27_17歳の誕生日パーティー_1
チェリーナの発熱はすっかり良くなったが、その後誕生日パーティーの為の準備に慌ただしくなりギルドにはいくことができず、外出もしていない。
貴石への魔法を込めるお仕事だけは、ローリーがエンハンス邸まで届けてくれるので何とか毎日滞りなくできている。
今回の誕生日祝いは、家族全員がかなり力を入れてくれているようで、毎日の夕食の度に進捗・相談をしている。
お父様とは関係が良好になって来たことを実感できるようになっていたが、上の兄2人も皇宮での勤務中に皇太子殿下に妹自慢をしているという話を聞いた時には卒倒するかと思った。
夕食の際も、以前よりも積極的に話を振ってくれるし、私の事を否定することはなくなった。
母と妹のルルベルは、16歳の誕生日以降から度々お茶会に誘ってくれるようになり、月に2回はアフタヌーンティを楽しんでいる。
母はチェリーナが思っていた以上に優しく微笑みかけてくれる。そして、何を考えているのか積極的に話を聞いてくれるようにもなった。
妹も今まで寂しかった想いが発散されるように、毎回お茶会の度にしっかり横の席を陣取って話を楽しむ姿はとても可愛らしい。ひよこに後追いされているかのような愛らしさに、最近は無意識に妹の頭をなでなでしてしまう事すらある。
姉2人とはなかなか会うことはないのだが、毎月教会に2回祈りに行く時には一緒に出向き、その時には近況を報告し合える仲にまで関係は回復している。彼女たちとは今は姉というより人生の先輩として色々なアドバイスを受けている感覚が強い。
家族との関係が良好になってきたからこそ、17歳の誕生日は特別なものにしたいと皆張り切ってくれているので、チェリーナも頑張らないわけにはいかない。
オーウェンには無理しなくて良いと言われたが、毎日家族が準備の話をしてくれていると聞くたびにじっとしていられない。
今回はオーウェンは一人で決めさせてもらえないようで少々不貞腐れているようだったが、その分チェリーナの傍で談笑したり、ギルドやウィッシェントローズの相談も親身に乗ってくれている。
ヴィンセントの話はあれ以降してはいないが、チラッと「元気かしら・・」とオーウェンの前で呟いてみた時に「あいつなら大丈夫だ!鍛錬を頑張っているからな!」と教えてくれた。
チェリーナがヴィンセントと連絡を取っていない間も、オーウェンはヴィンセントと連絡を取り合っているらしい。
きっとチェリーナの為にしてくれているのだろう。
当日に着用するドレスは3種類用意された。すでに出来上がっていつでも着ることができるよう準備はできている。
1つ目はゴールドと黄色の混ざった美しい生地に、赤のレース生地をインで組み合わせ、大人の洗練された装いのマーメイドラインドレス。胸元はベアトップでその胸元中央にはいくつものバラと細身のリボンが飾られ薄いゴールドのキラキラと輝く生地がウェストに巻き付いている。胸が小さいチェリーナへの配慮がよくわかる。
2つ目は光沢のあるピンクと紫の薄い生地を幾重にも重ねたフリルを、美しく可愛らしいプリンセスラインドレスで彩っている。胸元には大きいフリルでボリュームをだし、中央にはおリボンをふわっとさせて可愛らしさを演出している。ウェスト切り返し部分のサイドから裾に向かってフリルで彩られ、とにかくお姫様のような可愛らしさを前面に押し出したドレスとなっているのだ。
3つ目は淡いピンクの生地と黒のレースをふんだんに使ったバッスルラインドレス。後ろに向かって黒のレースが美しく流れ、可愛らしい淡いピンクの色を大人びた演出にしてくれる。更にパールを何連にもチェーンとしてドレスに飾り付けられ上品な仕上がりになっている。
どのドレスもお母様とルルベルとオーウェンが言い争いをしながらも、最高の仕上がりになるように力を尽くしてくれた。
その渾身の仕上がりに、チェリーナは満足よりも感謝の気持ちの方が勝っていた。自分のために、こんなにも時間をかけて協力してくれる家族の想いは、家族を受け入れがたくしていたチェリーナの心をあっという間に溶かし、愛情を受けとることができる喜びと、愛情を与えることのできる喜びで【家族愛】を実感できるようになっていた。
準備期間はあっという間に過ぎていき、誕生日当日を迎える。
「チェリーナ!!誕生日おめでとう!!今日もとっても美しいな!」
朝目覚めて朝食に向かう準備を終わらせた辺りでオーウェンは颯爽とやってきた。
「お兄様!ありがとうございます。こんな早くに来て下さらなくても朝食の席で会えましたのに!」
「冷たいことを言わないでくれ。チェリーナの誕生日を家族の誰よりも早く祝いたかったんだ。兄の愛情を存分に感じておくれ!」
オーウェンはチェリーナの言葉に一瞬だけ拗ねたような表情を見せた後、満面の笑みでぎゅっと抱きしめる。
「お兄様の愛情はいつもちゃんと受け取っていますわ。私が笑顔で過ごせるのはお兄様の愛情のお陰だもの!」
「はは。そうだろう?プレゼントも持ってきたんだ。受け取ってくれるか?」
オーウェンは小箱を取り出しチェリーナの手を救い上げ、掌の上に乗せる。
「―――これは?」
小箱を開けてみると、シンプルな大きな淡いピンクのローズクウォーツのブローチだった。
淡いピンクだが、シンプルで令嬢が聞かざるようなデザインではないように感じた。
「これはね。コリンの時に付けて欲しいなと思って、ローリーに相談しながら石を選んで、その後俺がデザインして作ったモノなんだ。魔力は当たり前だが込められていない。できたら体力回復用の魔力を込めて、何かあった時のために着用していて欲しいなと思ったんだ。」
「お兄様がデザインしてくださったんですか?コリンの為に?!」
チェリーナはオーウェンの心遣いに目を見開いて驚く。
魔法を使いすぎてコリンが体力がなくなって動けなくなった時に、万が一の為として持ち歩かせたいと思ってくれているのだろう。念のため異空間貯蔵に沢山体力回復と魔力回復の魔力の込められた貴石は持っているが、咄嗟の時には身に着けている貴石の方が断然早く回復できるのは間違いない。
チェリーナとしてだけでなく、コリンとしても案じてくれるオーウェンの気持ちが嬉しくて堪らない。
「お兄様ありがとう!最高のプレゼントだわ!魔法を使う時は必ず着用するね!」
チェリーナの喜ぶ表情にオーウェンはもう一度ぎゅっと抱きしめてくれたのだった。
朝食を皆で食べると、午後から行われる誕生日パーティーに向けて大忙しで身支度の準備が進められていく。
朝食前までに、早朝から入浴やスキンケアまで済んでいたので、朝食後はドレスアップとヘアセットを急ぐ。
エリンだけでなく、侍女を3名追加してどのドレスを着用して、どのアクセサリーや靴や手袋を使うのか早急に決められていくのだ。
5時間近くかけて着替えとヘアセット、式の準備の打ち合わせを終わらせると、タウンハウスの大広間へ移動する前に家族は食堂に集まりお茶を楽しんだ。
夕刻から始まる誕生日には皇太子殿下も来賓として来訪が決まっている。更に、昨年の誕生日の話題により、今回は侯爵位までの高位貴族は参席可能とし、招待状も送っているらしい。
今回は前回の比ではなく、300人前後の招待客が参席する予定となっている。
その為、今回はウィッシェントローズへの招待はローリーのみとなったらしい。パートナーはマライセル一族の護衛のマイケルが共に来てくれるようだ。
家族でゆっくりと会話を楽しんだのちに、チェリーナはオーウェンのエスコートで大広間へ入場する。
前回とは日にならないほどの美しい装飾と楽団の奏でる心洗われる音楽にウットリしながらも、会場には大勢の客人で凄い熱気となっていた。
「・・お兄様・・凄い数のお客様方ですわね・・」
「確かに多いが、しっかり客は選んでいる。それに俺がそばにいるから安心してよいよ。」
「勿論お兄様を信じておりますわ!」
今回は正式なパーティーとなっている為、最初のダンスはエスコートしてくれたオーウェンとではなく、皇太子殿下とファーストダンスを踊ることになっている。
オーウェンはチェリーナが気負わないように、ゆっくりしっかりと皇太子殿下の元までエスコートしてくれる。
歩みを進めるその先の皇太子殿下は、美しい濃紺のジュストコールを纏い、ジレやパンツ、クラバットは白とゴールドの刺繍で美しく煌びやかな装い。赤とゴールドのサッシュは皇族の証をしっかりと示している。
美しい銀色のさらさらな髪は耳にかかる位の長さに整えられ、爽やかな印象を惹きだしてはいるが、美しい炎のような色の瞳の目じりにある2つの涙黒子が色香を醸し出し、見る者を虜にしてしまう二面性を魅せている。
鼻筋はすっと通っており高めで、唇は形が整っていて微笑む表情は優しい面差しを引き立たせる。
じっと見つめていたチェリーナの瞳と皇太子殿下の瞳が交わり、彼もこちらに歩み寄ってくる。
「今夜は招待いただきありがとう。皇太子のアルファン・ヨーゲンバレンだ。」
「わざわざお越し下さりありがとうございます。オーウェン・エンハンスと妹のチェリーナ・エンハンスです。」
「チェリーナでございます。今年もご来席下さいまして光栄でございます。今夜はどうぞよろしくお願いいたします。」
「昨年も思ったが、今年は更に美しく成長されましたね。チェリーナ嬢の装いはまるで童話から飛び出してきたプリンセスそのものだ。ピンクとパープルの色合いのバランスがとても似合っている。是非私と一曲ダンスを踊っていただけるかな?」
「身に余るお言葉ありがとうございます。ダンス喜んでお受けいたします。」
アルファンに差し出された手を取るとダンスフロア中央へ進む。
「本当に美しく成長されてとても驚いています。昨年会話できなかったことが悔まれるほどに。」
「そんな。昨年は私の都合でご挨拶できず申し訳ございません。この一年はとても有意義に過ごせましたので、心身の成長がそのように見せているのかもしれません。ありがとうございます。」
「そんなにかしこまらないで。二人の時は是非崩して話して欲しいな。」
にっこりと微笑むアルファンはどんな女性も一瞬で虜にしてしまうような神秘的な美しさで、まるで妖精や神のように神々しい。
「とんでもございません。お話できるだけで光栄ですのに崩してお話しするだなんて・・。」
「今後君とは仲良くしたいと思っているんだよ。
間違いなく素晴らしい縁で繋がっていると私は確信しているんだ。」
意味深な言葉を告げるアルファンの意図は図りかねたが、素晴らしいアルファンのダンスのリードに魅了されその時間をしっかりと満喫してしまう。
「――もし私が君に求婚したら、チェリーナ嬢は喜んでくれるかな?」
(???)
「―――私など皇太子殿下のお相手には相応しくございません!16歳まで引きこもっていた令嬢など、今夜のお相手に選んでいただけただけで充分なご褒美なのです!」
「はは。そんな風に言って貰えるのは嬉しいけれど、私はかなり本気で気持ちを伝えているのだよ?」
アルファンの言葉は優しいままだが、瞳の奥には明らかにこちらを見通そうとする鋭さが宿っていて思わずチェリーナは身構える。
「私は、まだまだ未熟です。結婚もいつかとご縁があればとは思っておりましても、自分が夫となって下さる方に相応しいと思えるようになるまでは嫁ぐつもりはないのです。政略結婚もございますが、私の立場でやんごとなき皇族の方々との政略結婚はあり得ませんわ。」
きっぱりと告げるチェリーナの表情に迷いはない。
遠回しのお断りを皇太子殿下がどう受け取るのか不安を感じつつもにっこりと微笑んで見せた。
「チェリーナ嬢は見た目と違って意思の強さを感じる聡明なご令嬢なのだね。とても珍しくてより一層興味を持ってしまったが、折角の縁に水を差したくはないからね。これから少しでも仲良くなれたら良いなと願っておこう。」
「私こそ素晴らしいご縁に感謝しております。私の誕生日の祝いの席にご来席いただけて一生の思い出ですわ。」
二人は微笑みを絶やさずダンスを踊り切るとオーウェンの元まで戻っていくのだった。




