26_発熱
ヴィンセントからパーティーの招待を断られた翌日からチェリーナは久しぶりの熱が出た。
「チェリーナ!一体どうしたんだ?発熱だなんて最近ずっとなかったのに・・」
チェリーナの体調不良を聞きつけて真っ先に飛び込んできたのはオーウェンだった。
「ごめんなさい。最近色々考えることが多かったから気がめいってしまったのかもしれないわ。」
「悩むことなどないのに・・何かあれば俺も家族もマライセルも付いているじゃないか。」
ベッドに横たわったままのチェリーナは力なく微笑む。
「ありがとう。自分がしてきたことが良かったことだったのかわからなくなってしまって・・。」
「どういうことだ?話を聞かせてくれないか?」
オーウェンはベッドサイドに椅子を運び腰掛ける。
「・・心配替えてごめんなさい。」
「謝ることなどない。話してくれるか?」
チェリーナの頭を優しく撫でながら
チェリーナはオーウェンにこれまでの貴石の販売やギルド討伐の事が、思っていた以上に大きな話題になってしまっていることに不安を感じていることを話した。
そして、そのことによってエンハンス家やマライセルに迷惑をかけたのではないか。ヴィンセントも平民なのに巻き込んでしまったことを吐き出す。
「気にしなくていい。その事は俺も、マライセルもわかっていたことだ。ヴィンセントだってそれはわかっている。最初のころに話してあるからな。」
「ヴィンセントと?」
「当たり前だ。チェリーナは大切な妹だし、魔法使いでもあるんだ。関わるのであればしっかり自覚してもらわなくては困るからな。その為に決闘までしただろう?」
「・・・そうだったわね。でも・・私・・もしヴィンセントが私のせいで何かあったら・・耐えられない。・・今だって・・」
「ヴィンセント?・・ちゃんとお前の事を理解してやりたいんだ。ヴィンセントの事も俺は信頼している。言える範囲でも構わないができる限り話しては貰えないか?」
「――私・・ヴィンセントを巻き込んでしまったから・・彼は私と距離を置きたいのかなって・・パーティーに招待したのだけど・・行かないって・・きっとヴィンセントにいつも無理を言ってばかりだから・・」
「パーティー?誕生日パーティーの事か?」
チェリーナは黙ったままこくんと頷く。
「そうか。お前からも誘ったんだな。俺も誘ったが行かないとは確かに言っていたな。」
「お兄様も誘ってくれていたんですか?」
「あぁ。お前の誕生日なんだ。ヴィンセントは仲間なんだから当然だ。」
オーウェンの微笑みでチェリーナの苦しかった心は温かく思わず涙腺が緩む。
「ただやはり平民であることで、気を使っているようだったな。こればかりはあまり強制すべきではないかと思って事情はそこまで聞かなかったが・・まさかそのことでチェリーナが悩んでいたとは知らなかったよ。」
「・・私も・・行く行かないは・・自由だし、そこまで気にすることじゃないってことは・・わかっているんです・・けど・・拒否されたのが初めてで・・ショックだった・・のかな。」
「チェリーナ?・・・まさかお前・・」
チェリーナが仲間を大切に思う気持ちや人にやさしく、困っている人間を助けたいという意思を貫く姿をオーウェンはずっと見守ってきた。
しかし、涙ぐみながら話すチェリーナの瞳が仲間に対して向けているものではないのだろう。
「・・・・いや。今はお前が自分の気持ちを受け入れられるようになるまで追及はよしておこう。
だけど忘れないでくれ。俺はお前の兄だ。何かあれば絶対に助ける。
だから一人で抱え込まないでくれ。念話でも直接話すでも構わないんだ。
俺という存在がいることを忘れるんじゃないぞ?お前は一人じゃない。」
「―――お兄様・・あり・・がとう。」
溜まっていた涙はぽろぽろと頬を伝って髪に落ちていく。目じりも熱くて上手く開けていられない。
ただオーウェンの存在がチェリーナの胸を熱くさせて昂った感情は涙となって零れ落ちていく。
帝国を波乱に巻き込むかもしれない状況の中
ヴィンセントの事で考えすぎて熱まで出して
それでも当たり前のようにそばにいてくれる存在に言葉に表せないほどの温かさでいっぱいになった。
チェリーナはオーウェンに頭を撫でられながら涙を流し、気づけば眠りについていた。
「チェリーナ・・身分違いの恋は・・苦しいぞ。
―――それでも俺は・・ずっとお前の傍にいるからな。」
チェリーナの額に口づけを落とすと優しく微笑みオーウェンは部屋を後にする。
***
『――ヴィンセント。今どこにいる』
オーウェンは廊下を歩きながら問う。
『ジークか?どうした?』
ヴィンセントはいつものように返事を返す。
『――話がある。会えるか?』
『・・・わかった。どこで落ち合う?』
『それなら――――。』
オーウェンはヴィンセントとその夜店で密談をした。
しかしその話がチェリーナに伝わることはないのだった。




