3_冷徹令嬢はこっそり準備する
椅子に座ったままチェリーナは自身の掌に浮かび上がった炎を凝視していたが、触ってみたくなり左手で触れてみた。
(熱くない?!)
炎は暖炉で燃える炎と同じように見えるのに、ものを燃やすことはできないようだ。
他の物も燃えないかとハンカチも炎にかざしたがやはり燃えない。
「何で燃えないの??燃えてよ!!」
思わず炎に命令するような言い方をしてしまった。
すると先ほどまで何ともなかったのにかざされたハンカチは燃え始めた!
「???!えっ!嘘・・どうしよっ!!火事になっちゃう!!!消えて!」
慌てたチェリーナは、傍に置いてあった水差しの中にハンカチを入れた。
――火は消えたが、チェリーナはどっと疲れた。
火がついて焦ったというのもあるが何故か体力が急激になくなった気がしたのだ・・・
「この体・・・体力がないんだったわ・・これじゃ何にもできないわね‥」
ひとまずもう一度ベッドに大人しく横になり、食事を摂るために侍女を呼ぶことにした。
ベルを鳴らすとものすごい勢いで侍女のエリンがやってきた。
「お嬢様?!!大丈夫ですか?!」
何かあったのかと慌ててきたようだが、ベッドに微笑みながら横になっているチェリーナを見て目を丸くして驚いた。
「お嬢様!熱が下がったのですか?!」
「えぇ。心配かけたわね。もう大丈夫だから食事を持ってきてくれない?あ。そこの水差しも、新しいものに交換してくれる?」
突然軽快に話始めるチェリーナに困惑している様子ではあったが、安心したエリンは「承知いたしました!直ぐにお持ちしますね!!」と元気に去っていった。
―――さて。どうしたものだろうか?
自分が先ほど出した炎は自分が想像したら現れ、【燃えろ】と念じたら本当に燃えた。しかも【消えろ】と念じたらあっさり消えた。
これは――――やはり【魔法】なのだろうか?
信じがたいが魔法だろう・・。
嬉しいけど・・・多分コレは嬉しいと喜んでばかりはいられない案件な気がするわ・・
神父様は数百年【魔法使い】は現れてないって言っていた。
・・・もし・・もし自分が魔法使いだと周りに知られたらどうなるだろう???
お父様は――大喜びで私を利用しそうね・・
お兄様やお姉様は――これまた私を使って色んなことに利用するでしょうね・・
周りの人たちは?――どうなるの?喜ぶ?恐れる?利用する?
そして帝国は――?
全てに共通して感じたのは一つだった
【利用される!!!】
(絶対いやよ・・きっともう熱に悩まされることはないのに・・利用されるのは嫌!!)
(―――隠そう!)
チェリーナの心は決まった。
(絶対バレずに魔法を修得して、やばそうだったら旅に出ようっ!!)
チェリーナは今までのチェリーナと変わりはなかったが、前世の自分が余程個性的というか意思が強かったのか、冷徹と言われた表情はコロコロ表情を変えていた。
エリンは食事を運んでくると、まじまじと顔色の良くなったチェリーナの顔を不躾にじっと見つめていた。
「なに?どうしたの?」
「も・・申し訳ございません。お嬢様があまりにも元気になられたので思わず見入ってしまいました!」
「不躾に見るのは良くないけれど、私の身を案じてくれるのはエレンだけだから許すわ。いつもよくしてくれてありがとう。」
「お・・お嬢様?!本当にどうされたのですか?体調が回復しただけですか?まるでお心まで変わられたような・・え?」
チェリーナの態度にエリンは動揺を隠せなかった。
それは仕方ない事だろう。
これまではチェリーナは自身の熱のせいで他者を気にする余裕などなかったのだから。
使用人が何をしようと感謝したこともなかったような気がする。
「そうね。体調がよくなって気持ちも余裕が生まれたみたいだわ。これから色々挑戦してみたいから、エリンも協力して頂戴ね!」
明るく微笑みながら伝えると、目を大きく見開いて固まった後「しょ・・承知いたしました!お任せください!!」と元気に返事を返してくれたのだった。
食事を摂って英気を養ったチェリーナは、まず何をすべきか考え、ノートにまとめることにした。
一番はいかにバレずに魔法を使うかだけれど、エリンいがいの使用人はほとんど私に見向きもしないのでこれまで通りにすれば問題ない。
動きやすいのは【夜】・・しかし夜は流石に危険だろう。魔物がいないこの世界でも、野犬でも私にとっては恐ろしい。
透明になったりとか・・防御のシールド作ったりとか?
――魔法で対策をとるなら、魔法が使える健康な体にならなきゃならないだろう。
そうなるとしばらくは日中のトレーニングのみになるか・・
体を健康にするなら【筋トレ】【走り込み】あとは【階段の上り下り】とか・・
運動のメニューを書き出し、見られても良いことと、みられては困る事も書き出した。
チェリーナが今まで通り厄介者としている為には余計な姿を見せるのは問題だとわかる。
家族の動向を確認し、空き時間に運動メニューをこなすのは良いかもしれない。
透明化の魔法さえ使えるようになれば、簡単にそとでの運動もできるだろうけれど、恐らく透明化の魔法自体容易ではないだろう。
まずは室内でできることは何でもしていこうと決意した。
家族の前では今までのように表情を消して振舞うように気を付ける必要もあるだろう。
体力をどの位つけるかの目標としては5キロ走れるようになればある程度体力も付く気がした。
前世でも、子供たちの体力に負けないように、朝一緒に3キロジョギングしたりしていたので体力には自信があった。今世でもきっと効果はでるはず!―チェリーナはそう信じた。
(―――動くための服がない!!)
大切なことを失念していた・・。
これもまた魔法で創り出すには耐えられるだけの体力が必要になる気がしたので、裁縫で何とか補うことを考えた。
今世では針もろくに持ち続けられなかったが、前世の自分は子供の服のリメイクは良くしていた。ドレスの生地を使ってせめて長ズボンでも作れたら!と思いいたる。
起き上がり衣裳部屋へ行くと、来ていないドレスが山のようにあったのでこっそりシンプルで加工しやすそうな生地のドレスを引っ張りだした。
裁縫道具も持ち出し、生地をカットして緩めのワイドパンツをイメージして作ってみると、意外と作ることができた。売るわけではないので自分が着ることができれば問題ない!腰の部分は紐で留めるように作り、同じようなものを2着作った。
履いてみると形は不格好だが問題なく履くことができた。上はお兄様たちの誰かに貰うしかないだろう。
バレたら大変なので、チェリーナは一番体格が合いそうで話を聞いてもらえそうな三男オーウェンに頼み込むことに決めた。
いつも通りの無表情で頼みに行ったが、やはりオーウェンは聞く気がないようなそぶりだった。【愛嬌】なくして服をもらえるはずがない!とチェリーナは覚悟を決めて、「お兄様お願い♡」とおねだりするついでに上目使いでにこっと微笑んでみた。
すると、今まで機嫌が悪そうだったオーウェンは目を見開き「なんだかわいくおねだりできるじゃん!」とあっさり3着も服をくれた。
(・・・チョロい・・兄よ・・そんなにチョロくて良いのか?)
そしておまけとばかりに「オーウェンお兄様しか頼れなかったから嬉しい!」とおだててみると「またおいで!」と上機嫌になった。――チェリーナは協力者を手に入れた!
そしてエリンにお金を渡して歩きやすい靴も調達してきてもらった。
自室に戻って服をしまうとチェリーナはわくわくが止まらなかった。
(―――これで健康な体を手に入れられるのだわ!!!)
いよいよ今日から体力づくりが始まる。チェリーナは1カ月後自分がどう変わっているのか楽しみで仕方なかったのだった。




