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42_叙任式








 正体が発覚してしまった翌日、本当に突然【叙任式への招待状】が皇宮からエンハンス公爵邸へ届けられた。


 《帝国初めての【帝国騎士団統括】という役職に付く者がいるらしい。》



 ――らしいというのは、まだ誰がその役職に就くのか公表されていない為だった。




 チェリーナはヴィンセントと話をした夜の内にオーウェン含む仲間たちに彼の事情は話しをしていた。


 

 オーウェンも、ローリーもヴィンセントの正体には気づいていなかったらしく、平民ではなかったことにかなり驚いてはいたが、ヴィセントがフォフォイに着いて早々に用事で出かけた理由は察してくれた。




 チェリーナはすでに自分の正体が第2皇子に知られてしまった以上、自分の家族に隠し通すわけにはいかないとも思っていた。

 翌朝、『話があるから夕食に邸に集まってほしい』と家族全員に一方的に念話で告げた。


 家族には聞こえても、向こうは返事をする術がない為、本当に集まってくれるかは自信がなかったが、午後には邸に皆が待ってくれていたらしい。


 そして夕食の時間、先日の誕生日パーティーの時のように家族全員が食堂に集まるのだった。



 「いきなり集まっていただいてありがとうございます。

 ―――私は魔法使いです。」

 微笑みながら堂々と話すチェリーナの一挙手一投足を見逃がさないよう皆口を閉ざしたままチェリーナを見つめている。



 「今日集まっていただいたのは、第2皇子殿下に私が魔法使いであるという事が知られてしまいましたので、皆に迷惑をかける前に自分の口でお伝えしたいと思ったからです。」

  しんと静まり返った食堂の中で、誰も食事に手を付けることなくチェリーナの言葉を静観している。


 しかし、【第2皇子】という言葉が出た瞬間家族全員が苦い表情を浮かべた。

 チェリーナの危惧していることを皆察してくれたのだろう。



 「なるべく皆には迷惑をかけないように、第2皇子殿下からの要求は自分の力で拒否したいと考えていますが、もし誰か私のせいで何かされた場合はすぐに教えてください。

 私の魔法は人を癒す力もあれば、相手を死に追いやることもできる力も持っています。この力で第2皇子は皇帝になろうと考えているのです。

 私は駒になるつもりはありませんし、絶対に第2皇子殿下を止めてみせます!!」

 強い意思を持って自分の気持ちをチェリーナは言葉にしていく。



 「――その力は・・いつから使えるようになったのだ?」

 チェリーナが話を区切り一息つくと、エンハンス公爵はチェリーナに問う。



 「15歳の高熱で何日も寝込んで死の淵に立たされた時、この熱が魔力暴走だという事に気づきました。」




 「――魔力・・暴走?」

 チェリーナとオーウェン以外の家族は皆愕然とした面持ちでチェリーナを凝視する。



 「はい。私の体の中には膨大な魔力が生まれた時から流れていました。最初はこの力に抗うこともできず高熱で苦しみましたが、力を実感してからは徐々に体力をつけ、自分の力で調整できるよう努めました。

 その際、オーウェンお兄様とエリン、そしてウィッシェントローズが協力してくれていました。

 16歳からは自由に魔力を扱うことができるようになり、ギルド討伐ではAランクの獣も倒せるだけの力が今はあります。」



 「!!!!!」

 チェリーナから告げられるとんでもない言葉の数々に家族は皆絶句する。



 今まで高熱が出ようとも、詳しく原因を突き止めようと動いた者は誰一人としていなかった。

 侍医からの「原因不明の高熱」という報告だけで、「風邪だろう」程度にしか受け止めていなかったのだから。

 それぞれがあの頃のチェリーナへの無関心さに苦渋に満ちた面持ちで受け止めているのだろう。


 何も言えなくて当然なのだ。


 今だからこうして家族は私の言葉にすぐに集まってくれているし、優しく家族として接してくれてはいるが、15歳までは見向きもされず、叱咤されるばかりだったのだから・・。




「チェリーナすまない。私はお前が変わったことを、何故なのか知ろうとすらしていなかったのだな・・」

 お父様の言葉に皆同感らしい。

 しかし自責の念に囚われたお父様にも、家族みんなにも、チェリーナは苦しい想いはしてほしくなかった。

 


 チェリーナは両手を胸の前で握りしめると癒しの力を家族全員に放つ。

 灯火のような温かみのある光はチェリーナの手と、家族の体を包み込む。


 家族の苦渋に満ちていた表情はなくなり、不思議そうに皆顔を見合わせ戸惑っている。



 「――私は皆に後悔することを望んでいません。今こうして仲良く話ができるようになって、本当に良かったと思っています。

 過去は変えられませんが、これからも私を家族として受け入れてほしくて、今正体を明かしたのです。」

 チェリーナの言葉は家族の心にしっかりと受け止めて貰えたのだろう。慈愛の表情を浮かべ涙を滲ませながら皆チェリーナを見つめてくれている。




 「これまでの事を悔やんでも悔やみきれないが、今は少しでもチェリーナと分かり合いたいと思っている。魔法使いであってもそれは変わらない。チェリーナは私の大切な娘だ。」

 公爵は優しく穏やかな表情でチェリーナに言葉を返す。




 皆侯爵の後に続き、想いを言葉にしてチェリーナに伝えてくれた。そばで見守ってくれていたオーウェンを見ると、嬉しそうにこちらに微笑みかけてくれている。

 チェリーナはやっと本当の意味で家族と分かり合えたように感じた。

 くすぐったいような温かい感情に、チェリーナは幸せを噛みしめるのだった。







 ***








 翌日の叙任式で皇宮を訪れると、すでに重要ポストに就く家紋の貴族が謁見の間に集まっていた。


 式が始まると、レッドカーペットの上を白と金糸の刺繍で豪奢に装飾された騎士服に身を包んだヴィンセントが玉座の前まで歩みを進め跪き頭を垂れる。


 皇帝の玉座の両脇には皇太子と第2皇子が佇んでいた。

 

 チェリーナとはかなりの距離を感じるのに、第2皇子殿下の視線を痛いほどに感じる。

 横にいるオーウェンも感じているようで念話で何度もチェリーナを元気づけていた。




 皇帝陛下から宝剣で忠誠の儀式を行った後、正式に【帝国騎士団統括】としてヴィンセント・ヨーゲンバレンが就任したことを高らかに皇帝陛下自らが宣言された。



 そしてヴィンセントも許しを得て立ち上がると振り返り、重臣たちの目の前で自分が皇子としてではなく、【帝国の剣】として役職を全うする事を誓ったのだった。



 その姿は皆が噂で知っていた【無能皇子】の姿など一切なく、屈強な体つきではないにしても、明らかな威厳を保ち、皇族の風格をしっかりと兼ねそろえ、堂々と振舞っている姿は一目瞭然であった。。


 







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