19_決闘
「お待たせしました。お兄様!」
「―――は?」
コリンになって目の前に立つチェリーナは、髪は茶色の短髪。美しかった新緑の瞳は薄茶色。背丈は変わらないようだが、体格は完璧に少年であり、しっかり討伐に行けるように短剣まで装備している。
オーウェンは自分の目を疑った。
(―――お兄様・・・だと?)
「まさか・・・チェリーナなのか???」
「はい。これがギルドに登録したコリン・マライセル。私の男になった姿ですわ。」
いつもの可愛らしい笑顔ではなく、やんちゃな少年の笑みにオーウェンは固まる・・
「・・これも・・魔法?」
「はい。こちらのリングで幻影を創り出しています!一度解きますね!」
驚きを隠せないオーウェンに苦笑しつつ、爽やかな笑顔でリングを指し示すと、魔法を解いた。
「!!チェリーナ!!」
服装はそのままで元の姿に戻ったチェリーナは、いつも通りの明るい炎のようなオレンジのロングヘアに、新緑の瞳の可愛らしい姿だった。
「・・・これはとんでもないな・・・変装という域ではない・・性まで超えて全くの別人だ・・」
驚愕するオーウェンにチェリーナは微笑むと、またコリンに戻った。
「では、ヴィンセントも到着したようなので、これからの討伐に向けての話をしましょうか?」
コリン(チェリーナ)は笑顔で告げる。
「奥の部屋で話しますか?」
ローリーの提案にコリンは頷くと、ヴィンセントとオーウェンも同意する。
オーウェンの横に座るコリンは、向かいの椅子に腰かけたローリーとヴィンセントに念話でひとまず先に謝った。
『二人ともごめんなさい。兄を納得させるために協力お願いします!』
『大丈夫ですわ。』『大丈夫だ!』
二人が全く怯む様子がないのでコリンはとても心強く感じた。
「・・・それで・・・その姿の時は俺はチェリーナではなくコリンと呼んだ方が良いのか?」
珍しくオーウェンは明らかに戸惑いながらコリンに問いかける。
「はい。僕がこの姿の時はコリンと呼んでください!お兄様はギルド登録はどうなさるおつもりですか?」
「俺も同じように偽名偽装をするよ。偽名はジーク・マライセルにすることにした。コリンの親戚筋でいこう。偽装は俺にもリングをもらえるか?髪色と目の色を変えれば何とかなるだろう?」
「ジーク・マライセル!ジークですね!
――ジークよろしくね!勿論リングは用意するよ!」
「・・・・コリン・・お前慣れるの早くないか??」
オーウェンは苦笑しながらも優しくコリンの頭を撫でる。
「へへ。こういうの楽しくって!砕けた話し方の方が僕は楽みたいなんだ!」
「そうか。俺もなんだか弟ができたようで嬉しいな。よろしくな。コリン!」
二人はまるで兄弟のように仲良く言葉を交わす。
しかしすっと顔色を変えると、冷たい眼差しでオーウェンはヴィンセントを睨みつける。
「ただ、まだ俺はヴィンセント。貴様の事は認めていないぞ。先ほど聞いたが、末端の平民というではないか。
そんな奴がコリンのパートナーに相応しいとはとても思えない?むしろ俺とコリンだけで良いだろう?」
「ジーク。僕はヴィンセントの腕前で判断したんだ。平民だからとか、身分では判断していないよ。僕はジークは決して上辺だけで物事を判断するような人ではないと思っていたのだけど、勘違いだったのかな・・」
コリンはしゅんと寂し気な表情で瞳を潤ませジークを見上げる。
「うっ・・・コリン・・・お前その姿でもその態度は・・卑怯じゃないか??
・・・・くそっ・・・わかった・・決闘だ!貴様の腕前とやらを俺に見せてみろ!」
コリンの表情にたじろいだジークは仕方ないと嘆息すると、気持ちを切り替えヴィンセントに決闘を申し込んだ。
「―――喜んで。」
にやりと不敵に笑うヴィンセントは、怯むどころかわくわくしているようにすら見える。
決闘の場所は護衛のマイケルの勧めで、馬車で10分の公園の広場で行われることになった。
オーウェンは目立ちすぎるので、コリンはすぐに幻影魔法の込められたリングを渡し、戦うことができる服もローリーに用意してもらった。
髪型は変わっていないが、黒髪、焦げ茶色の瞳はまるで日本人のよう。しかし、骨格の違いでとても一般の日本人男性には見えない美しさだった。
公園に到着するとそれぞれ剣を構えるが、コリンはどうしても心配で堪らなかったので、こっそり二人に弱めに防御シールドを1メートル以内でかけておいた。恐らく本人たちは気づいていないはずだ。万が一剣が体に当たっても軽傷で済むはずなので、すぐ治療すれば問題ないだろうとコリンは自分に言い聞かせる。
ヴィンセントとジークは向き合い、審判をマイケルが務める。
お互い構えた状態で様子を伺い睨みをきかせ合う状態が続く。
ふわっと風を感じた瞬間駆けだしたのはジークが先だった。
一体いつ鍛錬していたのかと思う程駆け出しは素早く、あっという間にヴィンセントとの距離を詰める。
鋭い刃が振り下ろされるのをヴィンセントはしっかり受け止める。
キィーーンという刃のぶつかり合う音が響き、次の繰り出す剣撃に打ち消され、刃のぶつかり合う音が幾度となく衝撃音としてこちらまで突き刺さるように響いてくる。
どちらも物凄い速さで剣の動きを見切り次の一撃を放つ。恐らく他者は目で追うことがやっとだろう。
コリンは無意識に魔法を発動させ、視力が上がった目で追うことができているが、身体能力を上げずにここまでやりあうというのは、二人とも相当な腕前なのだと素人でもわかるだろう。
一度距離を置き、お互い浅く呼吸をしながら相手の動きを見逃がさない構えは、こっちらまで緊張して体が強張ってしまう。
次はヴィンセントが勝負に出て細かい剣撃でジークを翻弄しようというのだろうか。その素早さにもジークはしっかりと剣で受け応えていたが、剣の重さの違いか、徐々にジークの動きが押され気味になっているように感じた。
一瞬。本当に一瞬だった。
汗がジークの瞳に入ってしまったのか、一瞬目を細めた隙をヴィンセントは見逃さない。
すかさず死角から薙ぎ払い、ジークの体が硬直した瞬間首にヴィンセントの刃が突き立てられた。
「・・・・俺の・・負けだ。」
ジークは持っていた剣を落し両手をあげ、ヴィンセントも剣を下ろした。
「お兄様!!」
コリンはすぐさまジークに駆け寄る。
「大丈夫ですか?けがは?今治癒します!!」
目立った傷は見当たらなかったが、相当な疲労は堪っているだろうという事はわかった。
コリンはジークの手を救い上げ両手で握りしめると魔法をかける。
「・・・コリン・・」
一瞬で息をするのもつらかった疲労感はなくなり、剣の衝撃に耐えていた体のしびれや薙ぎ払われた時の腹部への衝撃痛もなくなっていた。
「ありがとう・・不甲斐ない兄ですまない・・。」
「何を言うのですか!とても素晴らしい戦いでした!怖かったですが、感動しました!」
「・・チェリーナ・・ありがとう。
―――ヴィンセント。君の剣の腕は確かなものだった。一瞬の隙を見逃がさない判断力も、剣の重さも、素早さもとても平民とは思えない。
騎士団員でもトップクラスの腕前に見受ける。一体どこで身に着けたんだ。」
ジークの瞳は最初の睨みを効かせた相手を侮蔑するような眼差しではなく、純粋に相手を賞賛する瞳に変わっていた。
「――特にないですね。基礎は知り合いの剣士に学びはしましたけど、後は独学ですよ。」
「――なんだと?!それが独学??・・・とんでもない男だな・・」
「それは誉め言葉として受け取っておきますよ。」
「――そうしてくれ。君がコリンのパートナーなら俺も安心だ。勿論俺も共に戦うが、コリンの相手として是非お願いしたい。」
ジークは居住まいを正すと深々と頭を下げヴィンセントに敬意を表した。
「え?そんな頭下げなくてもいいんですよ。認めてもらえればいいんで。俺もジークって呼んでいいのかな?」
「あぁ。これから3人は仲間だ。俺の事はジークでいい。よろしく頼む。」
ジークとヴィンセントは硬く握手を交わす。
「ジーク・・大好き!!」
ジークの気持ちの切り替えの早さ、非を認める潔さ全てがコリンにとっては誇らしくて思わずコリンは叫んでいた。
「ははっ・・なんだかコリンにそう言われると照れるな。」
コリンの愛情表現に、少しはにかんだ表情がジークの魅力を更に引き出しているようだった。
「ヴィンセントもありがとう。本当にすごい剣捌きだった!」
「お眼鏡にかなって何よりだ。よろしくな。コリン。」
「よろしく!ヴィンセント!」
3人は爽やかに笑い合う。
それからもう一度馬車に乗り込むと、ジークのギルド登録に向かったのだった。




