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昼休み中にシャッスです。

回想編の完結編になります。

是非ともお楽しみを~

「あたたた……」

 清涼飲料水入りペットボトルを保冷剤代わりに紅葉マークに当てつつ、私のビンタではじき飛ばされて歪んだ眼鏡の端を摘んで揺らしている、目の前の男の子改め不届き者は私を呆れたように見てくる。

 さっきされた行為を思い出してしまい、思わず顔を真っ赤にして、両手で胸元を隠すようにして、睨み返してしまう。

「お前、本気で叩きやがったな?」

「うっさい!」

 初対面の男の子への第一声がそれというのも初めてであるが、この不届き者は悪びれる様子がないんだから問題ない事にする。

「眼鏡、どうしてくれんだよ。これ最新モデルだから高かったんだぞ」

「それくらいなによ! 私の胸をタダで触れたんだから安いもんでしょうが!

それよりも本物って何よ本物って!、どういう神経してたら、そんな言葉が出てくんのよッ!」

 わざとらしく眼鏡を揺らして、凪に見せるように見せて言ってきたのを、反撃出来ぬように堰を切るようにまくし立て少女は返した。

「おかしいなぁ……、『これさえ言えば完璧! 訴えられない被害者へのフォロー集』にはそう言えば大丈夫って書いてあるのになぁ~」

「そんな本は捨てなさい!」

 羽織っていたパーカーのポケットから取り出した本を奪うと、窓の外に思いっきり放り投げた。

「あぁ、古本屋で37円で買ったお値打ち品が!」

 放物線を描いて飛んでいく本に手を伸ばしている。その姿に思わず同情しかけるが投げた本の値段を聞いて踏みとどまった。

 ―どこの古本屋で買ったのよ

 そう思わずにいられないのは凪だけではない筈だ。

「あんたねぇ、37円でそこまで落ち込む事はないでしょうが……」

「しょうがない、セクハラの慰謝料代わりと思って諦めとくか」

「随分と安く見るわね?」

 『慰謝料代わり』という言葉にカチンときた。

 自慢ではないが自分のスタイルにはちょっとした自信がある。

 中学時代には既にクラスの平均を上回っていたし、男子からは勿論、同性からも注目の的だった。

 女子からの羨望の眼差しには正直参ったし、男子からのからかいには鉄拳制裁を与えていたのは日常茶飯事だったくらいだ。

 しかし……、しかしだ。目の前の不届き者は凪の身体に興味がないとばかりに37円の安値を付けたのだ。人の胸を触ってきといて「本物?」と聞いてきたりといい、ここまで失礼極まりない男は初めてだ。

「君、自分の立場が分かってる?

不法侵入のうえに、無抵抗の一般人に魔術を行使、お巡りさんがここにいたら、逮捕状なしで留置場直行ものの事やってきといて、その位ですんだんだからいい方だと思うけど?」

「!!」

 正論なだけに言い返せないのが悔しい。唯一、言い返せるのはこの不届き者が一般人の振りをした魔術師という事だけだろう。そうでもなければ、いつの間にか押し倒されてるなんて失態は有り得ない。

「あんたねぇ……」

 それを切り出そうとした所で、思わぬ助け舟が来た。

「ヒロ君、その位にしてあげなさい」

「彼女にも事情があるんだろうし、話し合おうよ」

 不届き者の保護者二人が、不届き者ことヒロ君(仮名)を制してお互いに自己紹介と事情を説明する事になった。




「最初から開いてた!?」

 お互いに自己紹介を済ませてから、灯明寺凪と名乗った少女は藤原さんの「どうやって入ったの?」という質問に「鍵が空いていたから」と、当然のように答えた。その質問で目が笑っていない笑顔に変わった彼女から「いつから空いてた?」と聞かれ、たじろぎながら「一ヶ月」と答えた。

「あの馬鹿が…」

 聞きたかったことを聞き終えた藤原さんはそう一言呟いてから、携帯電話を取り出して、操作しながら部屋の外へ出て行った。藤原さんには「入った理由」はではなく「入った方法」の方が重要だったようだ。

「あんた、何やってんのよ!!」

 扉ごしでも室内の壁が震えるほどの怒鳴り声がそれを証明している。

「まぁ、なんと言うか……、上に立つ人間というのは苦労が絶えないものだね」

 同情を込めた浩明に同意するように、英二達三人が頷いた。

 ちなみに凪が不法侵入をした理由であるが、呆れた事にひなたぼっこをする為だったらしい……

 曰く「私の部屋、日当たり悪いのよね」だそうで、最初は自宅の屋根の上で日光浴をしていたのだが、屋根が太陽熱であっためられるのが気になり、どうしようか悩んでいた時に、隣の家を見に来ていた不動産屋の若い社員が窓の鍵をかけ忘れていったらしく、渡りに船とばかりに利用するようになったそうだ。

「そんな理由で不法侵入した人間、初めて見た」

「無抵抗な一般人を装った魔術師には言われたくないわよ」

 浩明の皮肉に凪が切り返した。

「気付いてたのか?」

「あの短時間で逃げ道を塞げるのが魔術師以外いると思う? 腕にコンバーターがはめられてなかったから騙されたわよ」

 魔術師にとって魔力粒子を変換するコンバーターは必要不可欠、「コンバーターをつけた姿は魔術師の誇り」と考えている魔術師までいるほどだ。

「初っ端から手の内をさらけ出す馬鹿がいるかってんだよ。

格下と思わせといて油断したところで勝ち逃げすればいいんだよ」

「ふぅん、随分とセコい戦い方するのね」

「能ある鷹は爪を隠してるもんだよ」

 お互い、物は言い様である。

「何よ『能ある鷹』って……、私だって油断さえしてなければあんな醜態はさらしてないわよ」

「油断って、さっきのが実戦だったら、君、その左胸に風穴が出来てたよ?」

「~~!!」

 浩明が凪の左胸を指さすと、凪は反論出来ずに両腕を胸を庇うように組み、浩明を睨み付けた。

「だ、だったら勝負よ! 私の実力を見せてあげる!」

 再び距離を取って、凪は浩明に対して構える。

「しょうがないなぁ……」

 やれやれと言わんばかりに気だるげに立ち上がり構えた。

「一応、忠告しておくけど今度は怪我しても知らないからね」

「その台詞セリフ、私の実力を見てから言いなさいよ!」

 パーカーのポケットの手を入れたままの浩明と、コンバーターに手を添えた姿勢で浩明を睨み付ける凪、お互いに緊張が走る。

「お前達、止めろ!」

 二人を止めようと英二が二人の間に立った。

「夕、お前からも言ってやれ」

 そして、夕に助け舟を求めると

「英二さん、ここにしましょう」

「はい?」

「は?」

「え?」

それまで、黙って浩明と凪のやり取りを見ていた夕の突然の宣言に三者三様に拍子抜けた声をあげた。

「ちょっと夕、どのタイミングで言ってんの?」

「空気読んでよ!」

 呆気に取られて夕を見ながら空いた口が塞がらない凪を横に、英二と浩明が、ツッコミとも取られかねない反論をする。そんな二人に対して、夕は口元を綻ばせた。

「いいじゃない。もともと設備は揃っているし、内装も殆ど触らなくてすみそうだし、何より……」

 浩明と凪の二人に、目を向けてから

「面白そうじゃない」

 笑顔で言った。

「なるほど、確かに面白そうだな」

 夕の意図を察したのか、英二も口元に不敵な笑みを浮かべて、浩明と凪を見始めた。

「ちょっと、何を期待してんのかしらないけどよ、そんな安易に決めていいのかよ?」

「別に構わないわ、後は私達の努力次第よ」

「こいつはいいのかよ? 不法侵入に傷害罪だぜ」

 凪を指差して聞く。睨まれるが気にしない。

「被害は出てないから問題ないわよ」

「いや、この紅葉マークと眼鏡を見てそれを言う?」

「それは自業自得でしょ」

 浩明の抗議はことごとく却下された。

「大体、ヒロ君もそこまで怒ってないんでしょ」

「まぁ……、それは確かにそうだけど」

 図星をつかれて、言葉を濁した。浩明自身、悪いヤツではないと思っている。

「それにヒロ君と初対面でここまで打ち解ける子が悪い子だと思う?」

「全く……分かりましたよ。」

 浩明が取れる対応は、だめ押しの説得に諦めの言葉で返す事だけだった……


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