ね。じゃあ頑張ってね」
女性店員は勝手に納得すると出て行った。
部屋に残ったのは浩明と凪の二人だけ。
「ちょっと、一体何考えてんのよ? 買う物は決めてないんじゃないの?」
倉庫内を見回している浩明に、凪は疑問をぶつけた。
「買う物? ここに来た目的はここだよ」
「ここ?」
怪訝に首をかしげる。
「なるほど、噂通りだな」
「噂?」
本棚の上の壁を見ながら言うと、凪に自分の見ていた場所を指差して見るように促す。
「あれは、半永続式防音魔術?」
「そう、それとここの壁自体に電波妨害処理が施されているわけだ」
受信速度を示すアンテナが圏外と表示された携帯端末を見せた。
「それと、本棚に入っている本の値段を見てみな」
促されて凪は、本棚の本を一冊取り出した。自分が電子書籍で購入しているマンガだ。
「高っ! 何よこれ、ぼったくりじゃないの」
裏表紙の定価が塗りつぶされ、新たに貼られたシールには定価の約20倍の値が書かれたのを見て、思わず大きな声をあげた。
「それがこの倉庫の使用料ってわけさ」
「使用料……どういう事よ?」
この部屋の使用目的が分からず怪訝そうに聞き返してきた。
「この本屋が裏でやってるサービスでね。定価の数十倍の値のついた本一冊で完璧なプライバシー保護を提供している訳だよ」
「プライバシー保護?」
「見ての通り、部屋は、外部への音がシャットアウト、仮に盗聴しようにも完璧な電波妨害処理が施されているわけだ。つまり、密談には最適って事だ」
「なるほど」
ようやく分かったようで納得の声をあげる。
「さてと、ここがどういう場所か納得したところで説明を始めましょうかね」
壁際の椅子を出して座り、鞄を床に置いた。
「あんたね。こんな周りくどいことしなくても部屋で話せばいいんじゃないの?」
浩明に続くように凪も向かい側に座り、鞄をテーブルの上に置いた。
「私の術式は知られたらモルモット確定だからね。確実な安全が欲しかったんだよ」
「はぁ……、あんたの秘密主義には呆れる……って事は、それを教えてくれる私は、風紀委員の橘さんよりは信頼されてるって事かしら?」
ため息を吐いてぼやきかけたところで、凪は何かに気付いたようにニヤリと笑みを浮かべた。
「……なんであの人が出てくるのか知らんが、英二兄さん達が君に置いてる程度には信頼してますよ」
凪からの視線をそらすようにわざとらしく床の鞄を直しながら答える。
「ふぅん」
―本当に口の減らない男だ
それは自分を信頼していると言っているも同然じゃないか。
顔を真っ赤にして笑みをこぼしたくなるのを必死に抑えている凪を見ながら、
―なんか可笑しな事言ったかな?
凪が平静を取り戻すまで浩明は首を傾げて見ていた。
元ネタ分かりましたか?
ヒントは月9のドラマから映画化した作品です。
では、感想お待ちしてます!