10_運命の出会い
誕生日パーティーも終わり、チェリーナは翌日には自身への治癒をかけ体力もしていた
昨日ローリーに「今日は店に一日会議で行くという事にしておいてほしい」と頼んであったので、一日野外訓練ができるように準備を早朝から進めていた。荷物は多く持てないので、空間魔法で食料や必要な備品を前もって作っておいた異空間にどんどん入れていった。
準備が整うと、チェリーナは透過魔法を自身にかけて屋敷の外に出ることにする。
門番も全く気付かず、門は空けられないので飛んでアルダナ森林向かう。空は澄み渡り、早朝の為道行く人々はまだ少ない。馬車もまだあまり走ってはいないようで、チェリーナは心弾ませながら森林へ飛行して向かった。
アルダナ森林は、空から見渡しても壮大で、帝都と同じくらいの広さなのではないかと思ってしまう程だった。
この森林は昔から言い伝えで、神聖な森と思われていたらしく今も手を付けられずにそのまま残っている。ただ野生動物が帝都や他の領に影響を及ぼさないように、騎士団やギルドがパトロールしているらしい。その為大きな獣の被害はあまりでていないようだ。
どのあたりに降りようか飛行しながら様子を伺う。
――――バサバサバサっ
「!!!っきゃぁあぁあっ?!」
突然大きな野鳥の群れがチェリーナの下から飛び立った。チェリーナは透過している為、勢いよく飛び立つ野鳥にチェリーナはぶつかり体勢を崩す。
その瞬間チェリーナは動転し魔法効果が切れてしまう。
(え?!!!うそでしょ?!!)
あまりに突然の事で、何故魔法が消えたのか理解ができず真っ逆さまに落ちていく。
(やだやだやだやだっ!浮いて浮いて浮いてえぇぇえ!!)
慌てふためき、木に当たりながらも地面に衝突しないようにひたすら浮くことを考えていた瞬間、地面が見えるだろうと思った場所には人影が――
「っあ!!危ない!!!」
「え?」
振り返り上を見あげる少年?の頭上からチェリーナは叫ぶ。
(――当たらないでっ!!)
少年?にぶつかったかと思ったがチェリーナは暖かく包まれていた。
「え?」
目を開くとチェリーナは浮遊を成功させたらしくまだ少し浮いた状態で少年?に抱きとめられていた。
少年?の髪の毛は淡い空色をしていて、サイドの髪の毛を編み込み後ろで一つにまとめていた。顔は少し幼さを感じるが見目麗しい美少年で、瞳は燃える炎のような色をしており、肌のキメは細かく、鼻筋はすっと高く、唇は薄くとても整った顔立ちをしている。
抱きしめる腕は細身の割に逞しく体も自分とは違って硬さを感じる。
(・・・男の人の体・・・)
思わずチェリーナは彼の顔をじっと見つめて惚けてしまった。
「・・・・・だ・・大丈夫か?」
少年?の声ではっと我に返ったチェリーナは、自身がまだ浮いたままであることに気づき慌てて地面に着地した。
「ご・・ごめんなさい・・き・・木登りしていたら・・落ちてしまって。・・助かりました。」
苦しい言い訳を述べるが少年は全く信じていないようで、こちらをじーっと見つめ返してきた。
「――君浮いてたよね?」
「!!!」
やはり気づかれていたのかと顔面蒼白になり言葉を詰まらせていると少年?は気にすることなく続ける。
「俺初めて見たよ!空から落ちてきて、浮く人間!何者だ?」
にやりと面白いものを見つけたような表情で、チェリーナの頭の先からつま先までじっと見つめる少年?に、チェリーナは精神干渉で記憶操作でもしようかと考えるが、どんなリスクが起こるかわからないので魔法は諦めて白状することにした。
「・・・私は魔法使いです。このことを誰かに話した時は、貴方の記憶を魔法で消去します。だから他言無用でお願いします。」
気持ちは項垂れたい気分だったが、ここで弱さを見せるわけにはいかないと思い、冷静にチェリーナは告げた。
「魔法使いだって?!――あの幻の???」
少年?の瞳は目を光らせとても嬉しそうに見える。
「・・そうです。黙っていてくれますよね?」
返事が欲しくて聞き返すと、嬉しそうに笑っていた少年?はにやっと少し意地悪そうに笑いチェリーナの両手をぎゅっと掴んだ。
「いいよ。――その代わり俺も一緒に同行させてくれ。」
「はい??――何故私があなたを連れて行かなきゃいけないんですか!嫌です!」
チェリーナはきっぱり拒否する。
「え?だって俺が言わないか見張れた方がよいでだろ?それに俺結構強いから君を守ってあげるよ」
「――守ってもらわなくても自分の身は自分で守れます!!」
「でもさっき落ちてきたよね?なんかトラブルがあったんだろ?いつも安全とは言えないと思うけど?それにここは結構危ない獣も多いから、腕試しには良いけど、初心者には危ないよ? 」
少年?はチェリーナの新しい汚れの全くない装いから初心者冒険者の魔法使いなのだと判断したようだ。
(・・観察力はあるのね・・)
魔法使いであると驚いていたにも拘らず、冷静な少年?の反応に嘆息した。
「・・わかりました。私はほぼ守ってもらう必要なないとは思いますが、見張るという意味では良いでしょう。私の事はチェリーナと呼んでください。貴女は?」
「良かった♪俺はヴィンセントだ!よろしくな!チェリーナ!」
「・・・よびすて?」
チェリーナは家族以外から呼び捨てされたことがなかったのでむっとする。
「気にしない気にしない♪こんなとこでお行儀良くやってても疲れるだけだって!」
「・・・わかったわ。ヴィンセントこれからよろしく。」
調子のよいヴィンセントに疲れを感じたが、それから二人はお互いの事を知るために休憩できそうな場所を探してから腰を下ろして話をした。
ヴィンセントは剣の鍛錬で自信がついたので、ギルドに冒険者登録をして1週間程この森林で過ごしていたらしい。なんとチェリーナと同じ年で、ノリ良く親し気に話してくれるのですぐに二人は仲良くなった。ギルドに登録しているという事は平民という事なのだろうが、容姿も振る舞いも上品さを感じる。もしかしたら訳アリ?なのかもしれないとチェリーナは感じた。
二人は休憩しながらお互いの事を話し、一息つくとチェリーナは先ほど空から落ちた時の木の枝にあたって擦りむいた体中を魔法で治した。
ほんの一瞬だが柔らかい炎のような揺らめきがチェリーナの全身を包み込んだようにヴィンセントは見えた。
「・・・凄いな・・・さっきまでの傷があっという間に消えた・・」
「一応魔法使いだからね!これくらいは簡単よ」
驚くヴィンセントに微笑みながら返事をする。
「チェリーナかっこいいな!・・――チェリーナはなんでアルダナ森林に来たんだ?冒険者になったのか?」
「―いいえ。私攻撃魔法を試したくて、ここが一番最適だと思って今日来たのよ。そしたら飛び立つ野鳥にびっくりして魔法が解けて落ちちゃったんだけどね。まさか動揺すると魔法が解けるなんて思わなかったから焦ったわ。」
苦笑いしながら告げるチェリーナにヴィンセントは興味津々だった。
「チェリーナ。それなら俺と一緒に冒険者の登録しようよ。そしたら腕試しで獣討伐とか受けることができるんだ。丁度良いだろ?」
「――冒険者登録ね・・・確かに良いかもしれないわ!私色んな世界を知ってみたかったの!楽しみだわ!」
「これから冒険者仲間としてよろしくな!チェリーナ!」
「こちらこそよろしくね!ヴィンセント!」
二人は笑い合うとぎゅっと握手を交わしたのだった。