第十六話 旅へのきっぷ
手を止めて諦めた物言いをクリスカさんはしました。しかしそれが、私の紡いだ口をこじ開けます。
「——私は、行ってみたいです。クリスカさんの隣で色んな景色を見たい。いずれは貴方様にお仕えする使用人になりたいです。吸血鬼の主様に仕えることが私の夢です……一度は折れましたけど、私はクリスカ様のお傍でずっと」
思わず漏れた本望。クリスカさんは立ち上がり傍へ寄って、
「なら、決まりね」
そう言って、ノートパソコンを消して私の手を取りました。
「決まりなのですか」
「行ってみたいんでしょう。旅に」
その通りなのですが、私には返せるものは何もない。だから正直に言います。「私が返せるものなんてありませんよ」
「あるじゃない。その身体に」
「身体……?」
「なぜ顔を赤くするのよ」
「だって、私の身体って申しましたので」
そりゃ、身体を求めるなんて言われたら赤くなります。
「あぁそういう事。勘違いしないでよ。私はあなたの血で贖ってと言っているの。年下の幼気な少女を抱く趣味なんてないわよ?」
「はいごめんなさい」
「よろしい」
嘆息されながらも、お許しをいただけました。私は視線が外れているのを良い事に微笑みます。
「これがひと段落したら、出発するわよ」
「もう、ですか!?」
「思い立ったが吉日。もうチケットも取っちゃってるから」
薄青の切符を背のまま誇らしげに掲げていました。いつ取られたんでしょうか。未来でも見据えているような行動力です。
私は立ち上がりました。門出は唐突ですが、それもまた旅の楽しみ方というものなのか、今の私にはわかりません。
私物の入ったトランクを開けて、私は荷物を入れ替えました。いらない私物は乱雑に放り投げて、数日分の着替えと、カメラと、正装でもある給仕服、棚の中にいつしか主となる方にと用意した紅茶の茶葉のボトルを詰め込んで、私は吸血鬼と旅に出ることにしました。




