22_それぞれの苦悩
店に到着するころには夕刻時を過ぎ、もう夜の6時を回っていた。
いくら常歩であったとはいえ、馬の上は居心地が良いものではない。しかし、コリンはジークに背中を預けて眠れるほど疲れ切ったようだった。
ジークはオーウェンに戻ると、眠ったままのコリンにフード付きのローブを頭に被らせて体を包み隠し、馬車に乗せて寝かせる。
「ヴィンセント。今日はありがとう。討伐の証はチェリーナが持っているから、明日以降にギルドに届けるようにしよう。」
「――わかった。それで構わない。」
「今日の事だが、私たちはコリンがいなければベアレイジに勝てたかわからないだろう。元々がランクAでもかなり厳しい討伐ではあった。無茶な敵ではあったが、それでもやはり俺たちがこのままではコリンを守り抜くことは難しい。」
「・・・わかっている。」
二人は渋い表情で同意する。
「――ここからだ。俺たちは鍛錬と経験を積まなくてはならない。今のままでは役不足だ。わかってくれるな?
せめてベアレイジを1匹位一人で倒せるくらいでなくてはならない。」
「俺も同感だ。鍛錬を今まで以上に励むよ。」
「頼む。私も騎士団の連中に力を借りてでもどうにかする。次の討伐までにそれぞれ力をつけよう。それまでは無茶な討伐は受けない。確実に私たちが仕留められる討伐のみにしよう。頼むぞ。」
「――わかった。」
オーウェンとヴィンセントは3人の初討伐を終え、固い決意を胸に店を後にしたのだった。
***
「――ん・・っ」
目を覚ますと部屋の中は暗くなっていた。
目を凝らしてみるとそこはチェリーナの自室だった。
「――え?なんで?・・討伐は???」
周りをキョロキョロ見渡しても当たり前だが誰もいない。そして自身もコリンのまま眠っていたらしい。
魔法を解いて着替えてから状況を確認する。
「・・・討伐の証はまだ私が持っているのね・・私が寝てしまってからどうなったのかは聞いた方が早そうだわ・・」
チェリーナは時間を確認するとすでに22時を回っていた。
(・・・この時間ならまだ起きてるかしら?)
『お兄様・・まだ起きていますか?』
チェリーナは念話でオーウェンに声をかける。
『チェリーナ?起きたのか?』
『えぇ。今目が覚めました。もしかしてギルドへ討伐報告も私のせいでできなかったのでしょうか・・』
『気にしなくていいよ。一番チェリーナが体力を使ったのだから、報告なんて明日以降で構わない。体は大丈夫か?』
オーウェンはいつもの声音で話しかけてくれる。ジークの時は少しクールな感じが増して、少し緊張してしまったのでいつも通りの兄にすごく安心する。
『私は大丈夫です。回復も必要ないくらい体力も寝たので問題ないです。討伐の証は私が明日ギルドに届けてよいですか?』
『俺は明日は皇宮に行かなければならない。それならヴィンセントと一緒に行くように。無理なら護衛を連れて行くんだ。絶対に一人では行ったら駄目だぞ?』
『わかりました。ではヴィンセントに聞いてみますね!それじゃおやすみなさい。』
『おやすみ。チェリーナ』
『ヴィンセント起きている?』
オーウェンへの念話を終え、ヴィンセントにもアルの事を伝えるために念話を送る。
馬に一緒に乗った時のヴィンセントを思い出し、チェリーナは言いようのない気持ちになり居住まいをただしてしまう。
『チェリーナ!起きたんだ?体調は大丈夫か?』
『心配かけてごめんね。気づいたら爆睡していたみたいで、討伐報告もできず解散になってしまったよのよね』
『報告なんていつでもできるだろ?今日はチェリーナにばかり負担をかけたから心配だったんだ』
ヴィンセントはチェリーナの事を本当に案じてくれているような声音で少しだけ暖かくそしてくすぐったさを感じるのは何故だろう。
『ありがとう。その・・討伐報告の事なんだけれど、明日はお兄様は仕事があって、私一人で討伐報告に行くのだけれど、もしよければヴィンセントにも一緒に行ってもらえない?』
『構わない。むしろ仲間なんだから予定がない限り必ず一緒に行くから。行くときは行ってくれよ?』
『本当?――良かった。お兄様が一人じゃ行っちゃダメだって言うから困ってたの。』
『――それは俺も同意見だな。絶対一人で行ったら駄目だぞ。』
『え?・・・なんで?』
『・・コリンみたいな少年冒険者がひとりで行動していたら危ないからだ!』
『・・そうなんだ。わかったわ。』
力なら誰にも負けない自身があったが、ヴィンセントの声音は随分厳しいものだから否定なんてできない。
『明日一度店に集合してから行こう。午前中で着いたら連絡くれ。』
『わかった。よろしくね!』
今日の討伐で自分の力量はしっかり見てもらえたと思ったけれど、やはり帰りに爆睡してしまったことが心配をあたえてしまったのだろうか。
ちっともコリンの実力を認めてもらえた気がしなかった。
「・・・もっと体力付けないとね・・」
静まり返った部屋でチェリーナは深い溜息を吐き出すのだった。




