16_私の生き方
サラサラと流れる金髪は、短さで眠りながら身じろぐ度に光揺れている。
横になったままチェリーナはオーウェンを見つめ続けると外は次第に明るくなり始めていた。
どうやら昨晩夕食も摂らずに眠ってしまったらしい。
朝からもしかしたらヴィンセントはアルダナ森林で待つかもしれない。
(――この時間ならもう連絡してもよい・・かな?)
『ヴィンセント。おきてる?』
試しに耳に意識を持っていきつつ話しかけてみた。数秒経って返事がなければまた改めれば良い。
『チェリーナおはよう!』
嬉しそうなヴィンセントの声が耳に聞こえてきた。
『朝早くにごめんね。昨日毎朝アルダナ森林でトレーニングするって話したから、もしかして今日向かうのかなと思ったの。』
『あぁ。俺は今から着替えて行くところだったよ。』
『やっぱり?実は昨日家族の一人に私が魔法使いであることを話したの。今日はちゃんと家族に説明したいから、今日は私は朝の訓練は行かないっていう連絡をしたかったの。』
『そうなのか?・・残念だな。』
『え?また行く時連絡するよ?』
『そうして欲しい。期待してしまうかな。』
『――期待?』
『そうだよ。折角楽しみにしてても会えなかったら寂しいから。』
『なんかそこまで私に会いたいと思ってくれるの?』
『なんだ?一緒に訓練したいと思ってたのは俺だけか?』
(・・なんだかヴィンセント拗ねてるみたい。――かわいぃ。)
『私も一緒にしたいと思ってるよ!だから連絡したんだもの!迷惑じゃなかった?』
『いいや。連絡くれて嬉しかったよ。家族との話しも後で聞かせてくれるか?』
『いいわよ!それじゃまたね!』
『またな!』
(ヴィンセント・・すごい懐いてくれてる感じがする。出会って1日なのに、なんか嬉しいなっ。)
「―――ん・・っ」
(!!!)
「お兄様!起きた?」
「・・チェリーナ?・・あぁ・・昨日あのまま寝てしまったか」
オーウェンはあくびをしながら眠そうに目を少しだけこすってこちらを見つめた。
「―おはよう。
?!――目が腫れてるじゃないか。」
目の浮腫みに気づき両手でチェリーナの顔に手を添える。
優しくそっと触れられる感触が愛情を感じてくすぐったい。
「大丈夫だよ。治せるから」
チェリーナは瞼を閉じると魔法で体全体に治癒魔法をかける。
ぽうっと灯火の様な光が一瞬だけチェリーナを包みこむ。
目を開けたチェリーナの顔はもう腫れていた後は残っていなかった。
「―――・・これが魔法・・なのか」
「うん。なんか使えるようになったの。」
「一人で使えるようになったのか?」
「うん・・誰も私が魔法使えるって知らなかったしね」
「・・・・・」
「―お兄様?」
「俺を頼ってくれるようになってから、変わったなとはわかっていたんだ。
・・でも変わったんじゃなくて、誰も気づかないところで、チェリーナは変わらないとならない状況にいたんだな・・」
「・・そうだね。変われなかったらここには今いなかったもの。」
「っ・・・俺は後悔ばかりだ・・もう一人で苦しませたりしない。チェリーナが安心できるように俺がするから!」
「・・お兄様・・ありがとうっ!だけどこの1年で私すっごく魔法のスキルも体力も上がったんだよ!」
「そうなのか。――それでもだよ。魔法がどれだけ使えようとチェリーナはチェリーナだし、俺はお前の兄だ。
――昨日突然いなくなったのも魔法なのか?」
「うん。透過魔法と飛行魔法で野外にトレーニングに出かけてた。」
「透過??飛行?!そんなことが可能なのか!!」
「うん。できるよ。」
チェリーナは頷くと透過魔法を自身にかけた。
「!!!!チェリーナ?!」
オーウェンが真っ青な顔でチェリーナを探しているのが面白かったけれど、なんだか申し訳なくなってすぐに魔法を解いた。
「!!!・・び・・びっくりするな・・これは・・」
「――ごめんなさい。こうやっていつも朝庭園でトレーニングしてたの。」
「・・そうだったのか・・だから毎日忙しそうにしていたんだな。やっと納得できたよ。
――それにしても、それなら昨日のウィッシェントローズとの打ち合わせはなんだたんだ?
まさか嘘か??」
「ごめんなさい。ウィッシェントローズは魔法使いに仕えてくれている一族の集まりで、初めて商店街にお兄様と言った時に出会って、今まで助けてくれてたの・・数少ない私の味方だよ。」
「・・味方・・か・・」
オーウェンは苦々しい表情で呟く。
「お兄様?」
「・・すまない・・私が一番に気づくべきだったのに、彼らがいてくれてよかったよ・・」
「――私、本当は直ぐにお兄様に報告しようかとはおもったんです。でも、私自身が魔法使いについて無知だったから、まずは自分に納得できてから話したいって思ってしまったの。ごめんなさい。」
「いいや。それは間違っていない判断だ。――もしあの時俺が頼りない兄でなければ、きっとすぐに話せただろう。あの時の俺はチェリーナが頼りたいと思える存在ではなかったという事だ。
――今は話して良かったと・・思ってくれているか?」
「はい。本当は近いうちに告白するつもりだったの。遅くなってしまったけれど、お兄様は私の家族で一番の理解者だと思ってる。」
「――チェリーナ・・俺はお前の信頼に応えなければならないな。」
オーウェンは解けそうな位甘い微笑みで横になったままの私の顔から手を放し頭を優しく撫でる。
「もう十分すぎるくらいだよ」
「いいや。昨日嘘をつかれているからな。これからはちゃんとチェリーナが話せるようにもっと態度を改めないとな。」
にこにこと微笑みながらそう告げるオーウェンは嬉しそうだった。
「――そういえば魔法使いになってチェリーナはこれからどうしたいんだ?何か決めているのか?」
「――えぇ。今はウィッシェントローズで販売している貴石に、私の治癒魔力を込めて、癒しの石として販売しているのだけど、少しでも困っている人たちに、最適な方法で力になりたいと考えているわ。
私は自分のようにひとりぽっちで寂しかったり苦しかったりする人たちを見捨てたくない。
この特別な力は、女神様が苦しんでいた私に同じように苦しむ人々への救いの手になるべく使命として力を下さったんじゃないかって思っているの。」
「・・・想像以上だな・・俺が気づかないうちに、もう立派な魔法使いじゃないか・・」
「そんなことないわ。昨日初めて獣の討伐だってしたばかりよ。まだまだ未熟だわ!」
「――――討伐??・・・獣?・・・なんの話だ?」
突然微笑んでいたオーウェンの表情は氷付ついたかのように表情をなくし、チェリーナはたじろぐ。
「―え?・・昨日から、私も戦えるようにアルダナ森林で討伐を・・ね?始めたの・・」
「・・・チェリーナ・・・確かにお前は魔法使いなのだろう。俺には到底扱うことのできない魔法が使えるのだから・・・でもな?
高位貴族の公爵令嬢のお前がそんな危険な真似・・・何かあったらどうするんだ!!」
オーウェンの怒る様はお父様そっくりで、声音には熱が籠っておらず凍えそうで思わず身震いしそうだ。
「・・ご・・ごめ―――。」
「――すまない!言い方が厳しかったな・・あまりにも驚きすぎてしまったようだ・・。かわいい妹が危険な獣と戦っていたなんて・・生きた心地がしないよ・・」
すっと優しい表情に戻ったオーウェンだったが、納得はいっていないようだ。
「――お兄様。聞いてください。
私は自分の立場を理解する責任があると思っています。そして、理解するだけじゃなく力を正しく行使すべきだとも思っています。私は上から見守るのではなく、動けることは自分から動き、何が必要なのか気づいていかなくてはならないと思うんです。その為にはもっと努力してより大きな力を使えるようにならなければならない。
昨日の討伐は、魔法でどれだけ自分が戦えるか確認するための機会でした。
でもこれからは、魔法使いと知られずに冒険者として帝国の治安を守り、ウィッシェントローズで癒しの石を販売して帝国の人々を少しでも救いたいんです。」
「――チェリーナ・・お前は自分の人生を他人のために使うというのか?」
「いいえ。お兄様。これが私の生きたい人生なのですわ。
私が私らしくいられる。
魔法は私を後押ししてくれているだけで、誰かを助けたいと願う気持ちは元々自分の心の中にあったものです。」
「・・・・」
チェリーナの言葉にオーウェンはじっとみつめて話を聞くものの返事は返ってこない。
「お兄様。・・こんな私の生き方を、応援してはくれませんか?」
「――――っ・・くそっ・・わかったっっ!!応援する!その代わり、その訓練には俺もできる限りついていく!!」
「え?お兄様仕事はどうするのです?」
「時間を選ぶさ。いつもは無理でも、せめていける時間は行く!!これまでとスタンスはかわらん!
それに、お前もいつでも外出できるとは思っていないだろう?
お父様の許可が必要だからな!――俺が一緒なら許可ももらいやすいよな?」
「お兄様・・良いのですか?」
「当たり前だ!むしろかわいい妹を一人でアルダナ森林なんていう危険な場所に送り込めるか!!」
「―――・・・あー・・それはですね・・一人では・・ないというか」
「??・・・・・どういう意味だ?」
「えーっと・・昨日ギルドに加入して、アルダナ森林で知り合った人と、一緒に組むことになって・・」
「は?!―――――まさか・・男か?!」
「・・・はい」
「そいつはチェリーナが魔法使いと知っているという事か?!」
「・・・・・はい」
チェリーナはオーウェンの追及の怒気にがくがく震えだす。
「―――あーっくそっすまない。チェリーナに怒っているわけじゃない。
とりあえずウィッシェントローズとその男にあって話を聞く!信用できるかは直接見て考えるよ。」
「お兄様・・」
オーウェンの頭ごなしに否定しない考え方をチェリーナは好ましく思っている。全てなんでも決めつけるのではなく、しっかり目で見て状況を判断して決める考え方の彼だったからこそ、チェリーナは彼を頼ることができたのだから。
「――それでしたらお兄様の大丈夫な時に一緒に行きましょう。私は予定をあわせられます。」
「――わかった。なら今日行こう!!」
(―――即決?!)
オーウェンの決断にチェリーナは目を見開き驚愕した。
しかし、そんなオーウェンだから大好きだ・・ともチェリーナは思うのだった。