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9_涙のお誕生日









 空がまだ薄暗い時間、使用人たちもまだ動き出していないのだろう。邸宅の中は静まり返っていた。


 チェリーナはいつものように透過魔法をかけた状態で外へ向かい、いつも訓練を行っている場所へたどり着くと辺りを確認した。周りに人がいないか探知してみるがやはり人の動きは感じられない。魔法を訓練するうちに出来るようになった魔法は多岐にわたる。簡単なものを動かしたり、燃やしたり凍らせたりするだけでなく、危機察知のような魔法も使えるようになっていったのだ。

食べ物や飲み物に自分の体に害がないか確認で魔法を使ったり、行先に害意がないか察知したりなど、本能が更に研ぎ澄まされたように魔法を使えるように自然となっていった。それ以外には自分の体を強化することも可能になった。体の身体能力を上げることで速く走ったり、重いものを持ち上げたり、疲れにくくなったりなどだ。恐らく最初のころ魔法を使う度に疲れにくくなっていたのは、無意識に魔法を使っていたのかもしれないと今は思う。



 チェリーナの扱う魔法は創造から生まれる力で、何か呪文を唱えなくても、イメージができていれば問題はない。しかし、だからこそ気を付けなければ精神干渉系の魔法を無意識に使ってしまう可能性も考えられるのだ。魅了や殺意で相手に精神的なダメージを与えることも可能だろうとすでにチェリーナは気づいている。だからこそ魔法は使い方をきをるけなければならない。悪用する人間がこの力を持っていたら、簡単に国1つ滅ぼせる気がする。


 攻撃魔法はまだ修得していないチェリーナではあったが、恐らく難しくはないだろうとは感じていた。相手を攻撃することと、魔力の消耗に気を付けさえすればよいからだ。自分にかける魔法のほうが、よほど難しいとチェリーナは感じている。うっかり考えなしに身体強化を行い、体が強化され過ぎて反動が来る場合もあるからだ。

 【大いなる力には大いなる責任が伴う】その分しっかり自分が意識して考えて使わなけでばならないと思うのだ。



 念のため高く浮かんで飛行した際に、万が一魔力が尽きて落ちても大丈夫なように自分の魔力補給用のパワーストーンを持ってきている。魔力が尽きてもこのパワーストーンから魔力を吸収すれば、着地の為の浮遊位はできる。


 念には念を入れて準備をする!――それがチェリーナだった。


 まずはいつものように1㎝程浮き上がってから動き回ってみる。


 ――全く問題ないようだ。


 次に1mの高さまで浮き上がって飛び回ってみてもまだまだ魔力に余力はある。念のため速度は出さずに屋敷の塀の上あたりまで浮き上がってその3m範囲内

を今度は飛んでみた。


 ――問題なし!


 この高さで飛べるのであれば大丈夫だろう。後はいかに長い時間飛べるのか確認したらよいだけだった。


 チェリーナは自身の魔力量を新調に確認しながら時間を測り限界値を確認した。今まで慎重に着実にトレーニングをしてきた結果が顕著に表れた。――なんと1時間近く塀の上の高さを飛行しても魔力切れを起こさなかったのだ。


 飛行魔法の修得を確信し、いよいよ次の段階に進む時が来たのだと胸を高鳴らせた。




 貴石のパワーストーンは着実に効果を出し、ローリーと出会ってからもうすぐ4か月経つ。おかげで今はローリーが公爵邸に来ても問題はないし、月二回のウィッシェントローズへ訪れる以外でも、ローリーと出かけるのであればすぐに許可が出た。


 チェリーナは協力者と、信用、魔法スキルを手に入れ、いよいよ夢にまで見た公爵邸の外での真の意味での1人行動を実現できると胸躍らせていた。





 熱に苦しんだチェリーナは、その熱である魔力を前世の自分を思い出したことでコントロール可能となった。もう一か月も経たない内に、チェリーナの16歳の誕生日となる。


 16歳のチェリーナの誕生日は、オーウェンが絶対に家族で祝う!と言っていた。



 (・・・家族は私の誕生日なんて祝いたがらないと思うけれど・・)


 乗り気ではなかったが、オーウェンの気持ちは嬉しかったので、「体が疲れない位の小さなお祝いの会にして欲しいな♡」と伝えておいた。



 誕生日の祝いが終わったら、帝都の南西にあるアルダナ森林に行って腕試しをしてみようと計画を立てるのだった。





 ***





 「チェリーナ!俺からのプレゼントの一つはこのドレスだ!!明日絶対着てきてくれよ!」


 オーウェンはチェリーナの自室へ夕食後ドレスをもってやってきた。

 

 以前お出かけした後、オーウェンが有名なドレスデザイナーを呼び寄せてチェリーナは半ば強引に体中を採寸されたことがあったのだ。体が弱いという事をオーウェンが考慮してくれていたので、時間は30分ほどしかかからなかったが、その後オーウェンはそのまま何時間もドレスデザイナーと相談をしていたらしい。



 そのドレスがまさか誕生日用のドレスだったとは・・チェリーナは自分の誕生日を祝われると思っていなかったので驚きを隠せなかった。


 ドレスは優しいレモンイエローとシャンパンゴールドの2色で、薄い光沢のある生地は幾重にもフリルで重ねており、プリンセスラインの可愛らしいフォルムは更に妖精のような愛らしさを醸し出していた。ウェスト部分は光沢のある真っ白な生地で後ろで大きなリボンを作るらしく、きっと背中に妖精の羽が生えたかのように見えることだろう。チェリーナの気になる胸元は。フリルとリボンで可愛らしくデザインされているので大きさが気にならない。首元には重さが気にならないようふわふわファーの真っ白なチョーカーで、ペンダントトップは家族の瞳の色と同じ新緑のような美しいライトグリーンの石がはめ込まれている。


 控えめに見てもこれはチェリーナの為に作られたものだと理解できる。兄の自信作なのだろう。



 (こんな素敵なドレス・・・着なきゃ勿体ないわ。)


 チェリーナは目立ちたくはなかったが、オーウェンのやさしさと愛情でパーティーに参加することが少しだけ楽しみに感じられた。





***




 ――誕生日のお祝いは、チェリーナの体調を考慮して昼食の後から夕食までで行われることになった。時間が時間なので皆家族は仕事があるのでは?と思ったのだが、全員誕生を祝うために公爵邸の大広間に集まっていた。大広間は客人を300人以上集めることができるような広い場所で、家族だけでは広すぎるのでは?と考えたが、なんとオーウェンの機転でウィッシェントローズのローズや従業員も来ていた。それ以外になんと皇太子殿下までくるのだという。そしてエンハンス家と懇意にしている家紋が10家紋以上招かれていた。



 (――これはとてもささやかな誕生日祝いではないわ!!)



 突然の大きな催しに唖然としていると、オーウェンは嬉しそうに微笑みながらやってきた。


 「チェリーナ誕生日おめでとう!ドレスとっても似合っているよ!まさに妖精のように愛らしいな!16歳は成人の年だからささやかだけれど、厳選してチェリーナが疲れない規模にしてみたよ!どうだ?」



 オーウェンは自信満々に微笑んで告げるが、普通の夜会を知らないチェリーナにとってはとんでもなく豪華な催しにしか見えない。チェリーナとしてこれまで熱を出すことが多く夜会やお茶会なんて参加した記憶がない。前世の記憶でもせいぜい大学の入学式位しか大きな催しなんて参加しなかった。



 「お・・お兄様・・私ダンスもマナーも未熟なのに・・こんな素敵なパーティー・・本当に大丈夫なのかしら・・」



 「大丈夫。心配しなくていい。今までマナーの確認も、ダンスのお遊びだって俺としたじゃないか!ちゃんとできるのをわかっているし、もし心配なら一回だけ俺と踊って後は休んだっていいんだよ!」



 「お兄様とダンスしたのは遊びの一環だったじゃないですか!あれは練習でもなんでもないですよ!」



 「ははっ。確かにあれは遊びだったんだが、俺は驚いたんだ。数回お遊びでダンスしただけなのに、すぐに俺のステップについてきていたからな!きっといままで体が弱くて誰も気づいていないだけで、チェリーナは凄い能力を持っていると思うんだ。あんなにダンスをして楽しいと思ったことはなかったんだぞ?」


 オーウェンは確かに何度かお遊びとしてダンスを踊ろうと誘ってくれた。最初は全然踊れなかったけれど、気づかないうちに身体強化をかけてしまったのだろう・・チェリーナは負けず嫌いだったのだ。オーウェンに後れを取りたくなくて、無意識に体が軽く動くように身体強化をかけていた。イメージをすることにも慣れていたから、ダンスのイメージがしやすく、魔法関係なくとも覚えるのも早かった。そして数回お遊びをしただけで、「完璧だ!」とオーウェンに褒められたのだ。


 ――あれがあったから今日のパーティーが開催できたのかと思うと苦々しくは感じるが、一度だけ踊ればよいのであれば・・チェリーナの気持ちは軽くなった。



 「わかりましたわ。ではお兄様が私と踊ってくださるんですよね?」


 「勿論だ!むしろ他の奴に譲ったりなんて絶対しない!チェリーナにダンスを教えたのも、ドレスを贈ったのも俺なんだからな!」


 オーウェンは嬉しそうに笑うと、正式なダンスの誘いをしてダンスフロアへとチェリーナを導いた。



 音楽が鳴り始めると、オーウェンとチェリーナはステップを踏み、美しい二人のダンスに周りは驚いた。


 今まで一度も顔を見せたことのない令嬢が、優雅に微笑みながらダンスを踊っていたからだ。皆エンハンス家と親しい間柄の人間ばかりなので、当然チェリーナの事は知っていたが、今までの冷徹令嬢と噂されていた令嬢とはとても思えなかった。


 青白くて無表情と言われていた令嬢の頬にはほんのりとピンクに染まり、優し気な表情はとても冷徹さは感じられない。ドレスもとても似合っており、チェリーナの小柄な体型を可愛らしく愛らしく魅せていた。ダンスはまるで妖精が舞っているかのように美しく、素人のダンスとは到底思えない。



 驚きが隠せなかったのは家族もだった。父親も母親も娘の美しく舞う姿に目を疑った。兄姉妹すらも別人ではないかと疑いたくなるほど驚愕していた。




 「チェリーナ。お前は体も普通の人と同じように歩き回れるようにもなったし、こうやって表情も柔らかくなった。マナーだってダンスだって十分高位貴族として自身を持てる程完璧だ。今日皆にチェリーナの姿をどうしても見てほしかったんだ。」



 「お兄様?」


 「俺は欲張りだから本当ならチェリーナの可愛い微笑みは俺だけのものにしたかったけど、そういう訳にもいかないだろ?」


 「・・・・」


 オーウェンはきっと今回をデビュタントと同じように考えているのかもしれない。


 今回のパーティーで私の容姿も能力もしっかりと高位貴族には伝わるだろうし、皇太子殿下まで来るならば尚更公式なパーティーとして認められるだろう。きっと最小限の規模で、チェリーナが委縮せずデビューできるように裏で動き回ってくれたに違いない。


 「――私の為に・・なんでですか?」



 「なんで?ははっ。可笑しなこと言うなぁ。大事な妹なんだから当然だろ?しかも唯一俺を頼ってくれた可愛い妹なんだ。お父様になんか任せるものか。」


 

 嬉しそうにチェリーナを見つめながらオーウェンは顔を綻ばせる。



 (――私こんなに愛されていたのね・・)


 チェリーナは初めて愛されていると自覚できた。確かに今まで良くしてくれるちょろい兄だとは思っていたが、ここまでチェリーナの為に動いてくれる真意がわからなかった。でも今はわかる。オーウェンは心の底から私を妹として愛してくれているのだと。


 協力してもらい始めてからもうすぐ1年が経とうとしている。その間、沢山の時をオーウェンは私と過ごしてくれた。お出かけもしたし、図書室で一緒に本を読みながら話もしたし、何かあるたびに声もかけてくれていた。


 チェリーナもオーウェンを特別に大切にはしていたが、彼の想いには叶わないだろう。



 「お兄様。ありがとうございます。――私今日を一生忘れません!」



 心からの感謝と喜びだった。覚醒前はお荷物として死んでしまうのだと諦めかけたのに、今自分はこうして愛を感じ、優しい世界に包まれている。


仲間ができ、愛する家族がいて、力も手に入れた。




 ――女神様。この幸せに感謝します。そして私もこの大きな愛を世界の為に使いたいです。



 オーウェンとダンスをしながらチェリーナは、これからの自分に明るい光と温かさを全身に浴びた。その光は、きっと自分のこれからの行く手をも明るく照らしてくれるそんな気がした。







 ダンスを終えた後、大広間の人々の視線が見慣れなくて居心地が急に悪くなったのだが、それを吹き飛ばすほどの事がチェリーナの身に起こった。



 家族の元へオーウェンに連れられて向かうと、お母さまは涙を流しながら私を抱きしめた。あまりの突然な行動に唖然とし、オーウェンを見上げるとにっこり微笑んでいた。



 (――想定内・・ということ?)


 お母様は「素敵だったわ・・」とか、「私がもっと支えてあげられたら・・」とか、とにかく泣きながら話しているので何が言いたいのかよくわからなかったが、周りが生暖かい空気なのには気づいた。


 お母様だけでなく、お父様までめが潤み?セシルお兄様も、ランベルお兄様も泣いていた。



 (――え???何事?!)



 チェリーナには理解できなかった。何故皆泣くことがあるのか?


 お姉様二人はにこにこしながらお酒を飲んでいるが、いままでの突き放すような態度は全く感じられない。


 

 「――ルルベル??」


 私の背後にはぎゅっとしがみつき静かに泣いているルルベルの姿があった。お母様に驚きすぎて気づかなかったが、まさか妹まで抱きついてくるとは・・・



 「チェリーナからしたら信じられないかもしれないけどさ、みんなお前の事心配はしてたんだよ。」


 オーウェンは苦笑いをしながらチェリーナに続ける。


 「だけど、ずっとチェリーナは寝込むことを繰り返していたから、励まし方がわからなかったというか・・不器用というか・・心を閉ざしてしまってたチェリーナにどう向き合ったらよいかわからなくって拗らせてたんだよ。」



 「・・でも・・私は役立たずだったし・・嫌われて当然で・・・」



 「そんなことはない!私がいけなかったんだ。ずっと体調が原因で外に目を向けないお前が心配だった。鼓舞するために言ったつもりだったか言い方が悪くすまない。」



 (お父様が謝罪?!どうゆうこと?!)


 あまりの一方的な家族の想いに思考が追い付かない。





 ――しかし一つだけわかることはあった。




 (今パーティー中なんですけど?!!!)




 チェリーナは仕方ないと思いさりげなく家族全員に心が癒される程度の魔法をかけてから告げた。



 「お父様もお母様も皆今は私の誕生日パーティー中ですよね?皇太子殿下もいらっしゃいますので、家族団らんはまた後にいたしませんか?」



 家族は状況をやっと察したようで癒しの効果で止まった涙を拭い、お父様とお母様は皇太子に挨拶をしに向かった。



 「チェリーナは本当に変わったな。」


 「え?」



 「今家族を現実に引き戻しただろう?一体いつの間に俺の可愛い妹は人心まで掌握するほど優秀になったんだ?」


 オーウェンは感嘆した後微笑む。



 「人心掌握なんてできませんよ。ただ、皇太子殿下への不敬は申し訳ないと思っただけです。」


 「はは。そうかそうか。」


 チェリーナは本心で伝えたが、オーウェンははぐらかされたと思ったのだろうか。ポンポンと優しく頭に手を乗せてから微笑んだ。


 「今日。誕生日を迎えられてよかったか?」



 「はい。私は幸せです。」



  チェリーナの誕生日パーティーは一時家族が大泣きするハプニングはあったものの、その後問題なくパーティーは終わりを告げた。






 今回のパーティーがきっかけとなり、チェリーナ・エンハンスは家族に愛される才能ある令嬢だと社交界に広まることとなるが、社交に興味のないチェリーナは知ろうとすることはないのだった。

 


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

次の更新は18時予定。

1章はここまでとなります。

次は2章に入ります。冒険?が少し入ります。魔獣系は出ないのですが、異世界ですので狂暴な獣は普通に出てきます。戦闘ありですがアオハルのような要素が入ってくる予定です。

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