1_覚醒
数千年以上昔。広々とした平原にはある集落が存在していた。その者たちは、貧しくとも皆で協力し、助け合う優しい心の持ち主ばかりだった。
しかし、病や不作で人々は死を目前とし、神に祈った。「どうか自分の命の代わりに皆を守ってほしい」と。
創造の女神リノエントは、心優しい人々のために自身の創造の力(魔力)を石に込めて人間に授けた。石の力は有限だったが、そのおかげで人々は大切な人を守り、集落をヨーゲンバレン帝国にまで大きく成長させていった。
石の力はなくなりかけていたが、石の一部を自身の能力で扱える者が生まれるようになる。
その者たちは魔力を表現する能力を持ち、【想像】と【意思の力】で魔法を扱うようになる。
人々は女神リノエントの祝福を受けし者と信じた。【魔法使い】と呼ぶようになった。
ヨーゲンバレン帝国がここまで栄えてきたのは影で【魔法使い】が支えてきたからだと伝えられている。
しかし、現在【魔法使い】は数百年現れておらず、人々の心の中からも消えかけ、リノエント教の神父が語り継ぐ逸話として話されている。
***
ヨーゲンバレン帝国の帝都ロワンの貴族のタウンハウスが立ち並ぶ一角のエンハンス公爵邸には社交界に出る子供たちが住んでいた。
エンハンス家は長男セシル・次男ランゼル・長女ユリエル・次女リリス・三男オーウェン・三女チェリーナ・四女ルルベルの7人の子供たちに恵まれ、皆それぞれ優秀で三男オーウェンまではすでに社交界で華々しく活躍を遂げている。末娘の四女ルルベルはまだ幼い13歳ではあったが、美しい金髪と美しい新緑の瞳、整った容姿ですでに帝都でも噂となっている。
しかし、三女のチェリーナは幼少期から度々高熱に苦しめられ、体力がなく肌艶は青白く、美しい母親譲りの温かい炎のようなオレンジの髪はカサツキ光を失い、表情は乏しく笑い方もわからず、周りからは冷徹令嬢と揶揄された。体力がないので集中力がなく勉強も稽古も進まない。運動だって散歩が30分もできたら良いほうだ。父親のエンハンス公爵からは「役立たず」と罵られ、常日頃から【家の為に何故言うことすらまともに聞けないのか】と責め立てられた。
チェリーナは自身を責め、他の人のようにできるように努めるが、体がうまく動かせなかった。
彼女の体は、いつ熱が出るかわからない位に日頃から熱を感じていたからである。その恐れから、何かするたびに熱が出るのではないかと不安に怯えていた。
そんなチェリーナを家族は疎ましく思い皆関わろうとしなくなった。
しかし、唯一リノエント教会に月に2度家族で訪問する時は、チェリーナも家族と行動することができた。それでも口も聞いては貰えなかったが、神父様はいつも暗い表情のチェリーナを優しく受け入れてくれた。
チェリーナは神父様のお話が大好きで、家族が先に帰ってしまっても、神父様の話を熱心に聞いていた。
15歳を過ぎたある日、また教会で神父様にお話を聞いていると、特別なお話をしてあげましょう。と優しく微笑んで教えてくれた。
「この国は昔とても小さな集落だったそうです。人々は生活に困りそこに女神リノエントが手を差し伸べたと言われています。女神リノエントは自身の創造の力を石に込めて授け、その石の力で人々は生活を発展させヨーゲンバレン帝国は生まれたんですよ。これは大体の人々が知るお話です。
ここからは逸話です。実は女神の力を一部使えるようになった人々が存在したと言われているんです。」
「そんな凄い人たちがいたのですか?!!」
「はい。その人々は【魔法使い】と呼ばれていたそうです。想像の力を魔法と呼んでいたので、その力を使える人。という意味なんですよ。」
「す・・凄いんですね。今もその人たちは生きているんですか?」
チェリーナの死んだような冷徹な表情に微かに光が宿ったが、神父は横に首を振った。
「残念ながら今は存在しているとは言われていません。数百年現れてはいないのではないか?と言われているのでまさに奇跡の人たちですね。」
「それは残念です。」
「でも帝国にはこの国を守ってきた女神リノエントと女神の授けて下さった石がありますから。」
「だから帝国は守られているんですね?」
「はい。でももし魔法使いが現れたらもっと国は発展するでしょうね。魔法使いは非常に心優しく、表現する能力で人々の幸せを願って女神の力を使ったとされています。女神の力は【想像・強い意思・表現】この3つであると言い伝えられてるんですよ。
ですから日頃から想像する心・強い意思・表現する行動力を身に着けようと、日々自身も努めていますよ。だからチェリーナ様も熱に負けないで下さいね。」
「ありがとうございます。神父様。私も頑張ります。【想像・意思・表現】私も心に刻みます。」
神父様はにっこりと微笑むと、チェリーナを見送った。
チェリーナは神父の言葉に感化され、生きる希望をもらえた気がした。しかし、数日後彼女をまた謎の高熱が襲ったのだった。
熱は非常に高く、侍医はいつも通りの解熱の薬しか試せるものはないと匙を投げ帰っていった。家族はいつもの事だと見向きもしなかった。
チェリーナは3日高熱が続き意識は朦朧としている。
もう無理なのだろうか・・
こんなにもがいているのに自分の体は思うように動かすどころか熱で食い破られそうだ
このまま死んで楽になるのだろうか・・
ベッドに力なく横たわりながら、チェリーナは朦朧とする意識の中で自問を繰り返した。答えは何も見つからない。
(神父様・・・私・・もうだめなのかな)
励まし勇気付けてくれた神父の言葉を思い出すが、熱に抗う程の余力は残っていなかった。
ただ譫言のように「ごめんなさい」と呟くことが精いっぱいだった。
自分は何でこんなに苦しんでいるのだろう。
みんなのお荷物にしかなってない。
言われたこともできず、愛想良く笑うこともできず、冷徹だと揶揄され生きていても存在自体が邪魔なんじゃないか・・
あぁ。もう諦めてしまおうか・・
薄れゆく意識の中で黄色い何かが見えた気がした。
やさしい太陽のような丸い・・花?
・・・これは・・・【たんぽぽ】?
私が好きだった花。
雑草で根っこが長くてなかなか地面からはがれない厄介な草。
だけど太陽に向かって伸びた茎と陽の光を一身に浴びようと花開く黄色い花はとてもきれいだった。
私はこの花のように生きたかった。
どんなに踏みつぶされても生きる花。
私だって・・生きたい!!
私まだ何もしてない!!
困難だって沢山あったじゃない!!
死ぬような思いだってなんどもしたじゃない!
このまま死んだら何も残らない・・
(嫌だ!!!絶対生きたい!!)
チェリーナは初めて自身の強い意思をもった。そして想像した。これから何をしたいか。
元気になって、沢山の事を学んで、誰かの役に立って、家庭をもって、癒されて、癒して、生きててよかったと感じたい!!
その瞬間体中を襲っていた暴れるような熱が胸に燃え上がる炎のように感じた。
そしてチェリーナは直観で感じた。この熱に負けちゃダメなのだと。――そして感じた。
(私なら抑えられる!絶対負けない!!)
確信し強く思った瞬間、その炎は食い破るような熱さではなく、自身を活き活きとさせるような包み込むような温かさに変わっていた。
(―――良かった?・・)
安心したチェリーナは夢のような感覚の中そのまま意識を手離した。
―――――そしてチェリーナは覚醒したのだった。




