29_真夜中の密会_1
『今から?』
ヴィンセントの言葉でチェリーナはやってしまったと後悔する。
『ヴィンセント?!・・ごめんなさい・・突然驚いた・・よね?』
『俺は別に。チェリーナのほうが凄い動揺しているように聞こえるけど・・大丈夫か?』
『問題ないわ。いきなり話したいなんて誘われても困るわよね・・こんな夜に・・』
すでに誕生日パーティーは終わりに差し掛かっており、21時になろうとしている。こんな夜に男女で話がしたいなど、普通では考えられない事だろう。
何ということを口走ってしまったのだろうと、自分の感情を責め立てたい気持ちでチェリーナはいっぱいだった。
『そんなことない。俺も会いに行きたいと思っていたんだ・・今日参加できなくてごめんな?』
『それは・・自由だから・・ヴィンセントが参加したくなかったのなら強要はしたくなかったわ。』
『――参加したくないわけないよ。チェリーナの大切な日だったんだから・・今から行っても良いか?』
『本当にくるの?!』
『――チェリーナが許してくれるなら』
まさか本当にヴィンセントが自分と会いたいと思ってくれていると思っていなかったので、熱の籠るヴィンセントの声音に動揺が隠せずみるみる頬が紅潮していくのがわかる。
『私は・・会いたいわ。ただ、今まだパーティーを抜けたばかりなの。1時間後でも良い?』
『そんなに急がせて良いのか?もっとあとでも良いけど・・。
――それじゃ1時間後にエンハンス邸のどこに行けばよい?』
『私は別棟の2階の端の部屋なの。ヴィンセントが着いたら私がバルコニーから、目印を照らすから本棟の前の庭園から別棟に向かって来てくれるかしら?そうすればわかるはずよ』
『わかった。それじゃまたあ後で会おう。』
『――待っているわ。』
ヴィンセントの言葉一つ一つがチェリーナの心に染み込んでいく。
【参加したくないわけないよ】【今から行っても良いか?】どの言葉も心を温かくしてくれるのに落ち着かない。嬉しさと苦しさでどうにかなってしまいそう。
チェリーナは無意識に足早に自室へ戻り部屋着に着替えるのだった。
***
「エリン。今夜はもう休みたいわ。入浴は明日ゆっくり入りたいから、今夜は顔を洗うだけにして良いかしら?」
「大丈夫ですか?疲労したお体には入浴は大切ですよ?」
「大丈夫よ。それより眠さが限界なの。今夜はもう下がってくれて良いから。」
「―――承知いたしました。ゆっくりおやすみなさいませ。」
「そうするわ。おやすみ。」
チェリーナは顔を洗い、着替えを手伝ってくれたエリンを早々に下がらせると、ソファに深く腰掛ける。
「怒涛の一日だったわ・・」
静まり返る自室にぽつりと漏らした自分の声が響く。
皇太子殿下・・第2皇子殿下・・アルガン次期侯爵・・ディオルス侯爵。
今日一日で自分がどれだけの人間に知られたことだろう。
これまでは昨年の誕生日の話題や噂で曖昧に知られていただきだったのに、今夜のパーティーで認知されたのは間違いない。
詳しい話など誰ともしていないというのに、秘密を知られてしまいそうで気が気ではなかった。
ローリーも折角来てくれていたのに軽い挨拶しかできなかった。
それに皇太子殿下のヴィンセントの正体を知っているという発言はただ事ではない。
―――そろそろヴィンセントがやってくる頃だろうか。
チェリーナが時計に目をやると、22時を回っている。
本棟はまだ客人が帰り切っていないのか庭園は明るく照らされていた。
チェリーナは立ち上がり水の入ったグラスを持つとバルコニーへと向かう。
ヴィンセントは皇太子殿下に何を知られているのだろうか?
私たちには言えない何かを隠しているのだろうか?
ヴィンセントは一度たりとて自分を裏切るような言動をしていないし、常にオーウェンと共にチェリーナを守ってくれていた。
誰かのスパイなのではなんて絶対に思ってなどいない。
―――自分に隠し事をされているのだろうか?
―――心を開いてもらえていないのだろうか?
心から信じていた彼が、もしかしたら自分をそこまで信用してくれていないのかもしれない。
そのことが重い鉛のように自分の心にのしかかっている。
(――聞いたら答えてくれるかな・・)
ヴィンセントと話したいことが多すぎてやっと落ち着いた動揺がまた蘇る。
――はぁぁ。
深い溜息を吐いて手に持っていたグラスの水を飲みほした。
『チェリーナ。別棟の前の庭園にいるのだけど・・どこだ? 』
突然ヴィンセントの声が耳元に響き、驚きすぎて思わず手に持ったグラスを落としそうになってしまう。
『今照らすわ!』
すぐに呼吸を整えるとグラスをバルコニーに設置されているテーブルに置いて外に向かって淡い炎を掌に灯した。
『おっ!見えたっ!今下に向かっているけどどうしたら良い?』
『――今降りるわ。』
嬉しそうなヴィンセントの声がくすぐったくて、胸がきゅんと締め付けられる。
透過してから飛んで下に降りると透過を解いてヴィンセントを迎えた。
「わざわざ来てくれてありがとう!部屋に行きましょう。」
「わかった。」
チェリーナはヴィンセントに手を差し伸べると、彼は嬉しそうに返事をすると甘い微笑みを向けながらチェリーナの手をぎゅっと握りしめる。
動揺を悟られないようにすかさず透過魔法をかけ飛んで二人はバルコニーへと降り立った。
「チェリーナ。誕生日おめでとう。」
ついて早々にヴィンセントは小さな花束とプレゼントを差し出しチェリーナに祝いの言葉をかける。
「ヴィンセント?!あ・・ありがとうっ!」
「本当は今日は会えないと思っていたから、花束小さくてごめんな。」
照れてはにかんだヴィンセントが可愛らしい。
数か月振りに会えたヴィンセントになんて声を掛けたら良いものかとは思ってはいたが、チェリーナは会えた喜びと祝ってもらえた嬉しさでいっぱいだった。
「まさか祝ってもらえるなんて思わなかったわ・・」
嬉しそうに花束とプレゼントを見つめるチェリーナをヴィンセントはずっと熱の籠った眼差しでみつめている。
「プレゼントも開けてみてくれないか?」
チェリーナは頷くと箱を開けた。
「これは・・ブレスレット?」
「そうだ。ローリーに相談して2つの貴石を選んだんだ。俺たちの・・瞳の色・・なんだ。」
恥ずかしそうに告げるヴィンセントにチェリーナの胸の鼓動は早鐘を打ち、手にとったブレスレットを見つめると、綺麗な緑とオレンジの貴石が輝いている。
緑はペリドット、オレンジはサンストーンで、癒しと創造性の組み合わせらしい。まさに魔法使いの為のような組み合わせだ。
シンプルな装飾だが、これも日常で使えるようにしてくれたのではないかと察する。
「もしかして普段から使えるようなデザインを考えてくれたの?」
「普段はコリンとしても動くだろ?あんまりごてごて飾ったものじゃ身に着けられないかなと思ってさ。
―――って・・え?・・大丈夫か?!」
オーウェンも、ヴィンセントも。本当にチェリーナの全てを大切にしてくれる。
その心が嬉しくて嬉しくて、抱えていた想いが涙になって溢れ出ていた。
「っう・・嬉しくて・・・っ」
泣き始めてすぐに嗚咽を漏らすチェリーナをおろおろと見守っていたヴィンセントは、チェリーナを引き寄せぎゅっと抱きしめる。
「――そんなに喜ばれたら嬉しくて気がおかしくなりそうなんだけど・・こんなに喜んでもらえるなんて思わなかったよ」
チェリーナはヴィンセントの気持ちが嬉しくて彼の腰に腕を回す。
二人はチェリーナの涙が収まるまで時間を忘れて抱きしめ合ったのだった。
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明日からいよいよ3章に突入致します。
3章が最終章の予定です。引き続きよろしくお願いいたします。
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