13
おはシャッスです!
今回は凪視点で進んでます。
主人公の毒舌?が冴え渡りです
不快になられないか正直心配です
―あの二人、終わったわね
私は確信した。
浩明の事はまだ分からない事だらけだが、確実に分かった事がある。
星野浩明という男は、頭がキレる捻れ者で、紫色の着物を着た噺家よりも腹黒だという事だ。
何故なら相手を敵と認識したら、どんな状況でも自分の立場を優位に持っていったうえで相手が手を出してくるように持っていき、自ら先に手を出す事がない。現に食堂の一件でも、相手が攻撃の意志表示をしてから反撃をして正当防衛を主張していたのがそれを証明している。
絶対に敵にまわしたくない男、凪は浩明をそう見ている。
「わりぃわりぃ、大丈夫か? うっかり手が滑っちまったぜ」
凪の思惑とは正反対に、浩明をニヤニヤと見下して言った。誰の目から見ても故意にやったのは明らかだ。
「おいおい、気を付けろよ。でしゃばった真似するからバチが当たったんじゃねぇのか?」
柔道部員も同様の下品な笑顔で相槌を打っている。
二人にされるがままだった浩明は、無表情で上段からの一閃により左胸から右脇腹を斜めに切り裂かれたブレザーを見ている。意図の読めない浩明の行動に全員の視線が注がる。
そのなかには見えないように拳を握って小さくガッツポーズをしている人がちらほらと見える。
―あいつ、ここにいるみんなに何言ったのよ?
野次馬に途中参加の凪は、浩明がここにいる人達を犯罪者呼ばわりした事を知らないので想像するしか出来ない。しかし、辛辣な言葉を浴びせたという事だけは分かる。明らかに被害者の浩明を見て溜飲をさげた顔をしているのだ。
―少しは隠しなさいよ
心の中で苦笑する。
そんなギャラリーの心情に気付いてか気付いてないのか、浩明は切られたブレザーをひろげて切り口を確認している。
どうやらブレザーのしたに着込んでいたカッターシャツとアンダーシャツにも被害が及んでいるらしく、服の下から肌がチラリと見えている。服の上から触っていた手のひらを見て、切られたのが服だけだと確認している。綺麗なままの手からそれが分かる。
それを確認し終わると、ブレザーのポケットから携帯端末を取り出して操作を始めだした。
行動の意図が分からず無言で見守っていると携帯端末を片手に構えて剣道部員と柔道部員に二、三度向けてから、全体を見まわすようにゆっくり一周、二周と携帯端末を向けている。
その最中に、私にも気付いたようで携帯端末から視線を外して直に私の方を目視で確認してきた。
―ずっと見てたのがバレたかしら?
瞬間、身を強ばらせるが浩明は気にする事なく携帯端末に視線を戻して、再び人だかりに向けて直してから満足したようでのか、別の操作を始めだした。
なんだろうスッゴく嫌な予感がする。運の悪い事にこの手の嫌な予感は外れた事がない。
「あ~、お嬢ちゃんお嬢ちゃん、ひとつ聞きたいんだけどさ」
それまでずっと無言で奇妙な行動を取っていた浩明がようやく口を開いて、京極さんを見た。
「は、はい!」
声をかけられた京極さんも驚いたようで素っ頓狂な返事を返した。
「あのさ、おまわりさんを呼ぶ時って110番だったっけ?」
空気が凍り付いた。
このバカ、厄介事に巻き込んでくれたわね。とんでもない事を口にしちゃったよ。
「おい待て! テメェなんのつもりだ!」
頭を抱え込んでいる凪とは対照的に、浩明の一言に過敏に反応したのは剣道部員の方だ。
「何するつもりって……傷害の現行犯を逮捕してもらおうと思って」
何を聞いてんだとばかりに答えている。完全に煽りの姿勢を取っている。
―この二人を徹底的に潰す気だ
凪は確信した。
「そんな事したらどうなるか分かってんだろうな?」
脅しが効いていない事に驚いた剣道部員が、今度は口と勢いで脅しにかかっている。
「どうなるか……あぁ、どうなるかねぇ」
飄々とした口調で浩明が続けた。
「まずは現行犯逮捕。逃げ道はありませんよ。証拠はこのなかに納めましたから」
携帯端末を見せるように掲げて切りかかった直後の写真を見せて逃げ道ふさぎにかかった。えげつないわね。
「それに証人としてここにいる皆さんの動画も納めてありますんで言い逃れは出来ませんよ」
トドメ刺したついでに私達に「嘘つくな」って釘さしてきた。
「誰がそんな事言えって言った!?」
「ご心配なく。たかだか前科持ちになるだけですから。
それに、少年犯罪ですから二十歳になれば少年鑑別所から出れるんじゃないですか? よく分かりませんけど」
二人の顔がみるみるうちに赤くなっていっている。
「お前がどうなるかって聞いてんだよ!?」
なおも続けた浩明の言葉を切り捨てて、虚勢を張ってなじるように言っている。
「私? 私がどうなるかって……」
こめかみに右手の中指を当てながら思案している。
「可哀想な被害者になりますかねぇ……。
あ、これマスコミが喜びそうなネタですよね。『強引な部員勧誘を注意した男子生徒に対して逆上した部員が斬りつけた』ってね」
切りかかった剣道部員の竹刀を握っている手が怒りを抑えるように震えている。柔道部員も同様に全身で襲いかかろうとしている衝動を抑えているようだ。
―これ以上煽るような事言わないでよ。
凪の願いもむなしく
「そうそう、部活動も活動中止……下手したら廃部ですかね?」
古今東西、問題を起こした学校は大会への出場は余程の事がない限り自粛される事になるだろう。
「というわけだ。柔道部と剣道部の諸君、君達の汗と涙の青春はここにいる二人のおかげで全くの無駄になったわけだ。謹んで同情させてもらうよ」
「こんの馬鹿野郎!」
「ぶっ殺す!!」
最後の一言が口火となり二人が襲いかかってきた。
「ありがとう、これで殺人未遂に格上げだ」
二人の攻撃を後ろにかわしながらも煽り続けている。どんだけ煽るつもりよ?
「この野郎! ちょろちょろと避けてんじゃねぇよ!!」
「避けさせてくれてたんじゃなかったの? あまりに遅いから動かないと失礼に値すると思っただけどね」
掴みかかってくる柔道部員を右へ左へとかわしてから足をかけて転倒させてから言った。 既に彼等のプライドはズタズタになっているのに更に傷付けいっている。何が目的なのか凪達は固唾をのんで見守るしかない。
「そうか、それでさっきは私の両手両足を拘束したわけだ。流石はエリート魔術師。弱い者いじめの仕方をよく心得ておられる」
肩をすくめて手をかざし、さぁ切りかかってこいと言わんばかりに挑発している。
「あるいは、二人がかりじゃないと勝てないと言う事でしょうかねえ」
「き、貴様あああぁぁぁ!」
剣道部員がコンバーターに腕を添えた。魔力粒子の変換プロセスに入った。さっきの脅しとは違い、本気で潰しにかかっている。
―ちょっとこれヤバいんじゃないの?
危険だと判断して止めに入ろうと、私が人ごみをかきわけていると、浩明がこちらを見ていた。
―心配するな
そう言われているような気がして足が止まった。
「どうやらお客さんの希望の展開らしいですね。分かりました。余計なチャチャが入る前に見せてあげましょう。
正面から受けて差し上げますから、かかって来て下さいな」
―見たいのは私の実力だろ、そんなに見たいなら見せてやる
私がここにいる意図を察したようで、肩に抱えていた鞄を地面におろして構えた。
「そこの柔道部、今度は野暮な真似しないでくださいね」
憎悪を込めて睨み付けてくる柔道部員に笑顔で注意している。目が笑っていないのが怖い。
「どうぞ、遠慮はいりませんよ」
両手をだらりと下げて無防備に構えた浩明に
「死ねえええぇぇぇ!」
術式起動を終えた剣道部員が怒号とともに竹刀を振り下ろした。
剣道部員は魔力粒子自体を結合させて構築する粒子結合の応用による刃物精製を使用した疑似の刀になっていたはずだ。それは真剣とは違い素手で触れれる代物ではなく、並の魔術師であっても素手で防ごうものなら確実に腕が両断されているはずだ。
そのひと振りは浩明の肩から胸元までを切り裂き、悲鳴が起こるはずだった。
しかし、凪達の前で起こった光景は、悲鳴ではなく絶句であった。
「なっ! な……」
振り下ろされるはずの竹刀を、浩明は真剣白刃取りの要領でを止めていたのだ。
刀身を覆う魔力粒子は間違いなく浩明を切り裂くはずだった。
しかし、実際は切り裂かれるどころか抑えられているのだ。
「な、なんでそんな事が出来んだよ……」
「この程度の粒子硬化魔法なんざ、簡単に止めれますよ」
―そんな事、どんな魔法使えば可能なのよ!?
凪の周りの人達からも同様に
「お、おい、なんだよアイツは……」
「あれ、なんの術式だよ?」
「あんな事が出来る魔法なんて見た事ないぞ」
お互いに確認しあうように言い合っている。
凪達がそうなのだから、当事者の動揺はそれ以上だ。
「ば、馬鹿な」
「なんだ、この位でビビって隙を作ってんじゃねぇよ」
それまでの不敵な笑みから一転、殺気を込めて掴んでいた竹刀を勢いよく引っ張って奪い、投げ捨てると、無防備になった剣道部員の胸に蹴りを入れた。
「あぁ、悪い。殺人未遂は撤回するわ」
常識を覆す光景に前にして浩明の声はよく響いていた。
「この程度じゃ、傷どころか服切るくらいが関の山だ。わざわざ構えておいて期待外れもいいとこだ」
うずくまり咳き込んでいる剣道部員に吐き捨てるように言った。
「さて、次は貴方ですよ」
「う……う……」
浩明が柔道部員を睨み付けて一歩、二歩と近づこうとすると、柔道部員はそれに吊られるように、一歩、二歩と後ずさっていった。
―完全にのまれたわね
人間は自分の分からない事に恐怖する生き物である。
彼の中の魔術師としての常識が崩れた今、目の前の男は恐怖の対象でしかなく、パニックを起こすのも時間の問題である。
そんな姿を見せられて彼に哀れんでしまうのは凪だけではないはずだ。
「なんで逃げるんですか? そちらさんの希望通りに接してるつもりなんですけどね」
残酷なほど皮肉な「満足か?」と言わんばかりの対応、柔道部員の最後に残った理性を奪うには十分だった。
「うわあああぁぁぁ!!」
人ごみをおしのけて、悲鳴をあげて無様に逃げる柔道部員に文句を言える人間は誰もいなかった。
ただひとりを除いて
「仲間を見捨てて逃げるとはなんて奴だ」
浩明は投げ捨てた竹刀を拾うと、その竹刀に魔力粒子を纏わせて槍状に形成した。
「自分のやった事の責任無視して逃げてんじゃねぇよ!」
浩明がその竹刀を槍投げの要領よろしく、勢いよくふりかぶって投げたそれは、場の空気に合わない軽快な音とともに柔道部員の背中に直撃して彼をのめり込ませて昏倒させた。
やられた仕返し自体は大した事ないのに浩明のやってることがえげつなさ過ぎるのは気のせいでしょうか?