6_伝道者との密会
「チェリーナ。このケーキおいしそうだから食べてみなよ。はいあーん。」
オーウェンはカフェに入るとテラス席を選び、ケーキを3点注文するとチェリーナの口に先ほどから何度も運んでいる。
「・・お兄様。こんなに食べたら太ってしまいますわ!」
チェリーナはほっぺを膨らませてわざと怒ったような振りをして見せる。
「大丈夫!チェリーナは細すぎるんだ!しかもエリンの話じゃ普段おかしもさほど食べないようじゃないか。」
「あら?お菓子はたまに食べるから美味しいのです。いつもいつも食べていたら甘さになれて美味しく感じませんわ!」
「そういうものか?」
「そういうものです!お兄様も食べていないじゃないですか!こちらの苺の乗ったケーキおいしかったですわよ!はい。あーん♡」
チェリーナはケーキをフォークで刺して差し出した。
「・・・俺のことはいいんだけど・・」
「あら?お兄様まさか自分は甘くて食べられないなんておっしゃいますの?私だけなんて寂しいですわ。」
くすんとチェリーナは悲し気な瞳でちらっとオーウェンを見つめる。
「――わ・・わかったよ。チェリーナのくれるお菓子だけは特別に食べるよ!」
しょうがないと諦めたように溜息を吐くとパクっとチェリーナの寄こしたフォークを口に入れた。
瞬間ざわざわと周りが騒がしくなったような気がして、チェリーナは周りを伺うと令嬢たちが頬を染め目を丸くしながら凝視していた。
(――え?何怖い・・)
オーウェンは気に留めていないが、どうやら周りのご令嬢たちはオーウェンの事を知っているようだった。
「??お兄様?周りのご令嬢方にお知り合いの方などいらっしゃいます?」
「いないよ。いたら声をかけてくるだろ?」
「・・・そうですわね・・でもすっごく視られてるのですけど・・」
「ほっときな。俺たちエンハンス家は目立つからな。知っててもおかしくないだろ。」
オーウェンはいつもの事のように気にしていないようだ。しかし、周りの令嬢は明らかに好意的な視線を送りつけている。あわよくば目が合わないかと期待でもしているかのように見える。
そういえばエンハンス家は、昔から美形ぞろいだとか注目を浴びていると使用人たちが話していたことを聞いたことがあった気がした。チェリーナは熱に悩まされることが多かったので、他の貴族と関わることが女学校の時以外なかった。
しかもチェリーナは女学校時代の2年は、いつ高熱が出るか不安でたまらなかったのでず、更にお父様からは家紋の名誉を汚すような振る舞いはするなと言われていたのでずっと気を張っていた。その為ずっと無表情で過ごすこととなり、幾度となく周りからは冷徹令嬢と揶揄されたのだ。おかげで自分の容姿が良いなんて思ってはいないし、自分と似たような容姿をしている家族もそれが普通だと思っていた。
(・・・もしかしたらオーウェンはイケメンの部類なのかもしれないわね。)
確かにオーウェンは短髪はやんちゃさが残るもののサラサラの金髪は艶がありキラキラ輝いている。瞳も新緑のようなグリーンは爽やかさがある・・と思う。背もまだ伸びているようだけれど、私より10センチ以上は高いし、もしかしたら180㎝近くまで伸びるかもしれない。表情はコロコロかわって愛嬌は良いと思うし、正確もさばさばしていてしつこく無くて距離感も丁度良い。頭も良いとは聞いたことはある。(チョロいけど・・)
もしかしたら社交界でオーウェンは若手のホープになっているのかもしれない。と客観的に見て思った。
「そういえばお兄様!先ほどの石のお店をすごく気に入りましたの。今度エリンを連れて自分でお店に行ってみようと思っているのですけど、お父様は私が一人で出かける事に許可してくださるかしら・・」
チェリーナは先ほどの店を思い出し、もう一度あの店主と話がしたいと思っていた。
「一人で行くのか?俺も一緒じゃなくてよいのか?」
少し寂しそうにオーウェンは返事する。
「一緒に行くのも楽しいのですが、私ゆっくりあの店の店主の話を聞きたいと思ってしまったんですの。」
「チェリーナが他人に興味を示すなんて余程じゃないか。きっとお父様も許可してくださるだろう。」
「本当?でも・・私・・・叱責されたことしかないのよ・・心配だわ・・」
「そうなのか?・・・それは・・ま・・うーん・・大丈夫だと思うよ。お父様は厳しいように見えて家族想いだから!」
「・・・・・・・それならよいのですけど・・」
オーウェンが問題ないと言ってくれても心配ではあったが許可をもらわなければ自由に出歩くこともできない。
チェリーナは覚悟を決めてお父様に会うことを決めたのだった。
***
―――コンコンコン・・
「入りなさい」
熱のこもっていない低い声が聞こえ、チェリーナは部屋に入室した。
「お時間いただきましてありがとうございます。本日は外出の許可をいただきたくて参りました。」
「――外出?お前がか?」
「はい。先日オーウェンお兄様と帝都の商店街に出掛けた際に、興味がある店を見つけまして明日エリンを連れて行ってみたいのです。」
「――外出・・・チェリーナが・・・体調は大丈夫なのか?」
「最近は・・落ち着いております。先日のお出かけの時も、その後も熱は出ませんでした。」
「・・・・・」
「・・・・ダメでしょうか?」
「・・いいや。構わない。行って来ると良い。くれぐれも周りに迷惑をかけないように。ヘイスに馬車の用意をしておくように伝える。」
「あ・・ありがとうございます。では失礼いたしますわ。」
張り詰めたような空気の中、5分も経過していないであろうにまるで5キロ走った後のようにチェリーナの心臓はバクバクと大きな音を立てていた。
(・・なんとか許可をもらえて良かったわ・・いつもなら罵倒されてもおかしくないのに・・)
少し違和感を感じたが、とっとと自室に戻りたかったのですぐに頭の中から消えていった。
***
翌朝朝食を食べ終えて支度を終えて外へ出ると、エンハンス家の馬車が止まっている。近くには執事長のヘイスも控えていた。
「馬車の用意ありがとう。では行ってくるわ。」
「お嬢様。旦那様から護衛をつけるよう命じられております。そばにはおりませんが、離れた場所から5名護衛させていただきますので、何かあった際はお声をおかけください。すぐに駆け付けてお守りいたします。」
恭しく言葉を述べた後頭を下げるヘイスは、私とはほとんど会話などしたこともなかったと思うが、丁寧な態度に好感は持つことができると思った。
「ありがとう。頭に入れておくわ。」
「はい。行ってらっしゃいませ。」
公爵家の馬車は前回オーウェンと乗った時と同様、揺れの少ない非常に高価な造りの馬車だった。共に乗ったエリンはとても緊張しているようだ。
「エリンそんなに緊張する?」
「当然でございますよ!こんな高価な馬車私には一生ご縁がないと思っておりましたから!」
「そうなのね!それは良かったわ。でも疲れてばてられては困るから楽にしてちょうだいね。」
「――はい。承知いたしました。」
馬車を降りると先日出店されていた場所へ向かい、そこから店を探した。
今日は同じ場所に出店は出たおらず、恐らく店にいるのだろう。近くを探してみると、路地裏に入ってすぐの所に小さな【ウィッシェントローズ】の看板が目に入った。
―――きぃぃぃ・・・
ドアを開けて店内に入ってみると、そこは温かみの何色ものランプで店内をうす暗く照らされた店だった。
人が10人位何とかは入れるだろうか?という程度の広さで、所狭しと商品が並べられていた。
「いらっしゃいませ。もう来てくださったんですね!」
店の奥の部屋から先日あった店主と思われる女性が現れた。
「先日見せてもらった石の話をもっと聞きたくて来ましたの。お時間いただけるかしら?」
「勿論ございます。お二人とも一緒にお話しいたしますか?」
エリンの事を女性は言いたいのだろうか?
もしかしたら魔法に関することを話すかもしれないので、エリンには店の外で半刻ほど待っていて欲しいと伝えた。
エリンはチェリーナの身を案じてくれているようだったが、笑顔で見送ると渋々外へ出ていく。
チェリーナがほっと一息ついていると、
「――ではこちらの部屋で座ってお話しましょうか。どうぞいらっしゃって。」
と声をかけられた。そして女性に進められるままに店内の奥へ歩みを進めるのだった。




