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39_2人だけの空











 ―――――ぎぃぃぃ・・・



 店に入るとすぐに透過の魔法を解く。


 普段なら薄暗い店内のぶら下がった数々のランプに光が灯り、数々の貴石や貴石のアクセサリーが店の至る所に並べられていたというのに、今はランプとディスプレイ用のテーブルがいくつか並んでいる以外は全て片付けられスッキリしている。


 ここが店だったかすらわからない勢いで、ウィッシェントローズの雰囲気がガラッと変わっていた。



 「―――これは一体??!」

 チェリーナが呟くと、すでに待ってくれていたローリーは微笑む。



 「今日からこの店はしばらく休店致します。」



 「―――え?」



 「俺からさっき第2皇子殿下の事を伝えてここも危ないって話になったんだよ。」

 オーウェンが苦笑しながらチェリーナに告げる。



 「・・・・」



 (――私のせいでみんなが追われる立場に?)

 ズキズキとチェリーナの胸は痛みを感じ、これからどうすべきなのかわからなくていつの間にか何秒も固まっていたのだろう。



 「――チェリーナ。いつかはこうなってもおかしくはなかったんだ。自分を責めるな。」

 ヴィンセントは優しい声音でチェリーナの頭を撫でる。



 「・・・でも」


 

 予想を何度も裏切るほどに第2皇子の異常さを思い知り自分の浅慮差が際立っていく。


 不甲斐ない自分自身苦々しい思いでいっぱいだ。




 「お話し中申し訳ございませんが、今はゆっくり話をしている場合でもございません。

 早急に新たな拠点に移動しますので、地図の場所まで来ていただけますか?

 チェリーナ様は追われておりますので馬車は危険です。飛行魔法でヴィンセント様と来ていただいても良いでしょうか?」

 ローリーの言葉にチェリーナとヴィンセントは頷く。



 ローリーとオーウェンは貴石(パワーストーン)の力で変装し、マライセルの従業員と共に古びた馬車に乗り込むと2台の馬車は走り出す。


 

 

 2人は透過して彼らの馬車を見送ると、チェリーナはヴィンセントと手を繋いで指定された場所に向かって飛ぶのだった。




 「チェリーナ。俺話したいことがあるんだ。」




 「何?どうしたの?」

 澄み渡った空は風も気持ちよい。下の街並みを見下ろしながら微笑みながら問う。



 

 「俺はAランク討伐も一人でできるようになったよ。魔法付与は必要だったけど、剣に魔法を込めれば切れない獣はいなかった。多頭討伐も問題なかったから、チェリーナを今度こそ守れると思う。」




 「ほんと?!すごいじゃない!!」




 「あぁ。この2週間弱でがむしゃらに鍛錬し続けたからな。だから言わせてほしいんだ。

 訳あって俺はまだ話せない事沢山あるけど、必ずいつか話をする。絶対に裏切らない。

 チェリーナが好きなんだ。俺を選んでくれないか。」

 ヴィンセントはぎゅっと繋いだ手を握りなおすと、真剣な面持ちでチェリーナに愛を告げる。



 飛び続けていた風抵抗の音が聞こえるだけなのに、自分の胸の鼓動が聞こえる位に激しく音を立てているように感じる。



 ヴィンセントはいつもこうだ。


 恥ずかしい言葉も突然平気な顔して告げてくる。



 しかしチェリーナの心には彼の言葉一つ一つが優しく染みわたっていく。


 どくどくと胸は苦しいくらいに音を立てているのに、それが心地よいと感じるなんて自分でも意味が分からない。



 「そ・・それは・・恋人になりたい・・ということ?」



 「そうだ。出会った時からチェリーナが好きだった。」


 しどろもどろになりながらも気になって問う。

 

 ハッキリ答えるヴィンセントに、ボンっと何か空気が頭から噴き出したんじゃないだろうか?!という程顔が熱くて目が回りそうだ。



 「―――動転しすぎて魔法解かないでくれよ?

 俺はまだチェリーナとしたいこといっぱいあるから、こんなところから落ちて死にたくはない。」


 ヴィンセントの言葉にハッとする。落ち着かせようと深呼吸しようとするとぐいっと引き寄せられチェリーナはヴィンセントの胸にすぽっと閉じ込められた。





 「ちょっ・・・前見えないっ!」


 

 空を飛んでいる最中だというのに、空中で抱きしめられるのはなんだか不思議な感覚で戸惑ってしまう。


 でもなぜか上空で抱き合うと浮遊感と彼の温かさに包まれた心地よさで、声では否定するのに思わずきゅっとヴィンセントの腰布を掴んでしまう。




 「ずっと言いたかったんだ。

 俺には言える権利なんてないと思ったけど・・・それでも諦められないんだ。

 守るだけじゃなくて、これから一緒に色んなことを共有してもっとチェリーナの事を知りたい。愛したい。


 ――――俺じゃだめか?」


 ヴィンセントの乞うような甘い声音に更に心は動揺してしまうのに、それが嬉しくて堪らなくてふやけた表情で彼を見上げてしまう。



 「――――チェリーナ?」




 「・・・・私も・・」




 「え?」




 「・・私も・・・これからもヴィンセントと・・いろんなこと感じ合いたい。」

 急に恥ずかしくなり、視線を彷徨わせながらもチェリーナは首まで朱に染めながら呟く。




 「―――ありがとうな。チェリーナ」

 ヴィンセントは更にぎゅっと抱きしめる腕に力を込めると愛おしそうに耳元に囁く。



 「――い・・行こうか・・みんな・・・待ってるよね?」

 チェリーナは顔を真っ赤にしたまま体を離し体勢を戻すために彼の手を握ろうとする。


 

 「――わかった。

 じゃあ今はこれで我慢する。」

 ヴィンセントはクスっと微笑むと、チェリーナの指と指を絡ませて顔を近づかせていく。



 あっという間の出来事だったのだろう。近づいた2人の顔は互いの唇が触れ合った瞬間に距離がなくなったと理解する。



 (―――え?!)



 柔らかい感触は今まで感じたことのないような柔らかさで何とも言えない感触だった。



 時間にして数秒だったはずなのに、まるで時が止まって何時間も経過していたかのように唇に感触がずっと残っている。


 心地よい唇の感触に酔いしれるようにヴィンセントを見つめると



 「・・・止めてくれ・・我慢できなくなる!!」

 彼はチェリーナの首元に顔を埋めもう一度抱きしめる。




 「え?・・・な・・何が?」


 展開に追い付けずきょとんとするチェリーナを、ヴィンセントは顔をあげて見下ろしジトっと一瞬不満そうにチェリーナを見つめた。



 ヴィンセントの表情はなんだか少年のように幼くも見え、耳まで真っ赤に染める彼がとても愛おしく感じるのだった。










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