36_誓約魔法
腰に蔓を結んだままのコリンは、やっと落ち着きを取り戻すと治癒魔法で泣きはらした自身を癒した。
「ジーク。ありがとう。ローリーもありがとう。」
微笑む表情はいつものやさしいコリンに戻っている。
「―――落ち着いて何よりだ。
それじゃあそろそろ解放してやらないか?ソレ・・・。」
ジークはコリンの様子を伺うと、きまずそうにベルトに結んだ蔓の先の男を指さす。
「!!!!!」
コリンは絶句した。
乱心して店に戻ってきた際に、救助対象者に騒がれないよう有無を言わさず遮音魔法をかけ拘束したまま放置してしまっていたのだ。
男性はブルブルと恐怖に震えながらこちらを怯えた眼差しで見続けている。
しかし、今簡単に開放してしまうとまた大騒ぎされるのは安易に想像できる。
コリンはしばし逡巡すると、意を決して男性に近寄り話しかける。
「貴方はアルダナ森林で遭難してしまったそうです。ギルドから要請を受けて貴方を我々が救助しました。
残念ですが、女性と護衛をしていた男性2名はすでに死亡が確認されています。
貴方は毒に犯されていましたが、私の治癒が間にあったので今は何ともないはずです。その後ポイズンバットにまた毒されていましたが、その分も治癒しました。
今はヨーゲンバレン帝国の帝都に居ます。これから貴方をギルドに引き渡し、自国に戻れるようにしてあげることができますが・・・」
淡々と説明していたコリンは途中で黙る。そしてしばし間を空けてから話を再開する。
「そのまま引き渡すことはできません!」
「!!!!????)
コリンの言葉に男性は言っている言葉に理解できず固まる。
「――貴方は見てはいけないものを見てしまったんですよね・・。
・・・見たでしょ?・・・・僕の魔法。」
「!!!!!」
コリンの瞳はギラリと獲物を狙うかのように妖しく光り、男性は危険を察知してブンブンと首を横に振る。
「いやいや。今も見てるじゃないですか!
―――貴方今浮いてるし。蔓にも縛られちゃってるでしょ?
それ僕の魔法だから♪」
コリンはあっさりと現状を男性に告げる。
男性はどうしたら良いのかわからず声がコリンたちに届いていないにも拘わらず、必死で何かを訴えているようだ。
「ごめんね?貴方の言葉はこちらには今聞こえていないんだよね。
でも・・お願いを聞いてくれるならここから出して、ギルドに引き渡してあげても良いよ?
―――どう?お願い聞いてくれるかな?」
コリンはにっこり微笑んで告げる。
男性はブンブンと首を必死で縦に振る。振るしかなかったのだ。
「そっか。それなら今から遮音魔法解いてあげるけど、もし大きい声で騒ぐなら・・・その声帯取っちゃうからね?騒いじゃ駄目だよ?」
コリンの言葉に必死で男性は頷き同意する。
遮音魔法が解けるとコリンはまた話を続ける
「これで今貴方の声は僕に聞こえているよ。それじゃこれからやってもらう事があるんだけど、誓約してほしいことがあるんだ。
何の誓約かわかるかなあ。わかるなら【はい】わからないなら【いいえ】って答えてくれる?」
コリンは目を妖しく光らせながらも微笑みながら男性に返事を求める。
「・・・い・・いいえ・・」
男性は震えながらもなんとか返事を返す。
「そっか。実は僕の魔法って世界で僕しか使えないらしいんだよ。だからね?誰かに僕の魔法の事を話されたら困るんだ。
―――わかってくれるよね?」
「・・・・・・」
「―――わかってくれるよね??・・返事は?」
どう反応してよいかわからない男性は黙ってしまうがコリンは急かすように声に刃を乗せたように返事を促す。
「は・・はいっっ!!」
「良かった♡それじゃ誓約を始めようか。今から僕が告げる内容に同意してもらいたいんだ。
同意してくれる場合は貴方が自分の名前を言った後、同意しますって言ってくれれば完了!良いかな?」
「・・・・はい・・」
「貴方の名前は?」
「・・ウィル・ドレンティア・・です。」
わけがわからない男性はただ従うしかない。
「わかったよ。ウィル。それじゃ誓約を始めよう。
今日ウィル・ドレンティアが見たコリン・マライセルの魔法の全てに関わる内容を、ウィル・ドレンティアは永久に誰にも口外しないと誓う。もし守れなかった場合は3週間にわたる苦しみを自身の身をもって受けることを誓う。同意してくれますか?」
「う・・ウィル・ドレンティアは・・同意します。」
ウィルが同意すると彼の体にぽうっと灯火のような光が一瞬だけ光り、そしてすぐに消えた。
「ありがとうウィル!これで貴方は僕と誓約を交わした。今日の救出劇は、森で気を失ってから気づいたら帝都に連れてこられていたとでも言ったらよいよ!うっかりアルダナ森林でのこと、魔法の事話したら・・・恐ろしい目にあうことになるから気を付けてね?♡」
「わ・・・わかりました。」
ウィルが返事をしたあと、蔓の拘束は解け、浮遊していた体はゆっくりと地面に降り横たわった。
「お疲れ様。一緒にいた同行者の事は残念だったけど、自分の命が助かっただけでもよかったと思ってね?
―――ジーク!ウィルをギルドに送り届けてくれる?あと、討伐と救助の証を代わりに届けてもらっても良い?
・・僕ヴィンセントが目覚めるまでここで見守りたいんだ。」
「わかった。俺が送り届けよう。」
「――ありがとう。」
先ほどまでコリンとウィルのやり取りを見て呆然としていたジークは、話を振られて正気に戻ったのだった。
「――コリン様。とてもお強くなられましたね。」
ジークとウィルが去ってからローリーはしみじみとコリンを見つめて喜んだ。
「・・そう・・かな?」
きょとんとしたコリンはローリーの言わんとすることがよくわからないようだ。
「私は優しすぎるコリン様が誓約をどのように結んでくださるのか気になっておりましたが、先ほどの対応はまさに素晴らしい誓約への導きでございました!
感動いたしましたわ!!」
「そうなの?・・・それならよかったよ。
・・正直今はヴィンセントの事もあったし、あんまりウィルに時間かけたくなかったから。冷たい言い方しちゃったんだよね。」
苦笑いしつつコリンはこたえる。
「時に厳しい物言いもしなければならないことはございます。まさに統治者のようなお姿でしたわ」
「そ・・それは言いすぎっ!」
陶酔したように話すローリーにコリンはびっくりして慌てるのだった。
「ヴィンセント・・・いつ目覚めるかな・・」
コリンは悲し気に呟く。
「え?・・・あーーーヴィンセント様ですか?もう起きるんじゃないですか?ね?ヴィンセント様?」
「え?」
ローリーの物言いにコリンはきょとんとする。
「・・・・お・・おはよう。」
チラッと片目を空けたヴィンセントはきまずそうにコリンに告げる。
「ヴィン・・セント??!・・・え?・・・」
コリンはヴィンセントを見つめ固まる。
「ちょうど先ほどの誓約魔法をかけられていた時に目覚められたようですわよ?」
ローリーは呆れたように告げるとコリンに優しく微笑み部屋を退出した。
静まり返る部屋の中で、二人はじっと見つめ合う。
「――さっきの・・すごく格好良かったよ。誓約魔法。」
ヴィンセントが先に口を開く。
「それは・・・早く終わらせたかったから・・」
みるみる内にコリンの瞳には涙が溜まり、そして溢れ出す。
「コリンっ!・・・ごめん。・・ありがとうな・・助けてくれてっ!!」
ヴィンセントは慌てて起き上がると、ベッドの淵に腰掛けコリンを引き寄せて抱きしめる。
「・・っ・・・ヴィンセント・・・し・・死んじゃうかと‥思った・・」
ぐすぐす涙を流しながら感情のままに言葉が吐き出される。
「俺が弱いから・・心配かけて悪かった・・守るって言ったのに守られて・・情けないけど・・それでもまたコリンに会えて俺は本当に幸せだよ。」
「わ・・・私も・・・会いたかった・・ほんとに・・・よか・・った・・」
涙を流すコリンの素直な言葉はチェリーナに戻っていた。




