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プロローグ１

自身初のオリジナルです。

今までのギャグ物ではなく、新しいジャンルの挑戦です！

　午前０時を過ぎた人気が全くない繁華街、その一歩はずれた消費者金融の裏口でこそこそと動く男の影があった。

　サングラスをかけて帽子を深くかって顔を隠し、全身黒ずくめで大きめのショルダーバッグを抱えたその姿は彼がその消費者金融の関係者ではなく強盗目的だと容易に想像できた。

「暗証番号は……っと」

　男がボタンを押し終えると機械的な音がロックの解除を知らせた。

　調査済みとはいえ、あまりにもお粗末なセキュリティーに男は半ば呆れながら室内に侵入した。

「金庫は……」

　暗闇のなか、サングラスを外し片手に持った懐中電灯を片手につきあたりの金庫室に移動し、次の解除作業に移るために金庫の扉の前にしゃがみこんだ。

　―ここからが本番だ。

　気合いを入れ直して金庫に向かうと扉に耳をあて、ダイヤルに手をかけてまわし始めた。

　暗闇のなか、わずかな音の違いを聞き分けていき。

「これで……よしっと」

　重い金属音の音と共に開いていく扉に軽い達成感を得たその時だった。

暗闇に包まれた室内に、明かりが灯された。

「な、何だ！？」

　突然の出来事に慌てて立ち上がりあたりを見回すと

「はい、チーズ」

　気の抜けたような軽い声の後に、デジカメのシャッターを切る音が室内に響いた。

　星野浩明は、親しい人間の頼み事を断れない人間である。でなければ、「小腹が空いた」という兄の為に午前０時の時報の流れるコンビニへ夜食を買いに行くはずがない。そして星野浩明はトラブルに巻き込まれやすい人間である。でなければ、消費者金融強盗の前に立ってカメラモードにした携帯端末を金庫破りに向けてシャッターを切っている筈がない。

　コンビニに買い物（ビールと大福ってどういう組み合わせだよ）に行った帰り道、近道をとろうと裏道に入ると、天文学的な確率で消費者金融強盗の犯行現場に出くわすという見舞われ、ほっとくわけにもいかず、

「くそッ」

　吐き捨てるように言いながら、男が奥に行ったのを確認して中に入り、更に金庫を開けているのを確認すると証拠を押さえるために携帯端末をカメラモードにして準備を整えると、室内灯をつけた。

「はい、チーズ！」

　突然の事態に金庫の前から立ち上がった男に向けて、浩明はシャッターをきった。

「やれやれ、朧月夜に浮かれて出てくるのはいたずら好きの狸だけで十分なんだけどねぇ」

　狐に抓まれたように呆気にとられている男を前に、浩明は落語の一説をぼやきながら携帯端末を上着のポケットにしまった。

「だ、誰だ！？」

「誰って……答える必要がありますか？」

　間抜け面をさらしていた男が、慌てて醜態を取り繕うように威圧してくるという小物っぷりを見ながら、呆れて笑みをこぼして煽るように言い返した。

「あえて言うなら……正義の味方ですかね？」

「ふざけんな！！」

　―分かりやすい人間だ……

　虚勢を張り続ける男の様子を伺いながら更に煽ると、次に男が取った行動に浩明の楽観が吹き飛んだ。

「何だ。魔術師か……」

　―余計な仕事が増えた

　浩明の顔から笑みが消え、ため息をついてから構えた。

「もしも魔法が使えたら……」

　一度は思うであろうこの願いが叶うようになったのは、ほんの数十年前、北陸地方の科学研究所が「人間の体内に特殊なエネルギーを持つ人種が存在する事を発見した」と発表した。その特殊なエネルギーを「魔力」と命名し、全世界に「科学技術による現代の魔法使いを育成する」と宣言。後に『魔術師宣言』と呼ばれる声明のもと、急速に発展した魔法技術を身に付けた『魔術師』と呼ばれる現代の魔法使いが世に送り出された。

　しかし、こうして『魔術師』と呼ばれる人間が生まれた結果、それは世界に大きな波紋を生み出した。

　『ありえない事を可能にする　それが魔術師であり魔法である』

　その定義によってもたらされた世界は、新たな秩序を作り、多くの混乱をもたらした。

　予想通りコンバーターを装着させたら相手の表情が一変した。

「何だ。魔術師か……」

　どうやら相手はコンバーターを着ける様子はない。つまり、『魔術師ではない』という事になる。

　―勝ったな

　男が笑みを浮かべて術式構築し、利き腕の反対側にはめたコンバーターを手に添えて術式を起動させた。相手は構える様子もなく、ため息をもらしていた。

　―馬鹿なヤツだ。力のない人間が正義を振りかざした事を後悔させてやる

　男がぽつりと「術式起動」と起動トリガーを口にすると、男の前には十本の氷の槍が構築された。

　発動させたのは氷結系魔法、魔力粒子を変換して氷の槍を作り出したのだ。比較的中位に位置する魔法で、一度に十本放てれば１人前の魔術師とされる。

「どうだ、これだけの槍を見た事あるか？」

　未だにため息をもらし、怯えたように見ていた男を挑発した。

「どうだ、これだけの槍を見た事あるか？」

　十本の氷の槍を浩明に向け、男は浩明を見下すような下品な笑みを浮かべて言った。

　―どうしようかね……

　浩明は心底めんどくさそうに、しかし、楽しみまじりに男を見た。

　実力はだいたい分かったが、己の手の内は晒したくはないし、何より反撃して室内を荒らすのは気がひける……。

「どうした？　びびったか、正義の味方さんよぉ？」

　どう対処するか思案していると、男は浩明を更に挑発してきた。

　―どん底に叩き落とすか

　男の一言に、浩明はそう決めた。

「これは失礼、室内を荒らさずにどうやって片付ければいいかと考えてまして」

「何だと！？　き、貴様！」

「余り虚勢を張らないほうがいいですよ。小者と見られますよ」

「この野郎！！」

　相手を煽ると、男は浩明の目論見通りに逆上し、

「死ねええェェ―――！！」

　男の掛け声とともに、自分の作った槍の一本を浩明に向けて放った。

「死ねええェェ―――！！」

　―これで終わりだ

　浩明に対して放った槍は浩明に刺さって終わり……のはずだった。

「なっ……」

　男の表情が凍り付いた。相手は、自分の放った槍を素手で叩き落したのだから。

　魔術師とそうでない者との戦いは、圧倒的に魔術師に有利である。『攻撃魔法に対しての反撃の方法が圧倒的に少ない』からだ。　

　魔術師の戦い方は己のなかにある魔力を魔法として発動するためには、己の魔力をコンバーターによって変換し、口頭による詠唱によって、はじめて魔法として使うことができる。

　つまり、魔法の発動にはコンバーターと数十秒の時間が必要になる。

　今の浩明の行動には詠唱するそぶりが全く無かった。コンバーターもどこにも見当たらない。

　すなわち、ただの一般人が、何の素振りもなく魔術師の放った魔法に対してあり得ない方法で反撃をしたのである。

「な、何なんだお前は！　いったい何をした！？」

　目の前で起こったことが信じられず、パニック寸前の男はようやく出すことのできた疑問を浩明にぶつける。

「何をって、君の見た通りの事をしただけですがねえ」

　しれっと答えてきた。

「ふざけるな！　仮に貴様が魔術師だったとしてもコンバーターも詠唱もしてないのに魔法を放つなんてありえるわけが」

　浩明の言葉にまくしたたて否定しようとしたが

「『ありえない事を可能にする　それが魔術師であり魔法である』、知ってますよね？」

「！！」

　それを、遮って浩明が言った言葉に、男は黙り込んだ。

　―なんなんだ、この男は！？

　自慢の魔法をあり得ないやり方で防御され、未だ手の内を明かさない浩明に男の心は恐怖という感情に支配され始めていた。

「さてと……まだやりますか？

その槍を解除して、おとなしく引き上げるなら見逃してもいいのですがねえ」

　腕を組んで自分を見下すように見ていた浩明の、降伏を勧告された瞬間、

「う……うわあああぁぁぁーーー！！」

　感情を抑えきれなくなった男は、残っていた氷の槍を一斉に浩明に向けて放った。

　氷の槍によってお互いの視界が遮られたのを確認してから、浩明は両手に魔力粒子を集めて、等身大の光の壁を空中に描き、氷の槍を防いだ。

　男の放った氷の槍を防壁魔術で作り出した光の壁でなんなく防ぎきると、男の行動に感心した。

　指先から己の魔力を放ち、それを大気中に形成させて光のバリアを作る、浩明が得意とする防御魔法である。

「逃げたか……」

　遮られていた視界が開けると、そこにはさっきまでいた男の姿がなく、代わりに壁に大きな穴が出来ていた。形成した氷の槍で目眩ましをして、視界が塞がれた隙に壁に穴を開けて逃走したようだ。

　―相手さんも馬鹿じゃないみたいだ

　自分が敵わないとみるや即座に逃走するという、とっさの判断に浩明は感心すると、

「鬼ごっこといきますか」

　子供が無邪気に遊ぶように笑みを浮かべると、男の開けた穴から外に出たのだった。

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