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おはシャッスです。
前回までが張り詰めていたので、息抜きにギャグ回になってます。
ひねくれ者ながら義理堅い浩明の翻弄っぷりに乞うご期待です。
「遅くなってすまない、君のサイズのが見つからなくてな。約束の制服一式だ。受け取ってくれ」
「いやいや、いただけるだけで充分ですよ」
ひと騒動の後、橘は人だかりを解散するように促し事態を落ち着かせてから新品の制服を持って来てくれた。
しかし、目の前で着替えるわけにもいかず上着だけシャツを隠すように着込んだ。
「助かったぜ。これで露出狂にならずにすみましたよ」
「それはなによりだ。しかし、君はなかなかどうして面白い人間だな。喧嘩腰できながら頭を下げた途端、手のひらを返して応じる。馬鹿なのか単純なのかどっちなんだ?」
「さぁ? 相手を選んで対応しているだけなんですがね」
着ていたほうの制服に入れてあった私物を着替えたブレザーに入れ替えながら答えた。
「そうか、では私は眼鏡にかなったと言うことかな?」
「どうでしょう? まぁ、あの二人と違って魔術専攻科のなかでは話が通じる人だと思ってますよ」
「それは光栄だな。だが誤解しないでくれ。ああいう連中は魔術専攻科でもひと握りなんだ。彼等のせいで魔術専攻科全体をそのような目で見ないでくれないかな」
「ご忠告どうも。そういう事は自分で見て決めますよ」
「なるほど、姉さんに聞いた通りの捻くれ者だな」
「姉さん?」
呆れたようにため息をはいた橘の言葉に浩明は反応した。この高校で「橘」の名字がつく人間は一人しか思いつかない。
「姉さんってもしかして……」
「あぁ、君の担任である橘先生は私の姉だよ」
「そうですか」
―あの先生、私の知らない所でどう言ってくれてんだよ
「心配しなくても、君の名誉を貶す事は言ってないよ」
呆れたように目の前の橘を見ると、浩明の心情を察して言った。
「ま、そういう事にしておきますよ」
「そう言ってくれると助かるよ」
「あ、あの……」
切られたブレザーを鞄に押し込んみながら橘に応えると、自分が助けた女子生徒が声をかけてきた。
「さ、さっきは助けていただきありがとうございます」
女子生徒は勢い良く直角に頭を下げて礼を言ってきてから自分の名前は「京極紫桜」だと名乗ってきた。
「京極……どっかで聞いたような」 名字を聞いて聞き覚えのある名前に思い出そうと眉間に皺を寄せた。
「自分の学校の理事長の名前くらい覚えてないのか?」 呆れて橘が助け舟を出した。
「って事は理事長の娘?」
「いえ、あの……はとこです」
おずおずと訂正してきた。
「なるほど、それでみんなが君を取り合ったわけだ」
それを聞いて、みんなが自分の仮説通りの行動を取ったのか納得した。
「なんだ、本当に知らなかったのか。それで助けに行ったのかと思ったぞ」
「失礼な。嫌がっている女の子を助けるくらいの道徳は持ち合わせてますよ」
「そうか、すまない。君は噂ほど捻くれた性格ではないようだな」
橘が笑みを零した。
「そう思っていただけて何よりです。では、ちょっと用事が出来ましたんで、失礼しますね」
「そうか。今日はすまなかったな」
「いえいえ」
軽く挨拶を交わすと浩明は校門へと歩き出した。
「お疲れ様ーーあだッ!」
学校から自宅への帰宅路、生徒がいなくなるところで待っていた凪に問答無用でデコピンを入れた。
「いたたた……何すんのよ!」
額を押さえながら目尻に涙を浮かべて睨み付けてくる。凄んでいるのだが全然怖くない。
「お前な……、見てたんならもっと早く助けろよな!」
「ちょっとちょっと! 揺れる揺れる!! ゴメンナサイごめんなさい!」
両手で凪の頭を掴んで、思いきり前後左右に揺らしてやる。
「もぅ…悪かったわよ」
反省しているようなので手を離すと掴んでいた所を押さえて重心を整えるように頭を揺らしながら謝ってきた。
「まぁ、助けようとしてくれた事には感謝してるぜ。ありがとな」
「あんたね、怒るか褒めるかどっちかにしたら?」
「じゃあ怒られるか褒められるか、どっちがいいか選ばせてあげよう」
「んじゃ褒めるほうで」
「よ~しよし、ありがとよ。あの時助けに入ろうとしたのはお前だけだったな」
「なんか褒められる気がしないんですけど?」
「いい子いい子」と頭を撫でてやるとジト目で見てくる。
「おかしいな、近所の野良猫ならひと撫ですれば気持ちよさそうな声で鳴くのに」
「私は猫か!」
「じゃあ、どうどう……」
「馬!?」
右の首筋の辺りを撫でるように軽くたたいてやるとその手を払い、口をとがらせて抗議した。
「あんた、私を怒らせたいの? それとも喜ばせたいの? どっちよ」
「何言ってんだ。これでも灯明寺に感謝してるぞ。今なら君の頼みならなんだって聞いてやるぞ」
「ホント?」
口調と声の高さが一気に変わった。目が潤ませ完全におねだりする少女の瞳になっている。思わずくらっときた。今の凪から告白されたら間違いなく「こちらこそ宜しくお願いします」と即答で頭を下げてしまいそうだ。
「何でも聞いてくれるの?」
「も、勿論だとも」
上目遣いで見られて、思わずたじろいで視線を逸らす。
「本当になんでも聞いてくれるの? ウソじゃないよね」
「あぁ、男に二言はないぞ」
「じゃあ……」
意を決したように口を開いた。
「さっきの真剣白羽取り、どうやってやったのか教えて」
「なんだ、そんなこ……」
事と言いかけて、浩明ははっとした。
―ちょっと待て
危うく自分を見失う所だった。潤んだ瞳で上目遣い、甘い口調という餌をつけた釣り針を危うく飲み込むところだった。
―女は怖いなぁ……
声には出せず心の中でぼやいた。
自分が魔法に対して徹底した秘密主義を貫いているのを知っていながら踏み込んでくるのだから始末が悪い。
拒否するのは簡単だが、「二言はない」と言ってしまった以上、嘘をつく事になり後味が悪い。もし、英二兄さん達に「嘘つかれた」などと言われれば、何を言われるか分かったものではない。
仕方ないので最終手段に踏み切る事にする。
「あ、行きつけの本屋から、予約していた小説を入荷したって連絡があったな。急がないと」
ワザとらしく聞こえない振りをして逃げる事にした。
「外した!?」
いや、危なかったぞ。私が最初に人を疑ってかかる性格の人間じゃなかったらだだ漏れで喋ってたぞ。
閑話休題
「あんたねぇ……私の頼みならなんでも聞くって言ってなかった?」
逃げようとすると腕を凪に掴まれた。
「チッ、バレたか」
ワザとらしく舌打ちをしてみせる。ムダと分かっていながら現実逃避をするのは多少の気休めだと思う。
「やめとけ。聞いたって出来るような芸当じゃないぞ」
「そんなの聞いてみなきゃ分からないわよ」
忠告してもムダのようだ。
「心配しないで。誰かに喋るつもりはないから」
念を押して言ってくる。
―仕方ない
自分の言った事には責任を取るしかない。
「ついてこい」
浩明は短く促して歩き出した。
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