35_Aランク高難易度討伐再び_4
「ヴィンセントーーーーーーーっ!!!」
ジークが叫ぶ声の方向を振り返ると、そこにはポイズンマンバの胴体に締め上げられるヴィンセントの姿があった。
(何故?!!!)
「ヴィンセントっ!!」
コリンはヴィンセントの締めあげられ土気色に変った肌を見て愕然とする。
ヴィンセントを苦しめるポイズンマンバのみを、怒りのままにコリンは燃え盛る激しい炎で焼き尽くした。
ジークはポイズンマンバの力が緩んだ隙に傷の入った皮膚を切り付けヴィンセントを救い出す。
飛行魔法で即座にヴィンセントの元へ急いだコリンは、引っ張られて叫ぶ男性のことなど目もくれず放置したまま、ヴィンセントの容体を確認する。
「ジーク!何故こんなことに?!」
容体のひどさに怒りの含んだ怒声でジークを問いただす。
「――ポイズンマンバに攻撃していた最中に、ポイズンバットが急に襲い掛かってきたんだ。
何匹もいたから加勢に入ったんだが、すでに毒を受けたらしくて、その隙を狙われてヴィンセントはポイズンマンバに捕まってしまった・・すまない」
「ポイズンバットだって?!・・まさか・・・さっきのポイズンバットはジークたちの方にも向かっていたのか?”・・・・僕が・・・僕が男性に気を取られていたから??」
コリンは自分のミスに気づき驚愕し震える。
ヴィンセントはろっ骨を何本も絞められ折れたのだろう。さらに頭部や肩には攻撃された傷以外に無数の毒の痕跡もあり昏睡状態だ。
貴石の力で毒の影響はほぼ受けなかったようだが、それでも多少は毒に犯されてしまったらしい。
直ぐに自身の魔力と体力を補給貴石で回復させると、ヴィンセントの治癒を急ぐ。
治癒は間に合ったが、重症だった為ヴィンセントは発見時の男性と同じように昏睡状態のままだった。
悲しみと自分への怒りで頭がいっぱいになりつつも【ヴィンセントをこのままにはしておけない】という想いで迅速な行動を起こさなければと自身を奮い立たせる。
「――ジークっ!急いでポイズンマンバの討伐の証を取って退避しよう!!ここに怪我人2人と長居するのは危険すぎる!!」
「わかった!」
コリンは自身に強化魔法を再度かけなおすと、周りを探知し警戒しつつ急いでヴィンセントの腕を肩に回し、浮遊する。
ジークの手も掴むと全員に透過魔法をかけて飛行魔法で森林の上まで飛びあがり、そのまま帝都の店に一直線に飛行して全速力で向かう。
ジークは飛行中辺りを警戒しつつも、念話でローリーに端的に状況説明をしてくれていたらしい。店の奥の部屋は直ぐにヴィンセントが眠れるようベッドを用意してくれたらしい。
コリンは店に降り立つ前に、蔓で引っ張られ騒ぎ続けていた男性を遮音魔法で膜を作り覆ってしまった。
あまりの手際の良さにジークはただじっとコリンの様子を見つめ続けてしまう。
ヴィンセントがやられた時から、コリンは人が変わったように迅速な状況把握と対応ですぐに帝都まで戻ってきた。
無事に戻れて良かったが、救助対象が叫んでいようと見向きもしない非情さは、今までの心優しいコリンでは考えられない対応だった。
更に今は大騒ぎしていた男性を、有無を言わさず遮音魔法で膜に閉じ込めたまま浮かせて蔓で引っ張っている。
・・・まるで引っ張られている男性は誘拐された被害者のように、顔面蒼白でガタガタと震えているのだからジークにもどうしたら良いかわからなかった。
恐らくコリンは、男性のことなど騒がしい生き物程度にしか思えない位、ヴィンセントのことで頭がいっぱいなのだろう。
どうしたものかとジークはため息も漏らすしかなかった。
「――コリン様!おかえりなさいませ!こちらへどうぞ!!」
店に入ってから透過魔法を解くと、ローリーは待ってくれていたようで、急いで奥の部屋へ案内してくれる。
コリンは黙って頷くとヴィンセントの腕を肩に回したまま浮いたままのヴィンセントを連れていった。
「生きてお戻りくださって本当に良かったです・・。」
ローリーはヴィンセントをベッドに寝かせたのを確認すると、目に涙を浮かべながらコリンを見つめ無事を喜ぶ。
――しかしコリンの表情は険しいまま。
「・・・僕がいけないんだよ・・僕が目を離したすきに、ヴィンセントが攻撃されてしまったんだ・・僕が悪い・・」
コリンは涙を静かに流しながらも、まるで自分に言い聞かせるように自分を責め続ける。
「・・・コリン様・・」
「ぼくが最初から男を蔓で縛り上げて浮かせていれば、目を離すことなんてなかったのに・・
手をつないだだけで大丈夫だと判断した僕がいけないんだ・・」
コリンの瞳は光が失われ、自分を許せずに憎み続けており、涙はただ静かに目からとめどなく流れている。
「――コリン様!しっかりしてください!
どのような状況だったのか見たわけではありませんが、巨大なポイズンマンバだけでなく、サンダフィッシュ、ポイズンバットに囲まれ、他の毒系生物も多く存在していたのですよね?」
コリンはローリーの言葉に黙ったまま頷く。
「その状況で探知を行いながら、救助対象を守り、ジーク様とヴィンセント様に援護も行い、魔法攻撃まで仕掛けたそうではないですか。
そんな状況でミスが起こらないでやり遂げるのは至難の業です!
コリン様は飛行魔法で3人を無事に連れ帰ったんですよ!!
私は全責任をコリン様に負ってほしくありませんっ!!全てを自分の責任にしないでください!」
ローリーは涙ながらにコリンに話しかける。
「・・・・でも・・僕が・・」
ローリーの言葉が聞こえているハズなのに、コリンの自身を責める言葉は止まらない。
「コリン!!お前は背負いすぎだ!!」
ジークの厳しい怒声の言葉にコリンはびくっとして振り返る。
「――俺もヴィンセントも、今回もまたお前におんぶにだっこのままだった。今日無事に帰ってこれたのは全てコリンのお陰だ!
救助対象者に気を取られていたと言うが、初対面の人間が魔法を目の当りにしたら混乱するに決まっていた。
俺たちは前もって考慮しておくべきだったし、対策を3人で考えられたはずなんだ。
コリンだけのせいだなんて俺は絶対に思わないし、むしろポイズンマンバすらほぼコリンが倒したようなものだったじゃないか!
俺たちはサポート役しかできていなかった。謝らなくちゃいけないのは本当は俺たち2人なんだ!!
お前に罪悪感を感じられたら、目を覚ました時ヴィンセントは嘆くぞ!」
「――ジーク・・・。」
コリンの瞳にジークが映る。
「お前はよく頑張ったんだ。ヴィンセントが目覚めたら言う言葉は懺悔の言葉じゃない。労いの言葉だ。わかったか?」
ジークの言葉は厳しい言葉ではあったがコリンを想う優しさがしっかりと伝わってきた。
コリンはあの過酷な状況で、精神をすり減らしながらもミスをした自分を責めずにいられなかった。
なんとか切り抜けたくて必死で必死で気持ちがどこを走っているのかいつの間にかわからなくなっていたのだろう。
店に戻ってこれたのに、まだ森にいるような感覚が抜けない。まるで独りぼっちになったようだった。
そんなコリンを褒めてくれるジークに、どう応えたら良いかわからなかった。
それでもジークの怒声で「やっと戻ってこれた。」・・コリンはそう感じられたのだろう。
ジークの叱咤激励は張り詰めていたコリンの心を一気に現実に引き戻してくれたのだった。
コリンはジークに飛びつき抱き着くと、子供のように泣きじゃくった。
先程まで自身を責め続け光を失った瞳は、幼い子供のように悲しみと安堵を全力で表現する瞳に変っている。
ジークはコリンの頭を撫でながら抱きしめ続け、落ち着くまで優しく声をかけ続けたのだった。




