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前回の回想編ですが、ちょっと追加エピソードを入れました。
読んでいただけると嬉しいです。
今回は回想編の追加エピソードを凪視点で書いてみました。
物語上、どうしても必要だと思いましたのでよろしくお願いします。
灯明寺凪にとって、星野浩明との出会いは衝撃的だった。
話は、夕さんの鶴の一声により浩明が頷いた後だった。
「ヒロ、藤原さんを呼んできてくれ」
「電話が終わってからでいいからね」
英二さんと夕さんに言われて、不届き者改めヒロ君こと星野浩明は「了解」と二本指で敬礼の真似と、ぶっきらぼうな返事をしてから部屋から出て行った。
一階に探しに行ったらしく階段を降りる音が聞こえてくる。
「あいつ、どういう奴なんですか?」
音が聞こえなくなったのを確認してから、二人に聞いた。
彼が戻ってくるまでの世間話には十分な話題だろう。隣りに引っ越してくるのだし、これから近所付き合いするのだから知っておいて損はない。
「凪ちゃん、ヒロ君の事、悪く思わないでくれないかしら」
「実の家族がロクな人間じゃなくてな……。落ちこぼれ扱いして虐待してたんだよ」
―うわ……、やっちゃったよ
どうやら地雷を踏んでしまったらしい。凪は頭の中で激しく後悔した。
「ヒロの元の名前は星野ではなく天統浩明、俺のいとこだ」
「天統って……あの天統家!?」
思わず声が大きくなった。
地雷どころか核弾頭を踏んづけてしまったようだ。
―これは踏み込んではいけない領域の話題だった。
自分の安易な行動を悔やんだ。
しかし、
「あれ、でも天統家って子供は二人じゃ……」
自分の記憶が確かなら、その筈だ。なにせ同じ青海高校の魔術専攻科なのだから間違う筈がない。あの二人はいるだけで取り巻きが出来る程の有名人なのだ。天統家に「子供が三人いた」なんて聞いた事がない。
「あそこのバカ親、俺がヒロを引き取ったら、天統家から存在自体抹消したんだよ」
「うわ……」
自分の疑問を見透かしたように英二さんが説明してくれた内容に思わず絶句してしまう。想像以上に根が深い話のようだ。
「英二さん、そこまで……」
「おっと……、言い過ぎた。今の話は忘れてくれ」
夕さんに名前を呼ばれて、言い過ぎた事に気付いた英二さんは無茶なお願いをしてきた。
「は、はぁ……」と曖昧に返すのがやっとだ。こんな話、「忘れて」と言われて忘れられるわけがない。だけどおかしな話だ。そこまでされているなら天統家に相当な恨みが有ってもおかしくない。それこそ「殺しても殺し足りない」という言葉が当てはまる筈だ。何故、この人達は天統家のテリトリーであるここに引っ越しを決めたんだろうか?
気になった凪は思い切って口を開いた。
「あの……、英二さん、ひとつだけ聞きたいんですけど……、なんで」
「あいや、みなまで言わなくていい。君の聞きたい事は分かる。なんでこの街に引っ越しを決めたかだろ?
その質問はヒロ本人に聞いてみたらいい」
「いいんですか?」
思わず声が大きくなり、目が大きく開いたのが分かった。本人に聞けとは予想外だった。
「構わないよ。薦めたのは俺達だけど、最後に決めたのはヒロ自身の意志だ。まぁ、あの二人が通っている青海高校を選んで受験するとは私達も思ってなかったけどね」
「しかも普通科にね」
「普通科!? 魔術師の彼が」
魔術師が青海高校の普通科に入る。
今日一番の衝撃に言葉を失った。青海高校の普通科の評判は悪い意味で有名だ。知らないで受験する筈がない。わざわざ自分で選ぶ意味が分からない。
ー気になる
実の家族に捨てられた苦い思い出のない場所に戻ってくるだけでなく、自分から『落ちこぼれ』のレッテルを貼ろうとする彼の意図が分からない。
知らず知らずに彼に興味を抱かずにいられない自分がいるのが自分でも分かった。
次回、急展開の予感が……
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