第二話高速列車で
物語りの始まりは二年前、出会いは唐突で最悪でした。
列車が目まぐるしく行き交う都会の中心駅。高速列車の改札口を出ると、乗り換え通路に犇めく色とりどりの土産物屋の軒先と通路を埋め尽くす人の波。
攫われそうになりながらも必死に逆らい黒髪を揺らしながら歩く私は、自分に敷かれた道をなぞっています。
覇気のない虚ろな目で、忙しない人々に眼も暮れない闇を纏って。
Uターンするように回った私は二つ隣の改札口を再び通り、高速列車のホームへ立つと、未だ消えることのない強いオフィスビルの白光が目に飛び込みます。無機質な鉄柱とコンクリートのオフィスビル、暗がりに溶け込んだそれは星を散りばめた夜空のよう。
太陽が無いからこそ煌々と輝く摩天楼。目を奪われると、手に持ったトランクケースが鈍い音を立てて地面へ落ちていました。
二年前、思い描いていた将来の展望と重なって、感極まります。正反対の今の自分を、さながら嘲笑しているその光達に、私の頬は涙を伝わせたのです。
黒く滲むプラットホームのアスファルト。かき消すようなブレーキの金切り音を傍目に、奏でられる透かした歌声が前を過りました。
見られまいと、流れ続ける涙を乱暴に袖で拭き取って、その歌声を私は絶望に浸された瞳で一瞥します。
物珍しそうに覗き込む円らな紅い瞳。目線に気づいたのか朗らかにはにかんでくれました。正直、今はそういう気分ではないのでやめて欲しいのですが、それでも仕掛けたのはこちらです。
小さく手を振ってトランクに手を掛け、扉の開け放った列車へ逃げ出しました。昼間であれば抜群の景観を誇る二階席の指定席で、屈託のない純粋な笑みに一言溢します。
「今の私でも、あんな風に笑えたらいいのに……」
手を振られた少女にその言葉はきっと届かないだろうと、その瞬間は考えていました。列車は大都会のターミナル駅を定刻通りに発って、私を終身閉じ込める目的地へと誘っていきます。
その少女が私の目に気を留めて、隣の座席を占有するまでは、少なからず私の人生は、色を変え切った果てに塗りつぶされた、二度と返り咲かないものだと、諦観していたのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
探るような目線が私を釘付けにしたのは、始発駅を出てそう経たずしてのことです。
最高時速240キロで走る二階建て高速列車の先頭車。二列ずつのゆったりしたシートに暖色の照明。この列車の最高グレードの座席に腰を掛けている私は、これが普通の座席と疑いもしません。
リクライニングを目いっぱい倒して、一刻の気休めを求めるように車窓へ意識を移します。
離れていく街。こんな光景を何度も。
頬杖をついて、引き結んだ口元。黄昏に夢中の私を呼び戻したのは、
「切符の拝見に参りました」
車掌さんでした。
きっちり着こなした黒炭色の制服でタブレット端末を片手に爽やかな笑顔の男性が私の席のすぐ袂で優しく尋ねていました。
穿いていたロングスカートのポケットから薄水色の切符を取って見せようとしますが、彼の目線が私ではなく、少し下を向いています。ちょっと妙です。
「座席、間違っていましたか?」
そんなに影薄かったでしょうかと皮肉も付け加えたかったのですが、決して気づいていないわけではなかったのです。振り返って首を振ると、
「あぁいえ、こちらのお客様です」
と左手でいつの間にか隣へ座り込んでいた人物を指しました。




