20_いたずら心
ギルドへ登録したジークのギルド認定証はCランクだった。
当然今までの実績はなかったのと、無名だったこともあり当然の結果ではあったが、それでも依頼の掲示板を見に行くと、ジークは真っ先にAランク討伐を指さした。
「お前たち!これを受けるぞ!!」
誰よりも乗り気で指示したジークの指名した依頼は、
【アルダナ森林北西に出没、近隣のエルネイ領の領民に被害。討伐ベアレイジ3頭】
だった。
「ジーク?ベアレイジって・・・確か3メートル近い大きさの巨熊ですけど・・最初からそんな獣で良いの?」
「ん?何を言う。お前たちはランページディールを5頭討伐しているんだろう?なら熊だっていけるさ!」
(まてまて・・熊と鹿じゃ雲泥の差なんですけど?)
3人なら余裕だとノリノリなジークを見て、実はかなり血の気の多い性格だったのだろうか?とコリンは考えを改める。
普段にこやかに飄々と生きているように見えたオーウェンの姿は、まだほんの一部に過ぎなかったのかもしれない。
ヴィンセントは迷いなくその依頼書をジークから受け取ると申請をだしに行く。
「―――いつ行く?」
ヴィンセントは不敵に笑う。
「今からだ!」
当然かのようにジークは答えた。
(―――即決・・・)
次からはコリンが決行日を決めようと強く誓ったのだった。
「北西部のエルネイ領か・・まずどうやって探すかだがコリン。何か策はあるか?」
作戦を立てるために一度店に戻り、奥の部屋でジークはコリンに話を振る。
「僕は敵意や害意を向ける生き物や物質を判断できるんだ。小さいものから大きいものまで様々だけど、敵意を向けられないと気づけない。
だけど、領民を襲っているベアレイジであれば、かなり敵意を普段からまき散らしていてもおかしくないと思う。」
「確かにベアレイジなら敵意はすぐ感じ取れそうだな。」
ヴィンセントの言葉にジークも同意する。
「それならコリンの探知魔法でベアレイジを探すという事でよいか?」
「そうだね!だけど、ここからであれば、エルネイ領のどこかの馬留に馬を留めさせてもらってから、空を飛んでいくのが速い気はするんだよね。」
「飛ぶっ?!3人で?どうやって?」
ジークは普段の冷静さをかなぐり捨て興味津々でコリンをみつめる。
「僕が二人の手を掴めば3人一緒に飛ぶことは可能だよ。体力は多く消耗するかもしれないけど、早く済まさないと夕刻を過ぎてしまうでしょ?時間短縮狙うなら飛ぶのが速いと思う。
ただ、今回は体力切れ起こしたら困るから、体力回復のパワーストーンも用意していこうと思うよ!
こと切れたら・・・大変だしね。」
コリンの言葉にヴィンセントはくすりと笑う。
「まぁ男二人いるんだからおぶったっていいけどな?」
わざとらしくにやりと笑うヴィンセントをコリンは睨み返す。
「そうならないように対策するんだよっ!」
コリンは昨日を思い出し頬を赤く染めて言い返す。
「ベアレイジを倒しても、他の獣が出ないとは限らない。念のためを考えるならパワーストーンはあったほうが良いだろう。」
ジークは優しくコリンの頭を撫でて援護する。
「ジーク!そうしよう。すぐ作れるし!あと、短時間の飛行で済むように、先に遠くからもベアレイジの探知をして、それから上空からベアレイジに近づけたら魔力消費も少なくて済むと思う。
見つけたら、全員に直系1メートルの物理攻撃防御のシールドをかけてから、身体強化もかけるつもりだよ。攻撃をするときは二人に積極的に攻撃してもらって、僕は最初の一撃目とあとは援護に徹底するつもり!
何かあれば攻撃魔法も使うけど、体力消耗の調整を考えながら動かないとならないから、あまり期待はしないで欲しい!装備として予備で持ち歩きたいものがあれば、貯蔵空間に保管して持っていけるから言って欲しい。」
「・・・なんかそこまで聞くと楽勝に感じるな・・」
ジークは感嘆して呟く。
「いや。甘く見ない方がいいだろ。他の獣がいないとは限らないんだ。万が一他の獣がいた場合、一番狙われる可能性が高いのはコリンだ。極力体力の消耗が少ない状況で動かないと一気に全滅だってあり得る。」
「そうだな。魔法ありきな考えは止めておこう。あくまで補助だ。」
ヴィンセントの言葉は一度討伐でチェリーナの魔法を体感していたからこそ言えることであったし、ジークはその事をしっかり感じ取ってすぐに考えを改めてくれる。
(――このチームほんと話の理解が速くて助かる!!)
当初チェリーナが懸念していた【魔法頼み】にされたくないという気持ちをこちらが言わずして理解してくれる2人に嬉しくて堪らなかった。
「それじゃコリンの準備ができ次第向かおう。馬の手配はローリー頼む!――コリンは馬に乗れるか?」
―――ぎくっ!!
ジークの鋭い問いに思わずコリンの体は強張った。
「・・・一人で乗ったことはないけど・・・魔法の補助があれば・・・乗れる・・かな?」
「「・・・・・」」
二人は唖然とした。
流石に乗馬は貴族令嬢はたしなみ程度に常歩程度なら乗れる者がほとんどなので、特に高位貴族が乗馬できないというのは珍しいことであった。
「すまない。体が弱かったチェリーナに乗馬は無理だったよな・・なんでもすぐ上達するからできるように思ってしまっていたよ。」
ジークは直ぐに気づきコリンに謝る。
「実は私無意識に身体強化しているようで、ダンスの時もそのおかげですぐ踊れたみたいなんだ。」
「・・なるほど!その身体強化はそんなに体力消耗が激しいものなのか?」
「ううん。むしろ息を吸うように自身の身体強化はできてしまうから、逆に体力消耗はしにくいかもしれない。」
「ならとりあえず基礎だけすぐ教えるから、できそうなら一人で乗れば良いんじゃないか?無理なら俺と乗ったらよいよ。」
コリンの話を聞いてジークは優しく微笑んだ。
「お兄様・・ありがとうございます!」
ジークとコロンの家族愛はとても微笑ましいものであった。しかし、ヴィンセントは言いようのない表情で二人を見つめてしまう。
ローリーに馬を用意してもらい、コリンはジークに乗り方を教えてもらっている。その少し離れた場所で用意が終わったヴィンセントの横にローリーは気づかぬうちにやってきた。
「あのお二人はとても仲が良いのですよ。チェリーナ様はいつもオーウェン様の話をしているので。」
「―――何が言いたいんだ。見ればわかるだろ。」
「えぇ見ればわかりますわ。だから、傍にいたいならオーウェン様に負けている場合ではないという事ですよ。ふふ。」
「・・・・・・余計なお世話だ」
ローリーは楽しそうに微笑むとコリンの応援に向かう。どこの馬の骨ともわからないヴィンセントをチェリーナがパートナーに選んだことの腹いせができたことが満足だったローリーであったが、そのことでヴィンセントの心に火をつけてしまうとは思いもしなかった。
「――そうだ!もう十分乗れそうじゃないか!手綱の扱いも慣れそうだな!私が後ろに乗って補助するから一度馬を走らせてみるか!」
上達の早いコリンを誇らしげに微笑み一人のリをジークは勧める。
「うん!そうするよ!」
「――ちょっと待ってくれ。ジークはコリンと息が合うから、今一緒に乗らなくても大丈夫だろ?何かあった時の慣らしの為に俺が後ろに乗って補助するよ。」
さらっと言ってコリンの後ろに即座にヴィンセントは跨る。
「――ヴィンセントっ?!」
「なっ?ヴィンセントいきなり横取りか?!」
突然の事に二人は目を見開く。
「慣らしだよ!慣らし!気にすんな!」
ヴィンセントはコリンの腰を掴むと、「早く進みなっ」と敢えて耳元で囁いた。
胸がきゅうっと締め付けられるような違和感と頬が朱に染まる感覚する。
どくどくと鼓動が高鳴るのがわかるが、時間もないので自分の気持ちを見ないふりして馬を走らせ始めた。
2人一緒になったからか常歩であっても手綱が扱いにくい。
「まだ一人じゃ難しいんじゃないか?討伐に向かえば途中に何が起ころかわからないだろ?少なくとも数か月は練習を積んだ方が良いと思うが?ジークは妹贔屓が強すぎるんだと思うぞ?」
ヴィンセントの言う通りだろう。
確かに感覚的にすぐに乗り、常歩までは何となくできたが、いくら成長が早くとも生きている馬に長時間乗るには経験が浅すぎる。
元々慎重なコリンにとってはヴィンセントの言っていることは当たり前の事だった。
「・・今回は一人で乗るのは止めておくよ。」
コリンはしょんぼりしつつも無理はできないと諦めた。
「いい子だ。」
ヴィンセントはふっと微笑むとさり気なくコリンの耳朶の後ろ辺りにちゅっと口づけた。
「っぇえ?っ!!」
突然の事に驚き体勢を崩しそうになるコリンにクスっと微笑むと、ヴィンセントは手綱を代わりに持ち馬を誘導してジークたちの元へ戻った。
ヴィンセントはコリンの反応が可愛くて弄りたくてたまらないが、流石に状況を考えそれ以上は控える。
コリンは起きたことの刺激が強すぎて、頬を真っ赤に染め上げただただ硬直しながら前方を凝視することしかできなくなってしまった。
「コリンどうした?!」
コリンの様子のおかしさにすぐさま気づいたジークが声をかけるが、コリンは動揺してしまい上手く言葉が出せない。
「コリンにはやはり一人のリはまだ早いようだ。今回は馬2頭で行こう!」
ヴィンセントは何食わぬ顔でジークに告げる。
コリンはいつの間にか動揺していた間にヴィンセントに馬から下ろされていたのだった。
(――あれ?!私いつの間に馬から降りていたの?!!)
1人慌てるコリンを置き去りにして、ジークとヴィンセントは念のため2頭の馬に二人用の鞍と鐙を装備してもらい、ジークとコリンが共に馬にのってエルネイ領へ向かうことになったのだった。
移動中ヴィンセントと目が合い、再びコリンの胸は締め付けられる。火照る頬の熱で冷静さを失いかけるが、ジークの怪訝そうな瞳にハッと気づき冷静さを取り戻すのだった。




