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23_予想以上の成果









 ―――コンコン。


 「――入りなさい。」



 熱の籠らない声音はいつも通りなのに、お父様の表情には明らかに動揺が見える。


 「――あの。お父様。今お時間よろしいでしょうか?」


 「チェリーナ・・構わない。朝早くからどうしたんだ?」


 先ほどの落ち着き払った態度とは考えられない程熱の籠った声音だった。


 優しくチェリーナを迎え入れるお父様の姿に、チェリーナは思わず目を見開いてしまう。


 「――実は、昨日オーウェンお兄様と出かけたウィッシェントローズに忘れ物をしたのと、オーナーに話し忘れたことがあったので、出かけたいと思うのですが、許可をいただけますか?」


 連日外出をすることを変に思われないか心配で堪らなかったチェリーナであったが、お父様の返事ですぐに杞憂であったと知る。


 「行ってくると良い。先日のパーティーも立派だった。私はとても嬉しかったよ。」


 「・・お父様・・が?・・嬉しい?」


 「そうか・・チェリーナにとっては私がそんなことを感じるとは思わなかったのだな。私はお前の事をいつも案じている。


上手く伝えられず、今までチェリーナを傷つけてしまっていたことを気づけていなかった。私はお前に愛情を伝えられるように・・今後も努めよう。」



 「・・お父様・・が・・愛情??」


 「――信じられなくても当然だ。だが遠慮なくこれからは許可を取りに来なさい。お前を傷つけるようなことはしないよう、私も学び続けている。」



 「お父様が学ぶ??」



 「ははは。情けないが学ばなければまた傷つけてしまいそうだからな。オーウェンに何度も説教された。この年で不甲斐ない父親だが、存外息子に教わるというのもなかなか面白いと思っている。

 今までの物言いが許されるわけではないし信じられないかもしれないが、これからのお前に対する態度で判断してほしいと思っている。」



 お父様の自嘲する姿が信じられなくて、チェリーナは夢ではないか確認したくてたまらない。



 「私はお父様がそのようにおっしゃって下さるだけで胸がいっぱいですわ。」



 オーウェンがまさか裏でお父様を説教していただなんて信じられないが、今のお父様の態度を見れば納得せざるおえない。

 お父様の物腰は柔らかく、愛情の籠った声音で話しかけてくれる。チェリーナの心は染み渡るような温かさに包まれていく。



 (――お兄様は私の代わりにお父様と向き合ってくれていたのね・・)


 チェリーナは覚醒してからオーウェン以外の家族に対しては冷徹令嬢な態度は全く変えていなかった。しかし、日に日に変わっていく家族の姿に疑問は感じていた。

 

 オーウェンは恐らくお父様だけでなく、他の家族に対しても働きかけてくれているに違いないと確信できた。



 (お兄様は想像以上に私の事を大切に思ってくれていたのだわ・・本当今さらだけれど・・私も家族と向き合わなくちゃ・・)



 お父様との話を終え、店に向かう馬車の中でずっとオーウェンや家族の事をチェリーナは考えていた。


 今までは、とにかく発熱症状が出ないように気を張っていたから、周りを見ることができなかった。


 自分が具合が悪い時、家族がそばにいてくれない事だけにしか目が向けられなかった。


 そんな日々が続いて、人と接することが億劫になって




 外出をしない。


 人と会話もしない。


 表情も変わらない。



 そんな私に、家族がどう接してよいかわからなくなるのも当然だったのだろう。




 オーウェンが家族に自分の代わりに向き合ってくれなければ、チェリーナは今この瞬間ときのように、自分を振り返ることもできなかったのだうと気づく。


 自分が熱に抗い、前世を思い出し、生きたいと前向きに思えて行動できたことが、オーウェンに声をかけるきっかけとなった。


 些細なことが始まりだったけれど、オーウェンに話しかけようと思った行動が、こんなに良い方向に繋がるなんてきっとあの時の自分は思わなかった。


 チェリーナは偶然のような必然に、自分が前世を思い出したのはやはり理由があったのだろうと思わずにはいられない。






 つく前に連絡してあった通り、ヴィンセントはウィッシェントローズですでに待ってくれていた。


 「ヴィンセント!昨日もありがとう。今日もよろしくね?」



 「やぁ。チェリーナ!俺の方こそ昨日は助かったよ。今から着替えるのか?」



 「――う・・うんっ!奥で着替えてくるからちょっと待ってて!」



 ヴィンセントは店内の商品を見ながら待っていたのだろう。

 

 甘く微笑んで迎えてくれる姿に、チェリーナの胸の鼓動は突然早鐘を打ち始め、頬も熱を持っていくのが自分でもわかる。


 慌てて返事をしたからか上擦ったような声音になってしまい、チェリーナはそそくさと奥の部屋に向かうのだった。



 


 ローリーたちの補助もあり、すぐに着替えを終わらせたコリンは、ヴィンセントと共に帝都南区ギルド支部に向かう。




 ギルド内は10時前だったからか、数名ホールで話をしている冒険者がいるだけだった。



 「昨日の討伐申請をした討伐の証を持ってきました。」



 早速二人はギルド討伐の申請・報告のできるカウンターへ進み、職員にベアレイジ3頭の手と、大きな黒鳥の手もついでに8本差し出しコリンは職員に報告をする。


 「――これは!ベアレイジですね!!あとこちらはピアシングクロウ?!ベアレイジと同じくAランクの討伐対象の獣ではないですか!いつ討伐されたんですか?」



 討伐の証を見て職員は驚愕し、明らかに興奮している。

 


 「え?昨日ベアレイジ討伐中ですけど?」


 

 コリンが怪訝そうに返事をしたことに、驚愕したままの職員はコリンとヴィンセント二人を交互に何度も凝視している。



 「――いや・・そんな・・まさか・・これを3人で・・え?・・本当に??」

 職員の声はあまりにも小さく呟くようだったので2人は言いようのない不安が込み上げる。



 「・・まさか討伐と認められないなんてことはないですよね??」



 「と・・とんでもありませんっ!!これは討伐の証として問題ありませんよ!ただ・・御3方だけでこの数の獣を倒したというのが信じられないだけです!」



 「え?そんなに信じられないようなことなのかな?」


 「あーー・・確かに3人でこの討伐数はあり得なかったかもしれないな・・。」


 コリンの問いにヴィンセントもやっと気づいたのか、自分たちがとんでもなく強い獣を3人だけで多量討伐していたことに気づく。



 「ありえないなんてものじゃないですよ!帝都南区ギルド始まって以来のとんでもない成果です!!

 一体あなた方は何者ですかっ?!」



 職員の声はギルドホール内に響き渡るような声量で、周りの冒険者まで皆カウンターを注視している。



 「あの・・今回はたまたまなんですよ。そんな言われるほどの事じゃないんで・・」


 「いいえ!これは偉業ですよ!おや?!貴方方はAランクのようですが、もうお一人はCランクなのですか?!・・・今回の討伐でその方もまちがいなくAランクではありますが・・まさかCランクの冒険者とAランク冒険者2名だけでこの成果とは・・す・・素晴らしすぎます!」



 「あ・・ありがとう・・ございます?」


 コリンが胡麻化そうにも職員はヒートアップするように興奮していて、2人共どう対応したらよいかもわからない。



 「きっと帝国内の冒険者がこのことを知ったら驚くはずです!本当に素晴らしい!

 Cランクのジークさんのギルド認定証は、変更が必要ですので後日必ずギルドへお越しくださるようお伝えくださいね!」



 「・・わかりました。」



 報告してから終始興奮していた職員は、報告受付を完了後はそそくさと奥に引っ込んでしまった。もしかしなくとも上に報告に行ったのだろう。



 「・・なんだか思っていた以上の大騒ぎになっていたようだね?」



 「・・そうだな・・俺もここまで驚かれるとは思っていなかった。昨日のピアシングクロウがAランクだとは俺も知らなかったから、それが8羽っていうのは流石に驚かれても仕方なかっただろうな・・」



 「僕・・やり過ぎちゃったんだな・・」


 コリンは今さらになって魔法でやり過ぎたのだと気づき、ピアシングクロウの報告なんてしなければ良かったと後悔するのだった。



 「とりあえず今回の件でもかなり目立ってしまったし、Aランク討伐は3人で受けた方が良い。それにまだ実力がお前に頼り切ってばかりでは先が思いやられる。まずは鍛錬と、簡単な討伐で様子を見ないか?」



 ヴィンセントは今回の討伐報告で慎重に動くべきだと思ったのだろう。



 本当であれば、コリンは強い獣をどんどん討伐したい気持ちで昂っている。しかし、2人と組んでいる以上合わせるべきということはわかっている。



 「そうだね。それなら今日は良ければBランク辺りの獣討伐なんてどう?2人でもいけそうじゃない?」



 「・・そうだな・・Bランクならジークがいなくても俺だけでもコリンを守れそうだし・・やってみるか?」


 

 (――私を守る?)



 許可はヴィンセントからもらえたものの、何故そこまで頑なにコリンを守ろうとするのか納得したくなかった。



 自分だって2人と同じように戦えることをわかってほしい。



 認めてほしい。



 コリンの中で承認欲求がどんどん強まっていくばかり。



 「――コリン。お前は特別な力で確かに討伐で活躍していた。だが、もし近くに住人が見ていたらどうなっていた?

 人が見ている前であの戦い方ができるか?

 俺たちはどんな状況であっても勝てる戦いをしていかなくてはならないんだ。

 コリンも特別な力に頼りすぎるんじゃなくて、短剣や戦術をもっと学ぶべきだ。」



 コリンの不服そうな表情にきっとヴィンセントは気づいたのだろう。



 痛いところを突かれてコリンは言い返すことはできなかった。



 「・・・・」



 「言い過ぎたな・・。すまない。だが、俺もジークも何かあった時、お前を守れなかったら絶対後悔する。だからしっかり経験を積んで行こう。

 ――――わかってくれるな?」



 「――わかったよ。・・ヴィンセント。」



 しゅんっと表情を曇らせつつも、ヴィンセントの言った言葉は理解できる。ただ、認めたくない自分とのせめぎ合いで上手く言葉は出てこなかった。




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