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14_痛恨のミス









 ローリーの仕事は早く、本当に半刻立たずに部屋に戻ってくると、美しいゴールドのリングとピアスを小箱に入れたままテーブルにそっと置いた。


 3人はピアスを装着し、今後の事に話を戻した。



 「これで準備は整ったし、今日ギルドに登録に行けそうね!」

 

 チェリーナは喜び顔を綻ばせて紅茶を啜る。 


 「チェリーナ様。男性で登録されるのでしたら、お名前はどうなさるおつもりでしょうか?」


 「!!!」



 ローリーの問いに、チェリーナは名前を考えることを失念していたことに気づく。


 「そうね!男の名前を考えなければならないわ!しかもエンハンスの苗字を使うわけにはいかないしどうしようかしら?」



 「エンハンス?!―――まさかエンハンス公爵家のことか?!」



 突然ヴィンセントが大きい声を出したので、チェリーナは持っていたティーカップを落としそうになった。



 「?!ヴィンセント?どうしたの?いきなり大きな声を出したらびっくりするじゃない!」



 「驚くのはこっちさ!エンハンス公爵家といったら、美形ぞろいで子息たちは皇太子殿下の側近にそれぞれついている高位貴族で、帝国でも有名じゃないか!」


 「あら?そんなに有名なの?知らなかったわ!」



 チェリーナは他人事のように微笑む。



 「チェリーナ様。ご存じないのは貴女だけですわ!チェリーナ様だって、昨日のパーティーでオーウェン様とのダンスが好評で、すでに貴族間での噂がすごいそうですよ?」


 「そうなの?」


 (まだ昨日の今日なのに?貴族って本当に噂が大好きなのね・・)

 チェリーナは他人事のようにローリーの話を耳を傾ける。




 「社交界にご興味ないのでご存じなくても当然ですが、今後はチェリーナ様は更に有名になるはずですわ。

 

 まぁ・・それは兎も角、姓でしたら我が家紋のマライセルなどいかがでしょうか?」



 「使って良いの?」


 「問題ないですよ。マライセルは皇帝の権力ですら及ぶ事はございません。」


 「それなら名前はコリン・マライセルにするわ!弟ができたらコリンという名前が良いと思っていたの。」



 「それじゃコリンになって今からギルドに行くか?」


 すかさずヴィンセントが口を挟む。


 「えぇ。日が暮れる前に済ませなければならないから急ぎましょう。」


 チェリーナはティーカップをテーブルのソーサーにそっと戻し、用意してもらった男性服や短剣を貯蔵用の異空間にしまい始める。



 ―――愕然とヴィンセントとローリーはチェリーナを見ていたことに彼女は全く気付いていなかった。



 あまりの現実離れした異質な光景に、チェリーナ以外皆奇跡の瞬間をただただ見つめるばかりだった。



 




 ***





 ギルドはウィッシェントローズから馬を走らせて確かに5分程の場所にあった。帝都の南区域に位置するその場所は、周りには武具の店や回復などの薬草の店、防具の店など冒険者の為の街になっていた。


 ギルドで登録した者たちは、ここで準備をしてから依頼を履行するためにアルダナ森林へ向かう。

 登録自体はとても簡単で、必要事項を申請書に記入して写真を撮って待つだけだった。


 待っている間1Fのフロアの申請コーナーから店内を見回すと、中央フロアのテーブルの並ぶ待合には数十人の冒険者が会話を楽しんでいるのが見えた。





 「――――ではこちらがギルド認定証となります。ご確認ください。」



 半刻立たずに業務員は戻ってきてカードを手渡された。

 カードには顔写真と名前、所属ギルド区名、登録日、ランクが記載されていた。

 

 ランクはA/B/Cの3つがあり、Aランクは獰猛な獣の討伐までどんなことでも担当できる。Bランクは危険度の少ない獣の討伐まで可能で、Cランクは誰でもできるような薬草採取など採取や探し物などがメインであることが記されている書類も渡された。

 実績のないものはまずはCランクからなのだが、実力を確認できれば次のランクに移ることができるということらしい。


 今日討伐したランページディールはAランクの内容だったらしく、Bランクだったヴィンセントと、何のランクもなかったコリンはAランクとなった。


 樹脂素材でできたカードは軽く、持ち歩きはしやすい。二人はギルドの外に出ると、並んで馬留に向かった。




 「意外と早く終わって良かったな。俺の時は1時間以上待たされたから、今回は待たされなくてよかったよ。」


 「そうなんだ?それはよかったよ!ヴィンセントは討伐は次いつできそう?」


 「俺は依頼を受けないときもアルダナ森林で剣の鍛錬しているからいつでも一緒に行けるよ。」


 「それなら良かった!私は今日のように屋敷を出るためには準備が必要だから、予定が立ち次第連絡をいれるわ。でも毎朝早朝はアルダナ森林で魔法攻撃の練習はしようと思っているのよ。もしヴィンセントの時間が合うなら、一緒にトレーニング付き合ってくれる?」



 「いいね!俺も早朝ってゆうのは動きやすい。楽しみにしてる。」


 ヴィンセントは嬉しそうに顔を破顔させた。




 

 

 


 チェリーナはヴィンセントと別れた後、幻影を解いて元の姿に戻ると透過して屋敷に飛行して戻った。


 かなり浮かれすぎて失念していたのだが、朝何も言わずに出て行ってしまったので堂々と玄関から戻ってくるのは躊躇われた。


 ローリーの所に連絡はいったらしく、良いようにごまかしてくれたようだが、きっとエリンもお兄様たちも自分の身を案じてくれているように感じた。




 自室に戻ってから着替えを済ませ、透過を解いてからエリンを呼ぶと、何故かチェリーナの姿を見るなり部屋から慌てて出て行ってしまった。


 10分足らずで戻ってきたエリンはオーウェンも伴っていた。






 (・・・・あ・・これは叱られるのね・・・)






 予想は的中し、見事に叱られた。


 朝からどこを探しても見当たらないチェリーナが、まさかもうウィッシェントローズへ行ってしまったのかと使いを送ると「もう到着して会議が始まって席が離れられない」と言われたらしく、そこでやっと皆ほっとしたらしい・・



 「お兄様ごめんなさい。皆にもとても迷惑をかけてしまったわ。」


 深々とお辞儀をして謝罪するとオーウェンはむすっとしたままだ。


 「どれだけお前の事を皆が心配したかチェリーナはわかっていない。

  

 昨日の今日だから疲れているだろうと、朝は皆お前の顔を見てから仕事に行こうと待っていたのに、消えてしまってどうやって出て行ったかさえもわからなかったんだ。


 一体どうって屋敷を出て行ったんだ!!!」



 オーウェンは全く妥協などするつもりなく、納得できるまで部屋から出ていく気はないかのようにソファに深く腰掛けている。



 どんな言い訳を言ってもあの門番の目をかいくぐって外に出ていく方法など誰も思い浮かばない事だろう。


 チェリーナはどうすべきか逡巡したが、もし魔法使いと告げるときにはお兄様とエリンに最初に告げようと思った。それなのにヴィンセントに先にばれてしまったことを思い出し、もう潮時と観念した。




 「二人に話したいことがあります。でも、とても驚かせてしまう事なので、一人ずつにお話しさせてください。」


 覚悟を決めたチェリーナにオーウェンは納得したようで、エリンに退出するよう命じた。





 二人きりになった部屋で秒針を刻む時計の音がとても大きく感じる。


 きっとオーウェンは受け入れてくれる。信じてくれるだろう。ただ、自分を魔法使いと知った後、今までのように兄妹として仲良くしてくれるだろうか?


 【魔法使い】は皇帝の権力にも屈しない権力を持っているとローリーから聞いた。そんな私をオーウェンは受け入れて今まで通り接することができるだろうか・・


 やっと普通の兄妹になれたのに・・オーウェンのお陰で家族の関係が良くなったのに・・


 チェリーナの心は不安に押しつぶされそうだった。



 「チェリーナ。頼むから話してくれ。何か隠していることがあるのは前から皆わかっていたことなんだ。ただ、お前が自分から言い出してくれるまで待つつもりだったけれど、今日のようなことが起こったら皆心配で堪らないんだよ。」






 「お兄様・・。


 ――実は・・私は【魔法使い】なんです。」








 「―――え?」




 チェリーナの言葉にオーウェンは驚愕し、部屋の中は静寂に包まれる。









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