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30_真夜中の密会_2










 「――ありがとう。もう大丈夫。」



 チェリーナは名残惜しそうに離れると、バルコニーの椅子に腰かけるようヴィンセントを誘う。



 「約2か月・・会えなかったけど、元気だったか?熱も出したってオーウェンに聞いた時は驚いたぞ。」

 ヴィンセントは椅子に腰かけると先に言葉を切り出す。



 「ほんとだね。あっという間だったけれど、長い2か月だったよ。

 発熱は直ぐに収まったから大丈夫!」

 チェリーナは涙で腫れかけている顔を魔法で癒してから微笑んで告げる。



 「チェリーナは泣いてもすぐ魔法で痕跡を消してしまうからな。一人で泣いていても気づけないのが心配なんだ。」


 先ほどまで涙を流していたチェリーナの頬にそっと触れると真剣な面持ちでヴィンセントは告げた。



 「俺が誕生日パーティーに参加できなかったことを悩んでいたとも・・聞いたんだ。


 俺の言い方がきっと悪かったんだよな。ごめん。」



 「謝らないで!今こうして祝ってくれている気持ちが私は嬉しいから!」



 チェリーナの言葉に偽りだどなかった。無理やりさせることになんの意味もない。むしろ虚しいだけ。 

 

 それよりも自ら祝いたいとプレゼントを用意してくれた気持ちが何よりも嬉しかったのだから。



 「そう言って貰えて嬉しいよ。


 ――俺どう伝えたら良いかわからなくて、念話で言う事じゃないって思ってたから、次会うときにはちゃんと話したいって思っていたんだ。


 まさか2か月もかかるとは思ってなかったぞ・・。

 

 ――こんなに会わなかったのって・・出会ってから初めてだったよな。」


 

 「そうだね。ほぼ毎日一緒に過ごしていたものね。」



 ヴィンセントから連絡がなかったのが、会って話したかったからなのだとわかってまたきゅんと胸がうずく。


 彼がまるで自分に会いたかったかのような話をしてくれるのも、まるで夢の様で思わず顔が綻んでしまう。



 気づけば何分互いにじっと見つめ合っていたのか、ヴィンセントが先に気づきぱっと顔を逸らす。


 


 「――そういえば今日の誕生日パーティーはどうだったんだ?大勢の客が祝いに来てくれたんだろう?


 楽しかったか??」

 少し上擦った声で話す声にチェリーナは現実に引き寄せられる。



 「良かったよ。あんなに大勢の人に祝われるなんて・・初めてだったから緊張したけれど。

 ―――それに皇太子殿下ともファーストダンスを踊ったんだよ!すごいでしょう?」



 「―――皇太子?」

 明るく告げたチェリーナの言葉だったが、ヴィンセントは陰ったような表情で呟く。



 彼の表情は頭の隅に追いやっていた想いを急速に浮上させていた。



 「――皇太子殿下と・・お知り合いなの?」

 ふいに聞いてしまう。


 考えもまとまっていないのに、今しかないと無意識に言葉が先に出てしまう。だからしっかりとヴィンセントの顔を見つめてしまっていた。


 ヴィンセントは驚愕したかのように目を見開き、言葉も発せずにチェリーナを見つめ返している。



 聞いてはいけない事だったのだろう・・もし彼がただの平民であれば「なにいってるんだ。知ってるわけないだろ!」と、笑い飛ばしていたはずだ。


 しかし彼は今「何故そのことを知っているんだ??」と、言いたいような瞳でこちらを見ている・・




 (――聞かなきゃよかった・・)



 先ほどまでの花が舞うような温かい空気はあっという間に消え去り、ぎすぎすした空気が漂い始めている。



 「――そんなわけ・・ないよね。ヴィンセントは平民なのだもの!」

 空気の重さに耐えかねてチェリーナは自分で自分の言葉を否定した。



 「その・・皇太子殿下が・・貴方の正体を知っていると言うものだから。もしかして知り合いなのかな?って思っただけなのよ。」



 「!!―――――皇太子殿下がそんなことを言ったのか?」



 「――うん・・。」

 明らかにヴィンセントは動揺している。


 その動揺は信じがたい事実を聞いたかのようだった。


 一体彼は何を抱えているというのだろう・・


 これでは自分はただ者ではないと告げているのと同じだ。


 「ヴィンセント。私は貴方が何ものであっても構わないわ。今の貴方が私に思ってくれてしてくれる言動を信じたいから。

 人には知られたくないことだってあるはずよ。だからそんな顔しないで?

 私は貴方が祝いに来てくれて幸せなんだから。」



 ヴィンセントが何者なのか、知りたいに決まっている。それでも無理やり問いただしても自分の気持ちは晴れることはないだろう。


 彼が自分から話してくれなきゃ意味がないのだから。この表情を見る限りそれはいまではないのだとわかった。それだけでも十分だとチェリーナは思う。




 「――気遣わせてしまってすまない。

 今はまだ告げることはできないが、俺は絶対にチェリーナを裏切ったりしないし、お前のことが大切だと思ってる。

 そのことは嘘じゃないって誓約魔法で確かめたってかまわない!

 ただ・・今はまだ話せないんだ。・・・ごめん。」



 「いいの。色々あったし、ヴィンセントの事も言われてちょっと私も同様してしまったんだとおもう。

 ・・まさか皇太子殿下に求婚したいだなんていわれるとも思ってなかったから・・色々動揺しちゃっていただけなの。」




 「求婚???――何の話だ?」



 今先ほどまで申し訳なさそうにしゅんと縮こまっていたのが嘘のように、ヴィンセントはチェリーナの両腕を掴んで引き寄せ、真剣な面持ちで真意を確かめようとしてくる。



 「え?ど・・どうしたの?急にっそ・・そんなに信じられなかった?」



 「当たり前だ・・いつの間に皇太子殿下に求婚されるほど仲良くしていたんだ?!」



 「仲良くって・・お話したのは今夜が初めてよ?」



 「――だったらなぜ・・まさか・・」



 ヴィンセントは動揺しながらも逡巡しているのだろう。


 何が彼をそこまで動揺させているのかチェリーナにはわからない。



 「どうしたの?私への求婚は冗談だと思うから気にすることないわよ?・・何か気になることがあるの?」



 「―――・・いや・・ない・・が・・皇太子殿下は決して冗談でそんなことをいう方じゃない。

 俺の方が・・くそっ・・」



 「ヴィンセント?どうしたの?落ち着いて?」



 こんなに動揺するヴィンセントを見るのは初めてだった。今まで自信に満ち溢れていた彼からは想像もできないほどに落ち込んでいるようにすら感じられる。



 「・・・すまない。今はまだ話せない。俺がどうこう言える権利なんてないのに・・」



 「ヴィンセント。貴方は私の大切な仲間よ。不安や悩みがあるなら相談に乗るわ。だから貴方が話したいと思ったらいつでも声をかけてくれたらよいの。無理に話す必要はないわ。」

 苦々しい表情でヴィンセントはチェリーナを見つめる。



 チェリーナは辛そうにしているヴィンセントが放っておけなくて、ぎゅっと抱きしめた。


 「っ!!チェリーナ?」

 驚くヴィンセントに何も返事は返さずにただただ抱きしめる。



 チェリーナは今は言葉は力をなさないと感じてしまった。それなら行動で大切に思っている表現をするしかない。

 ヴィンセントが動揺していようと構わず自身の精一杯の力でぎゅっと抱き着き続け、驚いていたヴィンセントもしばらくすると抱きしめ返してくれる。




 (――落ち着いてくれたのかな・・良かった)



 安心したチェリーナはそのまま抱きしめ続ける。暖かくてすっぽりと包み込んでくれるヴィンセントの体はとても心地よくて、先ほどまでの重い空気がまた花が舞うような温かさに包み込まれていた。




 「今夜はもう帰るよ。――このままここに居たら襲ってしまいそうだからな・・」



 「襲う?!」

 抱きしめていた力を緩めて離れるととんでもない発言でチェリーナは目を大きく見開く。



 「はは。そんな顔されたら今すぐ襲いたくなってしまうんだけど?」



 (そんな顔とは?)


 ヴィンセントが普段の調子を取り戻したのか、いつものように揶揄ってくる。



 「もう!!!心配していたのに揶揄っているの?!」



 ぷんぷんと怒った表情を作りヴィンセントを責めるが、彼の瞳は甘く蕩けるようにチェリーナを見つめていて、余計に困惑させる。



 「とりあえず今日は何もしないから安心しろ。降ろしてくれるか?」



 色々ツッコミたい気分ではあたが、頬を膨らませつつも透過してからヴィンセントを屋敷の外まで飛んで連れ出す。



 「ありがとうな。」



 ヴィンセントはチェリーナを抱きしめたと、額に唇を落としてふっと微笑むとすぐに闇夜に消えていった。



 「・・・え?」


 一体今何が起こったのかチェリーナの頭の中は真っ白になっていた。


降ろして直後に抱きしめられたかと思ったら、額に何か柔らかいものが触れて・・・



 ―――触れて?



 (―――――まさか・・・キス?!!)



 驚愕したチェリーナは顔を真っ赤にしたまましばらくその場に佇むのだった。

 


 

 





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