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反発と疑念

「あなた達は正しいの!?」

 

『待っていた』



愛しそうに囁かれ、戸惑う星竜の横で、スカイが不機嫌な声を上げる


「意味が理解しかねます。説明していただけませんか?ガディス」


言われた彼女は星竜に微笑み掛けてから、スカイの疑問に頷く様に口を開いた。星竜も美女相手は流石にやり難いらしく、惚けたままだ


「よく聞きなさい貴方達。私は導士『ユニサス・ヴィローネ』の力を借りて、未だ見つからぬドラゴンナイトの召喚に成功しました。

既にこの世界『ドラゴンファンタジー』には、存在しないと判断したのです。予測されていた結果でもありましたが、だからこそ準備も進められていました。

『導きの力』では相手が特定していない状態で判別する事は不可能。だから召喚を行ないました。これは多大な労力を消耗するため、一度きりの奇跡です。リスクも高い。

……召喚に応じたのが、こんな可愛らしいお嬢さんだとは思わなかったけれど」


星竜に向けられる眼差しはどこまでも柔らかい。だからこそ居心地も悪かった


この説明に何かを察した五人は「まさか……」と呟き、それに対して頷くガディス


「そうです。彼女こそ貴方達の要となるドラゴンファンタジー100代目守護者(ガーディアン)龍騎士(ドラゴンナイト)なのですよ」


「ぅえ゛えぇー?!こんな女子供(ガキ)が?!嘘だろうっ?だってガディスッ……」


アクアが声を荒げて反論したが、ガディスは「間違いありません」と断言した


他の者達も同じ気持ちではあるのだろうが、覆す気の無い彼女を見て言葉を飲み込み困惑する頭を必死に整理しようと椅子へ座った


「異界という可能性は初耳だった」


フレイムが相変わらずの無表情で呟く


「(おぉ!ターン同様、それ以上に会話に参加した事の無いフレイムが喋った!誰の声かと思ったぜ)……って、じゃなくて!!

そうだよっ、ガディス!オレたちはナイトを捜せって言われただけで異界の話は初耳だ!捜し様が無かったじゃんッ」


アクアが興奮して喚きたてると、ガディスは困った様に頭を下げた


「ごめんなさい。気配を捉えられず時間を要していたの。確実な事が言えずに今まで黙っていて貴方達を振り回してしまった事、本当にお詫びします。

ユニサスも召喚で再び眠りについてしまっているわ」


ガディスに頭を下げられ、アクアは狼狽えながら俯いた


「だけど、女がナイトって……」


まだ異論はあるらしく、言葉を濁してブツブツ呟いていた




「…――あのぉ」




「それにさ、あまりに展開が早くて……」


頭を抱えるアクアに続くように、皆から意見が漏れる




「…――ねぇ?」




「異界か……予想すらしてないよね」


セルフも脱力感に苛まれ、肩を落としていた




「…――ちょっと……」




「一旦私は戻ります。貴方達、宜しく頼みますよ?」


そこへ、ガディスが声をかけ、それに対してスカイが我に返り、会釈して消える彼女に頭を下げる。他の彼らも倣って彼女を見送った


彼女がいなくなると、アクアは大げさに頭を抱えてしゃがみ込む


「うわぁー、どーすんの?!これから!」


「何を言いますか?新たな道が開けました。むしろ喜ぶべき事でしょう」


スカイがそれをやんわり嗜めると、セルフが苦笑した


「……とは言え… 」



ピキッ



「―ー…ッ ちょっとぉーッ!!アンタたちねぇ、人の話くらい聞きなさいよーっ!」


再三無視されていた星竜がここにきて、キレた。怒り爆発といった様子で雄叫びをあげた


驚きの顔で注目されるが、そんな事お構い無しに星竜は巻くし立てた


「さっきから何度声を掛ければ気が付くわけ?!その上散々好き放題言っておいて(何言ってたか理解サッパリだけど)結局はアンタ達が私を連れてきたんじゃないの!?当事者無視して勝手に話を進めないで!!」


散々蔑ろにされた主人公は相当ご立腹らしく、顔を真っ赤にして怒鳴っている。入る隙を失っていた分、一気に吐き出してる様だ



「‥‥‥」


急に静まり返った部屋の中では、星竜の乱れた息遣いだけが反音する


ギンッと睨まれて、スカイが慌てた様子で立ち上がる


「そっ、そうですよね!こちらばかり納得して……今、説明します。僕達の会話の内容は解りますか?」


「解るわけないでしょ?!

……っていうか私には全く利益が無い事が分かったくらいで、理解するつもり無いわ」


不機嫌な事も手伝って、思い切り突き放された。スカイがそれでも宥めようと口を開く


「なら、きちんと説明しま… 」


「いらないわ」


しかし皆まで告げるより先、星竜に即蹴される


当然、狼狽える彼らを尻目に更に言い募った


「今すぐ地球、私のいた世界に還して」


全員が絶句する


「……え?」


星竜の言葉はいつまでも冷ややかだった


今までの経緯、会話の内容。

事情はともかく、それが自分にとって安全か危険かの判断は、育ってきた環境の為か知らない内に身に付いていたのだ


今回は‥‥‥後者


『ここにいてはならない』


それが本能が導いた「答え」



周りは焦る


「まっ、待ってください。僕達はアナタを陥れたりしません!」


何を勘違いしたのか、スカイがそんな言い訳をする


しかし星竜はそれをあっさり肯定した


「分かってる。アナタたちは私を助けてくれたし、ムカつく奴もいたけど……全くの善良市民だって、それは分かってるの!」


キッパリ断言され、逆に戸惑う。

星竜は一瞬言葉を切り、目を細め「けれど」と続ける


「普通じゃない。

人間が突然現れて空に浮いて消えるコト、充分異常だけど……私はそんな事を言ってるんじゃなくて……『アナタたち』が私にとって危険なのよ!私は還る」


「なんだソレ?おまえなぁちょっとは人の話も… 」


アクアが呆れ顔で突っ込むが、すかさず星竜が怒鳴り付けた


「聞かないのはどっちよ!私には理解できないって言ってるの!!アンタたちの都合だけで変な国に連れてこられたって聞いたら、警戒だってするわよっ!

かと言って、もう話を聞く気もないわッ!」


聞く耳を持たない星竜


フレイムが(故意でないにしろ)扉の前に立っていたので外に出られない、それが余計に警戒心に輪を掛ける


「じゃあこれからどーすんだよっ?!」


アクアだけが食って掛かり、セルフが「煽るな」と言いた気に止めに入ろうとするが遅かった


「知らないわよ!知りたくもないって言ってるでしょ?!私を還して!!連れてきたんだから還す事も出来るでしょう!?」


一歩も引かない星竜は、同じ台詞を繰り返すばかり。いい加減、アクアが本気で怒鳴り出してしまう


「お前、何ワガママ言ってんだよッ!ナイトなんだろ?!なら役目に従うべきだろーがッ。分からないなら説明するって何度も言ってんじゃん!」


「ッ」


これには流石にセルフとスカイの咎める声が重なった


「アクアッ!!」


しかしそれよりも早く‥‥



バキィッ


「!??」


気付く暇もなく星竜の右拳ストレートがアクアの左頬を捉えていた


直撃


ガシャアァァアッッ


騒音を発て、彼の体はテーブルに突っ込み、上に置いてあった物が崩れ破片が散った


「ふざけないで……」


小さく呟かれた声はやけに響いた

殴られたアクアを含めて茫然とする皆に対し、星竜はゆっくり態勢を戻し口を開く


「勝手に連れて来られ、私が何かの役目があって……それに従えって?ソレを拒絶する事がワガママ?

ふざけないでよッ!」


「‥‥‥」


「バカにしないで!私の気持ちは無視されて、自分勝手はどっち?!いつ、私からこの世界を守るなんて約束した?いつナイトサマになるって言った?ここが何処で何なのか分からないのに……納得も義務もないわよ!!」


震える肩は怒りを表していた


アクアは起き上がらず、皆は黙ったまま話を聞いた。今度は反論しない


「 …ハァハァ  ……」


まくし立てた後の興奮で乱れた息使いだけが静かに部屋に響き、星竜は徐ろに俯いた


「……頭、痛い」


「え」


呟かれた言葉に目を剥いて戸惑う彼らの横を、星竜はフラフラしながら通り過ぎ、隅の椅子に腰掛けて前屈みに項垂れる


両手で顔を覆ったまま動かなくなった星竜に、セルフとスカイは心配になって恐る恐る声を掛けて覗き込んだ


アクアはフレイムに手を借りて立ち上がる


「あの……」


しかしソレより先、星竜が口を開いていた


「私のいる世界(トコロ)知ってるんでしょ?ここはドコで何なの?」


その質問に目を見開いた


「え?……き、聞いてくれるんですか?!」


スカイは星竜の意図を知って、満面の笑みを浮かべ目を輝かせた


「‥‥‥」


星竜は応えなかったが、彼女の気が変わらない内にと、手早く皆に座るよう促した


落ち着きなく「お茶を煎れましょうか?!」と振り返るが、星竜は顔も上げず「いらない」と頭を振る。セルフもそれを察して、スカイに落ち着く様に諭す


「スカイ、いいから。君も落ち着こう」


聞く気になってはくれたが、和気あいあいな雰囲気では到底無かったし、お茶に出来るほど余裕も無かった


スカイも冷静になると空気を読めたのだろう、素直に「分かりました」と手近な椅子に座った


それを確認してから、最後にセルフも星竜の向かいへ座って話を始めた


「まず、この世界を説明しましょうか」


話が始まっても星竜は無言で、項垂れたまま顔も上げない


「ここは『ドラゴンファンタジー』と呼ばれる世界、君のいた場所(セカイ)と異なります」


ピク


僅かな反応が見られたが変化は無い。恐らく今までの会話や状況で自覚していたはずだ


「俺たちからすれば君の世界は聞いた事がある程度。唯一人間が生存しているのは地球のみなんだろ?総称を『異次元地球』と呼んでる、それ位の知識だ。

俺たちは君の世界を認識してるけど……恐らく君の反応からじゃ、逆は無い様だね」


苦笑混じりに問い掛けたがやはり応えは無い。元々諦めていたのか、セルフは構わず続けた


「だから君は俺たちの存在に困惑したんだよね?

ならばドラゴンファンタジーの事を説明しようか。

ここは太陽星(タイヨウ)という巨大な星を中央にして周囲に、水星・火星・土星・天王星・海王星・冥王星が円を描くよう並んでいる」


「……太陽を中心に円?」


ここでやっと星竜が顔を上げた。疲れ切った表情で視線を向ける


その弱々しい姿にセルフは目を細め、スカイは眉を潜めて、アクアに至っては顔をしかめた


(今にも倒れんじゃねーの?アレ)


とはいえ話を中断する訳にはいかなかった


(状況はどうあれ、興味を持った事を利用しないと)


「君の世界の太陽と違い、ここは生物が生存してる。太陽だけじゃない、このドラゴンファンタジーと呼ばれている星には総て、人間の存在が確認されているし、その環境に適応しているんだ。

ちなみにロウ(ココ)は太陽星だよ」


「(太陽に人が住めるという事は……)熱は発していないの?

日があるから外に明かりがあって、夜が来てるんじゃ?現に外は暗くなり始めてるし、気温だって……」


常識的に考えれば当然の疑問である


「総ての星は自力で大気を熱に替え安定しているんですよ。周囲の大気同士が光を発しているので乱反射が起きて夜が存在します。その他にも幾つかの星があり、円の外側に月陰星(ツキ)と木星・金星ですね」


(星の並びからして違う。常識も感覚も、環境すら)


星竜は自分のペースで理解していく事にした


「それがこの世界、ドラゴンファンタジー?

なら、さっきの女の人は人間なの?……生きてる?」


場所を認識してるだけでは解決しない事は分かっている。ガディスの存在は異様すぎたし、彼女が自分を連れて来たのだ。気にならないはずが無い


「彼女の事は詳しくを知りません。ただこの世界の為に動いているとしか……」


「この世界って……そんな大それた事をなぜアナタ達が関わっているの?私と年齢、あまり変わらないよね?」


ここが一番の疑問


異世界と断定した時点で非現実は漠然と認識していたが、こちらの常識には未だ理解しがたい所があった


なぜ彼らなのか


「私をナイトと言ってたよね。その事だって」


星竜は怪訝に首を傾げた


「僕達には使命があります……前世から決まっていたんです」


「前世?!」


彼ら全員が冗談を言っている雰囲気は無かったが、流石に目を見張った


「ドラゴンファンタジーには魔物が蔓延り、それが数年程前から暴走を始め、現在では崩壊の危機に追い込まれました。それを救うのが僕達の役目です」


「だから俺たち、(ドラゴン)戦士には特別な能力が備わっている」


スカイの説明に、セルフは得意気に付け加えて微笑んだ


対して星竜は明ら様に疑い深い視線を向けていた


「崩壊?ドラゴン戦士って何?」


どちらかというと現実主義者(リアリスト)。ただ目の前で起きてしまった事だから受け入れたのであって、聞いただけじゃピンとこない


「僕達の名称です。(ドラゴン)の加護を受けて戦う事を義務付けられた守護者(ガーディアン)の事です」


「いや、そうじゃなくて……アナタ達って、『何』?」


もっと根本的な事が知りたかった


彼らの説明から、彼ら自身がこのドラゴンファンタジーの中でも異質に思えてきたのだ


「僕達は貴方と同じ選ばれていた者、前世から繋がりを持つ者です」


スカイが真っ直ぐ星竜を見つめ、星竜は眉を潜め自分を指す


「さっきも言ってたよね?前世、私も?」


スカイは頷いて続ける


「元々、戦士や騎士(ナイト)は決定されています。それは初代からの定まり事なのです。

だからこそナイトである貴方を捜すのに手間取りました。貴方という存在がドラゴンファンタジーではなく、異次元地球に生まれ変わっていたからです。

かつてドラゴンファンタジーを創世した者は神を創り、彼に人間を創らせたそうです。その後、世界の流れ……つまり『時代』を創ったのですよ。

それに乗じて頂点に立つ者『皇帝』の存在を必要としました。それが初代プリンセス、そしてガーディアンです」


「それが、前世のオレたちの事」


アクアが付け足すが星竜は聞いているだけで精一杯。スカイは構わずに続ける


「神は予言します。ドラゴンファンタジーが安定する為には幾つもの準備と果てない時間が必要であると。結果、100代目プリンセスにドラゴンファンタジーの全て……命運と未来を託します。

初代は100代目で生まれ変わり、見守る義務を受けました……能力の継続の為に」


「決められていた存在?

プリンセスって……ソレは確かなワケ?性別まで予言出来るなんて適当を……」


明らかに疑ってる様子だ


「適当じゃねーよ!」


アクアが横槍を入れたが無視された


「予言は正確です。何より皇帝の地位に就く帝は、女性しか生まれないそうです。初代が龍の血を使って生まれた事から関係があるみたいですが……龍混血(ドラゴンハーフ)と言っても本当に血が通っている訳ではありませんが。

あくまで能力が、と言う事なのでプリンセスも貴方の様に生まれ変わっていても、それと気付かずに生活を送っているはずです。記憶や片鱗があるわけではないので、見つけるのは困難なのです」


落胆するスカイの言葉に、星竜は声を上げた


「お姫様も捜してるの?!」


「当然だろ、ドラゴンファンタジーはプリンセスがいなきゃ意味を成さない。救えるのはオレたちじゃない、その女なんだよ」


アクアは、さも当然とばかりの態度で偉そうな口調で告げた


「何ソレ?さっきはアナタ達で護るとか言ってたくせに?」


皮肉を返す星竜に、セルフが複雑な顔で捕捉を始めた


「実はね、俺たちも未完成なんだ」


「何言ってんの?」


意味が理解出来ず、星竜は明ら様に眉を寄せる


「うん、あのね。君の他に俺たちは、あと3人を捜さないといけない。

実は仲間は揃って無いんだよ」


「‥‥‥」


「1人は君にも説明した通り、太陽の象皇帝・龍姫巫(ドラゴンプリンセス)、そして他に冥王星守護王と海王星守護王、つまり俺たちと同じ立場のドラゴン戦士。その3名」


そう言いながら指折りをした


「それが揃って、初めて『儀式』は成立するんだ」


肩を竦めたアクアに、星竜は首を捻る


「(儀式?)太陽とか、冥王星、海王星って意味があるの?」


するとアクアはニヤリと笑って、「よく気付いたな」と頷く


「お前はわざわざ召喚を受けたけど、オレたちは何故簡単にお互いを認識して集まれたと思う?手間は掛からなかったんだぜ?」


「?」


そんな謎なぞを問われても、答えようが無い。当惑する星竜


しかし、アクアの言う通りだ。彼らはどのようにして自分の存在理由を知り、集まれたのだろうか?


「えぇ、と……前世を憶えていた、とか?」


「ブブー!ハズレー♪」


やけに楽しそうである。その姿が更に腹立たしい


「ンな事、分かんないわよ!子供みたいにハシャイじゃってみっともない!!」


「なんだと?!」


結局、逆ギレして言い争いになってしまう。

『馬が合わない』正にそれだ


(あぁー…始まった)


先程までおとなしかった星竜のお陰で、暫くは話も出来たが……なぜかシッカリ元気を取り戻してしまっていた


安心したい所だが説明していた側としては、もう少しだけ話易い状況が続く方が楽だっただろう


仕方ない


「アクア!!全くキミはいつも話をややこしくするからいけないんだよ。

星竜さん、俺たちには共通点があったんだ。自分たちが前世の生まれ変わりであるという共通点が……」


アクアを嗜めてから優しく向き直るセルフの言葉に、星竜は黙って話を聞いた


「俺たちのセカンドネームを覚えてますか?」


訊かれて星竜は「覚えてる」と即答した。始めから気になっていた


「星でしょ?みんな統一性あるなぁって思ったから良く覚えてるわ(むしろおかしいって思った)」


「そう、それが答え。

俺たちは星の、元皇子だったんだ」



「‥‥‥‥ は?」


一瞬、目を点にする


そして次の瞬間


「おっ、皇子ぃ?!」


あまりに驚いて絶叫していた予想以上にスケールが違う


(国じゃなくて、星!?)


愕然としてる様子があまりにも滑稽な顔だったのだろう、セルフたちは苦笑いした


「ビックリしました?」


「‥‥‥した」


思わず立ち上がったが、力が抜けた様に呆然としてトスンッと再び座り込み、聞かれた事に相槌を打つ


「僕達から見ても、突拍子も無いと事だと思いますが事実です。驚かせてしまいました。すみません」


深々と頭を下げるスカイに、星竜は首を振った


「いや、始めから聞いてたコト全部ウソ臭いから」


否定しているんだか、肯定しているんだか分からない行動と言動に、「どっちだよ」とアクアに突っ込まれつつ星竜は続けた


「何より、アクア(コイツ)も皇子様だと言うコトが一番驚いたし疑わしさ倍増。むしろ今までの話も、その所為で信憑性に欠けたかもしんない」


「ンなっ」


全員の視線がアクアに集中する


ターンやフレイムにまで向けられて、アクアは狼狽を見せる


「あー……すいません、気持ちは分かりますが事実なんですよね」


納得を含んだセルフの物言いに星竜も乗る


完全にからかわれていた


「セルフッ、お前まで……うー……なんでオレに対してケンカ売るかなッ」


矛先は元凶の星竜に。睨まれても屁でも無い取り敢えず、無視


「仮にアナタたちが皇子サマで……」


「仮じゃねーッて」と突っ込むアクアはこの際、聞き流す


「なぜ国を離れてこんな場所にいるの?集会場?密会?今後の行政相談?」


その質問にセルフは苦笑して、暫く沈黙してから両手を組んだ。表情が俯き加減に陰り、そして重々しく告げる


「星を、追われたんです。俺たち全員」


「!」


「あっという間でした。

妖魔に襲われたり、裏切りにあったり……理由はそれぞれですが、その後ガディスに救われ集まった。最初は誰もが自分たちの運命を呪い、受け入れられず反発したりとありました。

……今の貴方の様に」


向けられる視線


同じ境遇を告げられる


星竜は何を言っていいか困惑して話を聞いた


「失った国や家族、それぞれの民。それを護れなかった僕達が一体何を為せるでしょう?

……しかし、だからこそ平和を望みたいのです。運命に振り回されていますが、それでも力があるなら少しでも役に立ちたいと思うのです」


事情。彼らはあまりに大きな運命を背負っていた


「今、星はどうなってるの?」


質問が口を付いて出た


「秩序を失い妖魔が蔓延(ハビコ)る中、それでも人々は暮らしています」



星竜は暫く考え、質問を変えた


「私たちは何をするの?妖魔を倒すの?」


根本的疑問はそこである。色々聞いていたが、結局自分達が何者であるのかしか聞いていない


「儀式」


答えたターンの声に反応し、振り返って首を傾げる


「儀式?(さっきもそんな単語が)」


「僕達にはもう一つ、特殊な力が備わっています。それが(ドラゴン)召喚です」


「ドラゴン?」


「プリンセスのみに召喚、交渉の出来る『伝説のドラゴン』です。それを喚ぶ為に必要なのが僕達と同じ、それぞれの特性を司る多種のドラゴンなのです」


星竜は少し頭で整理してから問う


「儀式をして、ドラゴンをお姫様に喚んでもらって、それから何をスルの?そもそも儀式で何かするの?お祈り?」


見当違いの星竜の解釈に複雑な笑みを浮かべる


「ドラゴンを目醒めさせると願いを叶えてくれると聞きます。そこで失われた世界、土地の再生、つまりドラゴンファンタジーの繁栄を望んでもらうのです」


スカイは両手を広げてみせたが、星竜にはそれが違和感だった


(失われた……?土地の再生って)


窓の外に目を向けるとすっかり暗くなっていたが、昼間飛び出した時には、今聞いた物々しい感は感じ得なかった。青い空と緑繁る森。鳥がさえずり、遠くでは水流のせせらぎが聞こえていた気がする。和な象徴とも取れる程に


「平和そうに見えるけど?」


「一見はな。でもひどく荒たり、『奴ら』の支配下に堕ちた地は妖魔だけじゃない。草木は枯れ、水は汚れ大地は枯渇する。飢えに民は苦しみ死んでいくんだ。ひどい惨状だぜ?実際」


それを思い出したのか、苦々しく眉間に皺を寄せて吐き捨てたアクアの表情で何かを感じる


「奴ら?」


聞き返すと、一気に部屋の空気が一変する。ピンと張り詰められた様に僅かな緊張が皆から感じられた。それで星竜も異様さを察する


(私、何かマズイ事言った?)


戸惑っていた星竜に、暫くしてからセルフが口を開く


「俺たちの……このドラゴンファンタジーの敵です」


「‥‥‥(本当にゲームみたいな敵とかいるんだ……現実的じゃないなぁ)その人たちは何をしたの?」


「名を『ドラゴニア』と名乗り、妖魔を支配しています。妖魔や獣は元々このドラゴンファンタジーで人間と共存していたのですが、数年程前に突如暴走を起こし、次々と人間を襲っていきました。

ドラゴニアはその頃に忽然と姿を現し、彼らを手懐けていったのです。更に国の支配を拡げていきました。

彼の支配地は既にドラゴンファンタジー全土の約1/3を占めています。

そして彼を筆頭に七人の配官『レインボーレッツ』があるのです」


「奴のせいで、益々魔獣は凶暴化して被害は拡がってる」


皆の表情から憎悪が見て取れた


星竜はここまでの経緯を聞いて、推測を口にする。一瞬は躊躇った一言を……


「星を乗っ取ったってワケ?そしたら……

……―――ソイツがあなた達の肉親を殺したの?」


アクアは俯きながら投げやりに「さぁな」と吐き捨てる


「やらせていたのかは知んねー……実際、奴が現れたのはその後だったし。

ケド、乗っ取ったのは本当だ!奴を消さなきゃ儀式どころか龍だって喚び出せない!!」


最後の一言に疑問が湧いた


「邪魔されてるの?」


「アイツ等、事如くオレたちにちょっかい出すんだ」


地団駄を踏むアクアの言葉を「それだけじゃないよ」と捕捉したのはセルフ


「ドラゴニアと、レインボーレッツの各軍将が拠点としているのは……元、俺たちが暮らしていた帝国なんだから」


「帝国……?乗っ取られたって、まさかアナタ達の故国?」


星の中枢には皇族が住まうものだ。「そう言ってんじゃん」と、さほど気にした風もなくアクア


「その場所に儀式をする為のドラゴンも眠りについているらしいんだ。帝国は聖なる地と呼ばれていたからね。

今では支配地『禁域』とされているけど」


遣る瀬ない哀愁の表情に、星竜は溜め息を吐く


「禁域か……大層な名前ね」


「『禁域』内はドラゴニアの特殊な力が働いてしまい、能力が一切使えなくなってしまいます。呪われているんでしょうね」


皮肉を言って苦笑いを浮かべるスカイ。笑うしかない、そんな想いが手に取る様で、星竜は複雑だった


自分が過去に携わっていない事、それは彼らとの立場、境遇の違いを思い知らされる。どうしたって彼らの痛みを知り得ない



「気になってたんだけど、能力って何?」


会話中幾度となく耳にする『能力』の事を尋ねた


するとセルフはキョトンとして「言わなかったっけ?」と首を傾げる


「障り程度。初代から伝わってるんだよね、その力」


「はい。それぞれ能力は異なります。

僕は『天王星』の皇として天雷を司ります。雷電の力です」


スカイの微笑みの先、アクアがその肩越しに身を乗り出した


「オレは『水星』で水を司る。こーいう風に……」


そう言ってアクアは差し出した右掌を上に向ける


ジャバッ ‥‥ジョロロロ…


「!!」


目の前の奇術に驚いて目を見開き呆気とする星竜


何もない掌からブクブク水が溢れ出て、床を濡らしていった。あっという間に足元には水溜まりが出来る


(手品?!蛇口もないし……これが能力(チカラ)なの?)


茫然とする傍ら、セルフが頭を抱え絶叫する


「あああーッ!!アクア!

止めなさいッ水浸しじゃないですかぁッ!!きちんと拭いておくんだよっ?!」


それにはアクアが目を剥く


「ええ゛っ?!オレが怒られんのッ?だってコイツがッ……」


「理不尽だ」と不満な顔で言い訳しようと星竜を指差すが、「問答無用」と怒鳴られる


(やってる事は凄いのに、結局怒られるのね、バカ……)


呆れを通り越し、同情してしまう。付き合ってても仕方ないと判断してスカイに向き直った


「こういう事なのね、能力って。正直驚いたよ」


ニコニコする星竜に、スカイは力なく笑った


「……」


笑っている星竜に違和感が拭えない。確かに元気になった様に見えるが、どこか無理してる様に感じてしまうのだ。それはただの勘……指摘する事もできず、内心気まずくて一瞬だけ躊躇う


「‥‥‥(やっぱり、心を開いてくれたわけではないのですね……)。フレイムは『火星』、炎を。セルフは『地球』、自然地を司り、そしてターンが『土星』、気功を司ります」


「気功?(あの中国の?)」


他の者ならともかく、ターンの能力は分かり易そうで分かり難い


「彼の力は結界や治癒が主なのです。勿論、攻撃の力もありますが、やはりどちらかと言えば防御や護法です……随分助けられていますよ。貴方が腕を怪我したと思った時も彼を呼んだのは、その様な理由がありました」


(回復役もお決まりなんだ……本当にRPGになっちゃうな)


まだどこか他人事、第三者の立場でいる星竜


「君にもあるはずだよ。異次元から来ても、転生者に変わりはないのだから」



ドクン……



セルフの指摘に、改めて自覚を余儀なくされ、僅かに緊張する


「まだ、信じて頂けませんか?」


スカイは、星竜の強張った表情に気付き顔を覗き込む。彼女は一点を見つめ、口を閉ざしたまま固まっていた


「‥‥‥」



「……星竜、さん?」


無言の彼女に戸惑い名を呼んだが、すぐには反応は返されず。暫くしてからボソボソと口が開き始めた


「私……まだ決められないよ。私は私の16年間があって……コッチの事情は酷く切羽詰まっているみたいなのは理解したけど、直ぐには納得はできない」


躊躇う様に淡々と話す星竜の言葉に、スカイは「分かります」と頷いた


そこにアクアが怪訝な表情を浮かべる


「何で気が変わったのさ?ついさっきまであんなに反発してたじゃんか(オレなんか遠慮無しのグーで殴られたし……)」


思い出して、少し腹立ってくる。仕方ないだろう、彼の左頬は真っ赤に腫れ始めていて相当な痛みで疼いているはずだ。不機嫌にもなる。

見兼ねたターンが氷を持って来てくれたが、治療してくれるつもりはないらしい。「自業自得です」とスカイに禁止されたのだ


「状況が状況だったから、話だけでも聞こうと思っただけよ。協力するとは言ってない……」


(まだ言うかッ)


ツッコミたい衝動を抑えたのは誉めてやるべき。やっと学習能力がついてきたアクア。横で苦笑いを漏らすセルフは、同情を含み複雑な表情を浮かべた


「聞いてくれるだけでも有り難い事だよ。急な話を聞かされて混乱してただろうし」


「‥‥‥」


星竜は何も返せない。あまりにも優しすぎる彼らの自分に対する言動に、居たたまれず話題を逸らしてしまう


「他の人たちも異次元にいるのかな?」


見つからないと言っていた仲間の事を思い出し、ボソッと呟く


「君みたいに飛んで来てくれれば楽なんですけどね……」


肩を竦め、溜め息を漏らす姿は疲れた様な、諦めた様な……そんな表情


「戦士はともかく、プリンセスはそうもいかない」


皮肉った笑顔は陰った


「(プリンセスは?)……彼らも戦士なら星の王族なんでしょ?だったら星にいるんじゃ……」


最もな話。

しかし首を振って否定するセルフ


「少なくとも、今は皇族じゃないよ」


「『今は』?……その根拠は何?」


するとアクアが仏頂面を顕にし、説明を始める


「守護星の話、したろ?今はドコの星にも皇族はいないんだ。ある人物たちの存在によって、なんとか最低限の安定はあるけどさ。

ドラゴニアの支配に例外はねーから、どこかしらそれぞれの星の一部は奪われてる。

海王星なんかは、オレたちの星が崩壊する十年位前に滅びたってガディスが言ってた。そんで月陰(ツキ)と冥王星とこの太陽は、長い間皇族は存在してないんだと!」


星竜は目を丸くしてアクアの話を聞いた


「仲間集め、大変そう……揃うのに苦労しそうだね」


素直に感想を口にする


「だからお前も、こんな目にあってんだろ?」


アクアが微苦笑して、呆然としていた星竜を見ながら皮肉を飛ばした。星竜は一瞬だけ目を見張り、それから力なく笑う


「ホントだね……」


それは、自分の状況を受け入れたと同時に、諦めた様にも感じて……


まさかの反応は、逆にアクアの方が面食らった。期待と違ったリアクション。素直に返されるのは予想外だった。自分で振っときながら首を絞めていたら世話が無い


でも、本人は至って普通に話を続けていく


「プリンセスって話、さっきは何となく聞き流したけど、何なの?偉い人なのは充分理解したけど、私達(って言うか、アナタ達?)にとってどういう存在?」


星竜の質問に、意外そうに目を瞠り「説明してませんでしたっけ?」と首を傾げた


「してないよ」


星竜は首を振って「教えて」と告げる


スカイは気を取り直し、質問に答えた


「プリンセスは掛け替えの無い存在であり、守らなければならない女性です。

理屈ではなく、ただ本能がそう反応するのです」


その言葉に星竜は違和感を持つ


「本能?(これは刷り込み?絶対存在?……でも私は何も感じない)」


人間にこの表現はどうかとも考えたが、やはりピッタリなのがコレだった


「なら、(ナイト)じゃなくてよっぽどプリンセスを喚べば良かったのに。手っ取り早いじゃない?……アレ?でもさっきプリンセスはともかくって……ん?ダメな理由があるの?」


言いながら、さっきのセルフの台詞を思い出して困惑する


「彼女は本当に特別なんだよ……だからこそ知られ過ぎ、命の危険に晒される。それを避ける為、召喚などで不容易に姿が現せないように防壁(プロテクト)のようなものを掛け守られてる。本人は自覚してないって」


それは敵どころか味方にも言える事だと瞬時に察して顔を顰めた


「うわぁ……手掛かりホント無し?目印さえ無いじゃない。アナタ達みたいに元々王子・王女サマだとか」


素直な意見に、セルフは言い淀む


「無いわけじゃ無いらしいけど……」


「えっ、あるの?!」


コレは意外


聞いていた分にはお手挙げ状態と認識していた星竜は目を丸くした。セルフは小さく頷く


「うん。彼女には『見守る者』という存在が就いているらしい。ガディスの説明では彼らがプリンセスを育てていて……そして『証』を持っている。プリンセスのみが所持する特別な物みたいだよ」


(また新しい登場人物、出たー)


内心溜め息。でもここで水を差すのは流石にマズイと押し留める


「見守る者か……育ててるって親?」


冷静に考えれば到達する結論


セルフは「そうらしいね」と肯定を含めて頷いた


「一番適任でしょう?」


「そーかな」


「え?」


答えたのは星竜じゃなかった


振り返った先、即答したのは顔をしかめたアクアだった


(怒ってる?)


違和感。と、言うのもアクアの呟きは疑問系というより否定的に近く、とても冷ややかだった。普段の彼から感じ得る雰囲気とは真逆の、重く暗い混沌な感情があからさまに顕になっていたのだ


「? …アク… 」


「星竜さん!」


「!」


星竜の怪訝な表情から何かを口にしようとしたその寸前でスカイに名前を呼ばれて意識が逸れた


「何?」


こちらに注意が逸れたことに心無しホッとしたように見えたのは気のせいか?スカイは慌てたように言った


「続きを話します」


明らかにアクアの違和感に気付いていたはずなのに、スカイ達は僅かに目を細めただけでソコには触れずに、話題を戻してきたのだ。無理矢理にでも……


「み、見守る者はドラゴンファンタジーの『神官』『祭司』に仕えていた側官で、信用ある方達と聞いています。そのような方達に育てられたプリンセスならきっと素晴らしい存在であると信じています」


彼らのアクアに対する反応に引っ掛かりを感じたものの、そこは踏み込んではいけないと流石に感じて、敢えて星竜も話に乗って先ほどの件は流すことにする


当のアクアはまだ、顰めた面を残してはいたが、反面居心地悪そうな、申し訳なさそうな、そんな様子でこちらを見ていた


「(やっぱり流した?突っ込むベキじゃないよね?空気は読まないとマズい)……だから信じる信じないじゃなくて、プリンセスはドコにいるか、と……今気が付いたんだけど、プリンセスは皇女でしょ?王子のアナタたちと立場は同じじゃないの?星の王家ってトコ」


切り替えたら切り替えたで新たな疑問が湧いてきた


セルフが複雑な表情で「そうとも言えるけど… 」と言葉を濁している。それを引き継いだのはスカイだった


途端に否定の声が飛んだ


「一緒ではありません!」


「へっ?」


スカイの勢いに一瞬怖じ気づく。そんな星竜を尻目に話は突き進む


「彼女は確かに太陽星を守護してますが、実際はこのドラゴンファンタジーの皇帝神なのです。

この時代では僕達も皇子でしたが、あくまでそれは現在の転生後の話です。

大事なのは前世からの繋がりであり役目、その時僕達は戦士で、彼女は王なのだから、比べる事は根本的に間違いです!そして現世(イマ)でも変わることはないのです」


「ご、ゴメン……(そういうものなんだ?)」


スカイの迫力に半ば引きながら納得しきれないまま頷いてみせたのは、やはり、ただ単にスカイを怒らせたくないからだった。つまり、謝ったのも勢いに飲まれただけ


「(よく分からないケド)分かった(……よーな?)」


適当な返事をしながら、しどろもどろに告げる


「皆がそのお姫様を大事にしたいのは良く解った(ソレだけだったけど)!

でもさぁ、そこまで『分からない』の三拍子じゃ、もしかしてお姫様の事なんて一生分からないんじゃないの?……見守る者(だっけ?)がドコにいるかだって分からないんでしょ?そんなんで大丈夫なの?」


言いながら星竜は本気で心配になってくる。説教などするつもりは毛頭無かったのに、彼らがあまりにも真剣に考えて取り組んでいる事を充分理解できたからこそ、余計不安である


「痛いトコロを突きますね……」


セルフが横で、星竜の言葉に苦笑いしていた


「だってそうでしょ?」


いっそ清々しい星竜の態度に、アクアが呆れながら肩を竦めた


「お前さぁ、気にしてんだからもう少し柔らかく聞いてやれよ」


自分も立場的に同じだからなのか、とても複雑そうに非難する


「ホントの事じゃない」


「……」


またケンカになりそうなのを見て取ったスカイは慌てて口を開く


「でっ、でも遠からずあちらから来る可能性もあります!」

 

「? どういうこと?」


星竜は訝し気に顔をしかめ、スカイに向き直る。そんな彼女の疑問に答えるように説明を捕捉してくれた


「プリンセスには必ず覚醒が行なわれます。とても強大な力を持つ為に何度も力の目醒めがあるのです」


「(分割払い(ローン)?!)強大って……アナタ達みたいな能力が?」


ツッコミは心の中だけに留めておく


「ええ。プリンセスは僕達ガーディアンの持つ全ての能力を扱う事が可能らしいです。凄いですね。それだけではないと思いますが……」


「へー‥‥」


これは素直に感嘆を漏らす


「初代の力を上回るんだし、慎重に準備されているからね」


「ああ(そう言えば、そんな話もしてたっけ……)それも儀式とかの為?」


「このドラゴンファンタジーの為です」


質問にスカイはニッコリしながら即答する


……が


(何かそれって……)


星竜はだんだん違和感を覚え始めた。眉が潜まっていく彼女の変化には誰も気付いてない



「初代で実現出来なかったからじゃなくて……この100代目の『為』に準備が進められて、歴史が作られているみたい……予言とかされちゃってるし」


これは質問と言うより確認に近い呟き


「? それだけ大掛かりなんですよ?」


(認めるの?)


星竜の言葉を肯定するような返答。星竜の雰囲気を察したのか、否か……やや戸惑いながら話は続けられた


「先程も話した通り、100代目プリンセスは特別です。ドラゴンファンタジーの存続は彼女に懸かっており、だからこそ慎重にもなるのでしょう。

初代で擬似時代(シュミレーション)を行なって、100代目にどの様な影響が及び起こり得るのかを確かめたそうです」


「!」


そこで星竜は弾けた様に顔を上げる。しかし、彼女の変化を察する事ができたのは一部だけ


……もう遅い


「儀式に必要な事、その条件、あらゆる面でこの実験的初代の歩んだ歴史は役に立ったらしいぜ♪」


アクアの得意気な一言、これが決め手だった


「ソレって……」


「ん?」


「シ…竜?……」


ここで初めて星竜の変化を感じ取る。震える肩、握られた拳、そして……怒っているのか、怯えているのか……そんな不安定な表情


「おい?なんだよ、お前……」


アクアが戸惑って、触れ様として伸ばした手


「触らないでッ!!」


それを乱暴に振り払い、拒絶を顕にした星竜は明らかに先程とは違う雰囲気を纏っている。まるで泣きそうな……そんな顔


だから誰も何も言えないまま、ただ茫然としてしまう



「ねぇ、おかしくない?……おかしいよね?」


口を開き始めた星竜だが、的を得ない内容に聴き手に回るしかない


アクアさえ動揺しておとなしい


「何がだよ?」


「何がじゃないでしょ?

……このドラゴンファンタジーの為だけにどれほどの犠牲者が出てるのか気付いてないの?」


「‥‥‥」


皆の表情に僅かな動揺


「神様や100代目のお姫様がどんなに凄いか知らないけど、変よ。

初代の人たちが何でアナタ達と同じ力を持って、ソレが継がれたのかがようやく解った……」


俯く星竜の表情に影が射す


「彼らは、プリンセスを含めたただの練習台……試作品ッ!そして、私達でさえ神の掌で転がされている駒!!

もう、いい加減にしてッ!作ったとか、準備してたとか……おかしい!!皆、生きてたんでしょ?!人間を何だと思ってるのっ?じゃあ初代の人たちは何の為に生まれてきたワケ?!100代目のモルモットなんて酷過ぎるわ!

存在理由は他人に決めてもらうんじゃないッ、自分で決めるものよ!!」


すっかりヒステリックになってしまった星竜を抑える事も出来ず、目を見開く皆の前で彼女は涙を浮かべていた


「!」


女の子の涙、流石にコレにはどんな無頓着でも、男達全員が反応した


「し… 」


一歩、踏み出し掛けたソレ


「来ないで!!」


近づけば、全身で拒絶されて、金縛りのように動けない。星竜の露になった不信感は消すことが不可能だと、その瞳が語っていた



「来ないでよ、アナタ達はやっぱり変。

……皆、変。馬鹿げてる」


全員を嫌悪してズルズル後退る姿に、声を掛ける事も困難な状況なのは誰の目にも明らかで


「私、やっぱりヤダ……協力できない」


左右に首を振りながら繰り返す台詞


視点が合ってない。パニックが極限状態まで達してしまったのだろう


それでも、淡々と語っていく


「どんなに大切なのか凄いのか、理解できない……だって初代の人達だって人なのに!!……存在してたのに……何で、そんな道具みたいに?それで一生を終わらせているなんて、そんなの…ッ」


そこで言葉を区切り、俯いた。ムキになって訴えている事に虚しさを覚え始めてきた


頭の中が真っ白だ


だから


「出てく……」


極端な結論に達する


おもむろに、力無く呟いてから踵を返す星竜に、アクアが我に返って「待てよ」とその腕を取った


しかし、その手はまたしても振り払われ、逆にキッと睨み付けられた。今迄で一番冷たい嫌悪の眼差しに、その態度というより視線に反応して狼狽えるアクア


星竜は構わず言い放つ


「悪いけどッ、私から言わせてもらえばアナタ達の方が悪人より何倍も質が悪いのよ!!ドラゴニアと言う奴がどれ程の悪人か知らないけど、アナタ達だってやってる事なんて同じじゃない!」


「なっ… 」


言葉を発する隙さえ与えない勢いだ


「むしろ、ずっと最悪よ!犠牲者があるのを知ってて貫き通すのが正義と掲げるなら、ソレは罪……

アナタ達の方が罰せられるべきなのよッ!!」


「ッ……なんだとっ?!」


これには黙って臆していたアクアも、並べられた言動に激怒したが、星竜自身は向けられた怒りにすら反応しない。躊躇う様子も見せずに真っ直ぐ皆を見据えた


もう止まらない


「こんな犠牲の中でしか生まれず、成り立たない世界……ソレは本当に必要なの?」


「な、に……?」


神妙な表情で話を聞いた。やけに耳に響く星竜の声


「だってそうじゃない。何の為の繁栄?何の為の世界?どこかで不幸になる者を踏み台にして生きる幸せ……どこが幸せなワケ?

そんなのいらない」


「え……」


淡々と語る目から再び一筋の雫が落ちる



……と、次の瞬間


その瞳に力が宿った



「!?」



「そう!いらないのっ!!」


真っ直ぐ向けられた言葉に迷いも躊躇いもない


辛辣に告げた言葉は鳴り止まない






「こんな世界ッ……無くなってしまえばいいわ!!」







「ッ」


皆の目が見開かれ、硬直する。反論の隙すらない


星竜自身もなぜ涙が出るのか分からない。ただ歪む視界の中、彼らが戸惑っている事だけは判って、唇を噛む


そして、彼らも星竜の声よりその涙に当てられている




なぜ彼女が泣いたのか?





――痛い台詞を吐いた事に?


――不幸と知らずに存在した過去人への同情?


――それらを踏み台に立つ自分の存在に嫌悪を感じて?





いずれにしろ『何か』を諭されていた



星竜がフレイムを押し退けて扉に手を掛けても、今度は誰も止めなかった


否、できなかった


皆から背を向けた細い肩とドアノブに伸ばされた手が端から見ても震えているのが見て取れて……


ソレは絶対なる拒絶


星竜は、すっかり暗くなった空や視界を無視して、素足のまま今度こそ躊躇う事も無く、外に飛び出して行った



 

「‥‥‥」


暫く誰も口を開けないまま


しかし、我に返れば現実に引き戻されたスカイが騒ぎ出した


「何を悠長に構えているんです?!早く追いかけて下さいっ!!

夜ですよ!?あの様な軽装で森に単身……襲われたら一溜まりもありません!彼女は森の恐ろしさを知らなければ、こちらの常識も知らないのですよッ」


正論。それに水を差したのは意外にも普段から何事にも無関心なフレイムだった


「今、追い駆けたとしても素直には戻らないだろう」


ぶっきら棒な物言いはともかく


「君は‥‥‥。珍しく口を開いたかと思えば……どうせだったら同意の声が聞きたかったね」


セルフが肩を竦め、呆れ果てた表情でフレイムを嗜める



「だから!何故そんなに冷静なのですか?!間に合いませんよッ?」


焦りはピークに達したのだろう。キレたスカイはかなり怖い


「待てよ、スカイ!

アイツが言ってたコト、忘れたわけじゃないだろ?!」


ここへきて、アクアが怒鳴って制す。が、スカイも怒鳴り返していた


「だから何ですかッ?それとこれとは話は別でしょう?僕は行きます!」


こんな彼は滅多に見ない姿だ。迷う仕草もなく、ドアノブに手を掛けて出て行こうとするのをアクアが慌てて会話を付け足し、止めようとする


「ちょっ……だってアイツオレ達のコト… っ」


狼狽えながらもスカイの行動に納得がいかないと反発を重ねる


スカイは目を細めゆっくり振り返ると、徐ろに告げた


「……彼女に言われた事に腹が立ちましたか?」


打って変わって冷ややかな様子で質問してきたスカイに、直ぐに答えは返せなかった


それに質問した方も答えを待たずに話を続ける


「分かりますよ。僕も当事者ですし……けれど、彼女の言った事は果たして間違っていたでしょうか?全て正論だから僕達は何も言い返せなかったのではありませんか?」


静かに諭されるとアクアは下唇を噛む


「……ッでも!なら全てを鵜呑みにして反省しろって言うのかよ?!アイツ、なんて言ったと思うっ?ドラゴニアより質の悪い罪人だって罵った上に、ドラゴンファンタジーなんて無くなれば良いって……ッ」


「本心じゃないかもしれない。彼女も引くに引けなかったんじゃないの?」


セルフが困ったように口添えした。既に勝敗の決まった一方的な喧嘩(?)に早く収拾を着けたかったからだが、それがアクアには星竜の味方が増えただけの様で面白くない。益々駄々っ子に拍車を掛ける


「お前ら、お人好しにも程があるんだよ!!」


「なら、見捨てますか?」


「ッ」


すかさず返されたスカイの一言に、場が凍り付く


「今、追い掛けなければ彼女は確実に明日を待つ事なく死にます。意地を張り続けて、それで納得するのなら好きになさい。ただ……アクア、それで後悔するのは誰ですか?」


「……っ」


畳み掛ける様に諭すスカイの声に反応するアクアは俯き、握った拳を震わせている。でも黙って話を聞く姿勢なのは見て取れた


否、反論できないだけ?


「彼女はこの世界(ドラゴンファンタジー)の人間ではありませんし、余程愛され大切に育てられたのでしょう。人の命の重さを良く理解しています。

素晴らしい事ですね。他人の命に対して、あれ程本気で怒れるのですから、誰にでも出来る事ではありません」


「‥‥‥」


「アクア、そんな穏やかな生活を、突然第三者の理不尽な理由で奪われたとしたら、更に右も左も判らない世界に巻き込まれたりしたら、貴方ならどうしますか?」


「‥‥‥」


スカイは続ける


「普通なら混乱し、納得出来ないでしょう。

……しかし彼女はそんな状況にも受け止めようと努力してくれました。とても頭が良いし、切り替えも早く、何が一番適切なのかを把握する冷静な判断力を持っています。

それを踏まえた上で、彼女は僕達を非難できたんですよ?不安の中で見知らぬ者を諭せるほどの勇気が貴方にはありますか?」


「‥‥‥」


無言が答えを示していた


「だからこそ他人の痛みを理解し、思いやりの強い彼女が分からないはずありません。僕達の気持ちと、あのセリフの重さを……恐らく自己嫌悪で後悔しているでしょうね」


考え過ぎだと否定出来ない自分が悔しいアクアは、益々俯いた。

自分自身も今、星竜は後悔して苦しんでいるかもしれないと、心の奥で思っていたから。認めたくないだけで結局分かっているのかもしれない


「例え真実であったとしても、僕達を傷付けてしまった事実は消えません。それが彼女を苦しめるのです……可哀想でしょう?彼女が。

アクア、僕達は早く彼女に会って許されなくてはならないのです」


僅かにスカイの頬が緩んでいる。アクアは渋々顔を上げ、分が悪そうにボソッと呟く


「言ってる事は解った……けどさ、どうすんの?アイツ、オレたちには協力しないって断言してったじゃん?」


やっと諦めたとはいえ「問題は山積みだ」と指摘した


コレは最後のベタな反抗、スカイも分かっている。ニコリと微笑み、間を置く事なくオウム返しに言った


「それでも追い掛けない理由にはなりませんよね?」


有無を言わせなかった。所詮、スカイ相手に勝てるワケがない


「アクア、貴方も心配なのでしょう?素直になった方がむしろ、潔ぎ良いです。行きなさい、僕が留守番します」


「なっ」


勝手な事を並べられ、ツッコミ所満載だったが、その隙すら与えられる事もなく、否……図星か?


アクアは狼狽して顔を真っ赤にし口をパクパクさせるが、スカイは構わず加えていく


「先程は取り乱し、怒鳴り吐けてしまい、すみませんでした。かなり動揺してました」


深々と頭を下げるスカイ。誰に対しても礼儀を崩さないのは知っていたが、今回は前触れもなく謝られ、アクアは更に慌てふためく


「やっ……あの、ちょっ、スカイッ」


バツが悪そうに困り果てた顔でオロオロしてしまう


が!


「では、理解して戴けた所で早く行きなさい。アクア」


次に顔を上げたスカイは、にべもなくアクアを睨んだ


(えっ?!今のさっきでこの切り替えし?)


アクアの心情に、ジッと成り行きを見守っていたセルフもやや同情を含んだ苦笑い


(気持ちは解らないでも無いけどね)


「アクアが行ってくれるのなら、僕はここで彼女を待ちます。戻って来るかもしれませんし……既にターンとフレイムが行きました。アクアはセルフとお願いしますね」


丁寧な言い回しだが、完全な命令は逆らう隙がない


アクアは暫し考え、徐ろにわざとらしい大げさな溜め息を吐くと「しゃーねぇなぁ」と開き直った


「行ってくるよ!行けばいーんだろ?!ほら、セルフ!ちんたらしてんなよな、置いてくぞ!」


アクアは息巻いてセルフを怒鳴りながら外に飛び出して行く。切り替えはむしろ清々しい程だ


そんなアクアの背を見送った二人。僅かに呆れつつセルフを振り返る


「困った子達ですね」


自然と苦笑が漏れていた


「単純もあそこまでくれば扱い易いよ。騎士(ナイト)が女の子で戸惑ってしまったんだろうね。免疫無さそうだし慣れてないから」


肩を竦めて応えるセルフに深い溜め息で返す。これから先の事を思うと悩みは否めない


「暫くはハラハラさせられそうです。

……それでは、セルフ。必ず連れ帰って来て下さい。獣は鼻が利きます、この時期は余計ですので」


でも、今やるべき事は一つだけ。信頼ある彼に、星竜と(ついでに)アクアを託す


「行ってきます」


セルフも、真剣なスカイの眼差しを受けて小さく頷き、アクアを追って出て行った


スカイは軽く手を挙げて見送り、扉を閉めて不意に眉を潜め哀愁を浮かべる


「……これからどうなっていくのでしょうか」


独り言を漏らし天井を見上げながら、涙を流した少女を想い、もう一度溜め息を吐いた






問題は解決案を見ないまま増え

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