38_焦り
「――俺チェリーナが好きだ・・・身分とか・・色々問題はあるかもしれない。だけど俺がAランク討伐を一人で討伐できるくらい強くなれたら俺にチャンスをくれないか」
ヴィンセントにとって先日のポイズンマンバ討伐は、ベアレイジの時同様に苦々しい思い出となった。
チェリーナに想いを伝えたいと思っても、今のままでは自分の身分を隠したまま好きになってもらうのは不可能だとヴィンセントは思っていた。だから、条件付きでチャンスが欲しいと伝えたのだ。
あれから幾度となく貴石を剣に魔法付与して魔法剣として固い敵にも対抗できるように鍛錬を続けた。そして昨日やっとAランクの多頭討伐を成功させたのだ。
本当はすぐにでもチェリーナに念話で会いたいと伝えたかったが、まずは一度討伐翌日に店に向かった。
「俺。今日チェリーナに想いを伝えようと思ってる。マライセルにとっては気に入らないかもしれないけど、絶対あいつの心を俺のものにする。」
「・・・・」
冷ややかなローリーの眼差しがヴィンセントに突き刺さる。
部屋の中に沈黙が広がる。
はぁーー・・という溜息は吐くとローリーは話を再開させる。
「お気持ちはわかりましたわ。
ただ決めるのはあくまでチェリーナ様です。私はあの方の想いに寄り添います。
ヴィンセント様のお気持ちがどうかは今は二の次です。」
「――どういう事だ?」
「先日救助したウィル・ドレンティアがアルダナ森林で、獣にやられて死亡したという報告付きで国に遺体が搬送されたそうです。」
「―――なんだと?!」
ヴィンセントはローリーの報告に意味が分からない。
ウィルは確かにジークが無傷の状態でギルドまで送り届けたはずだった。
「―――ウィル様をギルドに送り届けた後も、我々は監視を続けておりました。しかし、ゼリス・アルガン次期侯爵に連れ去られました。」
「!!!!!」
それがどういう事を意味するのか、ヴィンセントにはもう理解できた。
「・・・恐らくもうコリン様が魔法使いだとバレたことでしょう。運が悪ければ、チェリーナ様の事もバレている可能性が高いです。
念のためチェリーナ様に我々から護衛をつけてはおりますが、今日チェリーナ様が教会に行かれています。
先ほど第2皇子殿下も教会に向かっていると仲間から連絡が入りました。
―――どういう意味かお分かりですよね?」
「・・・チェリーナを狙っているという事か?」
「恐らく十中八九間違いないかと。護衛にも伝えてはおりますが、護衛では第2皇子殿下には適わないかもしれません。
ですから先ほどジーク様には連絡しようとしましたが拒否されまして、まだ報告できておりません。」
「・・・・
魔法付与された貴石をいくつか貰いたいがいいか?」
「―――いかれるのですか?」
「当たり前だ!」
ヴィンセントは即答する。
「わかりました。チェリーナ様をよろしくお願いいたします。」
「――当然だ。」
ヴィンセントはローリーに貴石を貰い受けるとすぐに教会に向かって駆けだす。
ケヴィン・ヨーゲンバレンという男は【唯我独尊】。自分以外は自分の下だと思っている。だから平気でアルファン(兄上)に暗殺者を差し向ける事ができるイカれた野郎だ。
ケヴィンが5歳の時からイカれた言動は始まっているのだから、人の命の重さなど埃の重さほども感じていないのだろう。
だからこそ今回ウィルが死んでも構わないと思ったに違いない。国内だろうと隣国だろうと関係ないのだ。
アルファン(兄上)の話だと【魔法使い】は自分のものとすでに触れ回っているらしい。
魔法使いが皇帝の意思に背くことができる権限を持っていようと、恐らく関係ないだろう。
手に入れる為ならどんな卑怯な手段でも使うはずだ。中途半端なことをしていたら確実に奪われる。
教会につくとオーウェンは馬車の前で待機していた。
すぐに状況を伝えると、店で落ち合う約束をしてヴィンセントはフードを深く被りチェリーナを助けに向かう。
エントランス入ってすぐ階段上にチェリーナは佇んでいた。
(―――チェリーナ!)
(!!!!!)
チェリーナを見つけ思わず笑みが零れたその直後、すぐそばで妖しい笑みを浮かべる第2皇子がいる。
さっと柱の陰に隠れると辺りを見回す。
思った通り明らかに第2皇子の手の者が至る所に控えているのがわかる。
どうすべきか逡巡していると第2皇子はあろうことかチェリーナを階段の一番上から突き落とした。
明らかに故意だ・・魔法使いだと確認しようとしたのだと瞬時に理解したが、だからこそ今出ていけば自分も捕まることだろう・・まだ正体を知られるわけにはいかない・・
迷っている間に、やはりチェリーナは魔法を使って階段下に落ちる前に空中で止まり、飛行して階下に降りたった。
もうバレてしまった以上考えている場合じゃない。
ケヴィンが高笑いが聞こえるがヴィンセントは構わず貴石を使う。
――――ゴゴゴッゴゴゴ・・・
イメージ通りの小規模であるが揺れ動くような地震が発生する。
ケヴィンが慌てふためく間に駆け出しチェリーナの腕をグイっと掴むと踵を返し全力で走る。
「行くぞっ!!」
ヴィンセントは短く言葉を発するとチェリーナを連れて外に出る。
すでにオーウェンの姿は見えない。
「チェリーナ透過を頼む!!」
ヴィンセントがチェリーナに叫ぶと、我に返ったようですぐに透過魔法を発動させる。
周りには何人ものケヴィンの手下が探し回っている。するするとすり抜け路地裏まで走り抜ける。
――――はぁはぁ・・はぁはぁ・・
2人の荒い息遣いが路地裏に響き渡る。
「――チェリーナ大丈夫か?」
「・・・大丈夫・・と言って良いかはわからないけれど、元気よ・・」
「なら良かった。店に飛行魔法で向かえるか?」
「大丈夫よ。・・・ただ・・私第2皇子殿下に―――――。」
「わかっているから大丈夫だ。」
ヴィンセントはぎゅっとチェリーナを抱きしめる。
「ヴィンセント???」
チェリーナは突然の抱擁に目を見開く。
「お前のせいじゃない。あいつがイカれてるだけだ。もう離さない。」
苦しそうに言葉を吐き出すヴィンセントの腕の力はチェリーナを気遣い優しく抱きしめている。
「話したいことが沢山ある。このまま抱きしめていたいがひとまず店に戻らないか?」
名残惜し気にチェリーナから離れると、二人は互いに頷き合う。
ヴィンセントはチェリーナの両頬を優しく掌で撫でるとチェリーナの魔法で店に向かうのだった。




