18_対峙
「私が君たちを信じられるだけの根拠は?」
きっぱり告げたローリーに対してオーウェンはそれでも訝し気に見つめ問う。
「私共は誓約をしております。万が一チェリーナ様を裏切るような真似をした場合は、全治3週間の衝撃を受ける魔法誓約です。こちらの誓約の貴石で行っておりますので、それが根拠です。」
「成程。」
ローリーは誓約の貴石をオーウェンに見せ、ハッキリと言い切る。
「君たちのチェリーナへの忠誠はよくわかった。疑って申し訳なかったが大切な妹の事だったので疑わせてもらった。すまない。これからも妹を頼む。」
「ご理解いただけて何よりです。私共の店には、連日【癒しの石】について魔法がかけられているのではないかと疑いをもって来店される方が必ずおります。その中でチェリーナ様をお守りするために、我々もできうる限りの事は今後も尽くす所存です。」
「・・ローリー・・そこまでしてくれるなんて・・ありがとう。」
誓約に関しては、客に対してかけることをチェリーナは承知していたが、まさか伝導者たちまで誓約をしているとは思わず唖然としたが、信用を得るために敢えてしてくれたという事に胸が暖かくなった。
そんなチェリーナをローリーは慈愛の籠った微笑みで返す。
「それで、もう一人のチェリーナのギルドパートナーはどこに?」
「今・・向かっているようです。お兄様、良ければ先に私のギルド登録した姿をお見せしても良いですか?」
チェリーナはオーウェンからヴィンセントの話題が出たところで偽りの姿を見せようと覚悟を決める。
「そうだな。見せてくれるか?」
チェリーナは頷くと、ローリーは理解したようでリアに目配せしてくれた。
「では着替えたいので、少しだけ外でお待ちいただけますか?ローリーがご案内いたします。」
「わかったよ。」
オーウェンは頷くとローリーの案内で部屋を後にした。
チェリーナは部屋に残ったリアとエリンの目の前で、衣類を貯蔵している異空間を目の前に出し、そこから男物の服一式と装備の短剣も取り出した。
リアは二度目であったが、エリンと同じく突然現れた不思議な空間の穴?に唖然としていた。
「――お嬢様?・・・その穴のようなものは・・・なんでしょうか・・」
エリンは思わずチェリーナに聞いてしまう。
「これは異空間に貯蔵庫を魔法で作って、どこでも取り出せるようにしているのよ!この空間の中は時が止まったような状況だから、食べ物も衣服や刃物も劣化しなくて便利なのよ!持ち歩くほど私の体力はないから丁度良いの!」
「イ・・クウカン?・・ですか・・」
聞いてもわからない様子ではあったが、魔法であるという事はわかったようで、エリンはこくこくと頷いて自分自身を納得させている。
「それじゃ着替えるから、服を脱ぐのを手伝ってちょうだい!急がないとそろそろヴィンセントが到着してしまうわ!」
「「承知いたしました!」」
***
部屋を後にしたオーウェンは店内の貴石を眺めながら、ギルドの事をローリーに話していた。
「――君の意見を聞きたいのだが、チェリーナは本当に戦わないとならないのだろうか?どう思う?」
オーウェンは守る側であるローリーがチェリーナが戦う事に反対ではないのかを聞きたいのだろう。
「――オーウェン様、チェリーナ様の実力はとてつもなく素晴らしいものです。毎日60点もの貴石に魔力を注ぎ、更にご自身の鍛錬を行い、そして侯爵家のやるべきこともされています。
あの方の努力は普通の貴族令嬢とは全く違います。その事を、一番理解していらっしゃるのがチェリーナ様ご本人です。
ご自身の力をコントロールしなければ、災いの種になりかねないとご存じであるからこそ、辛い道も歩まれる覚悟がおありなのです。
従者である私がどうして口を挟めるでしょう。あの方の力に対する責任の重さは、私には測り兼ねます。」
「・・・そうか。半年以上傍にいてくれた君でもそう思うのだな。」
「はい。今まで伝承されてきたどの魔法使いよりも、責任を強く感じているお方だと私は確信しております。だからこそ、私はチェリーナ様が少しでも動きやすいようにサポートさせていただくことが最善と心得ております。」
「そうだな。その通りなのだろう。・・ではやはり私は寄り添う以外道はなさそうだな。」
「――きっとチェリーナ様はオーウェン様のお考えをお喜びだと存じます。」
ローリーは微笑むと恭しく頭を垂れる。
「面をあげろ。ここから我らは同士となるのだ。俺は魔法使いの従者として、ここに居るときは同じ仲間として接していい。俺もそうする。この後ギルドへ登録もしに行くつもりだ。何か助言があれば教えてくれないか?」
オーウェンの切り替えは早く、先ほどまでの威厳のあった態度を打ち消し、チェリーナに接するように砕けた口調でローリーに尋ねる。
「わかりました!ではオーウェン様はチェリーナ様と同じようにお名前とお姿をまずはどうにかされた方がよろしいですね。」
「偽名に偽装か?」
「えぇ。そうしないとすぐエンハンス公爵家に繋がってしまうでしょう?それはチェリーナ様に繋がりやすく危険ではないですか?」
「そうだな。・・・名前か・・うーーむ・・そうだな・・ジーク・・ジークにしよう。ただ姓をどうするかだな。」
「それでしたら、マライセルを使って下さい。」
「・・良いのか?」
「はい。チェリーナ様も使っています。万が一魔法がバレたとしても、マライセルで通せば簡単には帝国は取り調べをできませんので都合が良いでしょう。お2人の関係は親族でも遠い親族でもどちらでも良いと思います。」
「わかった。ではその姓借り受けよう。」
2人はにこやかに笑みを交わしオーウェンは店内をまた見渡した。
―――――ぎいいぃぃぃぃ
「いらっしゃいませ!」
店の入り口が開き、ローリーが声をかけるとローブを被った男が店内に入ってきた。
「―――チェリーナはいるか?」
ヴィンセントはローリーに尋ねると横にいたオーウェンの表情はすっと険しく変わる。
「・・・貴様がチェリーナのパートナーか?」
「――そうですが。」
「俺はチェリーナの兄、オーウェン・エンハンスだ。貴様の名を名乗れ。」
「エンハンス公爵家のご子息様でしたか。初めまして。私はヴィンセントと申します。」
オーウェンの言葉にヴィンセントはローブを脱ぐと頭を下げて挨拶をする。
「姓はどうした?」
「平民で特に身分もないためありません。自分の腕だけでギルドに登録しました。」
「なんだと?・・・・ローリー。こんな奴を何故チェリーナはパートナーにしたのだ?マライセルの護衛に任せればよかっただろう。」
オーウェンは鋭い目線をローリーに向ける。
「その意見には同感です。――ですが、チェリーナ様がお決めになったことですので、私に反対するこことなどできません。」
「・・くそっ・・チェリーナは何故・・
――悪いが俺は今の時点では貴様をチェリーナのパートナーとは認められんっ。チェリーナが着替え終わったらあとで確認させてもらう。」
「――それで構いません。」
凍てつくような鋭い言葉をオーウェンはヴィンセントに冷徹な声音で告げるが、ヴィンセントは全く気に留めもしていない。
(・・怯まないだと?・・殺気に慣れている?・・・本当にただの平民か?)
自分の言葉が相手を怯ませるほどの研ぎ澄まされたものだとオーウェンは理解していたが、それに対し落ち着き払った態度をとるヴィンセントが不思議で仕方なかった。
オーウェンが逡巡していると奥の部屋の扉が開き、リアとエリンが先に出てきた。
「――お待たせいたしました。お嬢様のお着替えが終わりました。」
エリンがオーウェンに告げた後、部屋からもう一人姿を現した。