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前兆

『無駄な事だ、総ては犠牲に於いて何かは得られる』





冷ややかな笑みは恐怖、それとも……―――?


  ビクンッ



「?!……あ…ユ、メ……え?」


目を覚ましても、夢か現実かハッキリしない違和感に、暫く天井を見詰めベッドに寝たまま視線だけを動かした


カーテンの向こう側で暗い部屋をランダムな光が差し込んでくる。雷と雨の音がやけに耳障りだった


「暑い……」


エアコンが止まっていて部屋が蒸し暑くなっていた


喉の渇きに、体をノロノロと起こし、スリッパを履きながら立ち上がって、窓の方を見つめる


「まだ止まないんだ、雷……」


近いのか遠いのか、音が響き渡って、胸に下げた赤紫色の鉱石のペンダントが光に反射していた



ピッ


リモコンで部屋の電気のスイッチを押したが暗いままで反応しない


(?……停電?そういえばエアコンも止まってたっけ)


それでも、皮肉な事に雷の明かりで足元は充分確認出来たし、歩くにも支障はなかった


備え付けられている冷蔵庫からミネラルウォーターを手に取り、口元に運ぶ


冷蔵庫も被害に遭っていたが、まだ冷たく喉元を潤す水が心地良い


しかし……


ゾクッ


寒気がした。どうやら寝汗を掻いてしまったらしく、それで体が冷え始めたらしい。水分を摂った事で尚更だ


(うわ、風邪ひく。夏だってのに……やっぱ夢のせいかなぁ、覚えてないけどさ)


すぐベッドに戻りたかったが、汗で体がベタベタしているのも事実


部屋のシャワールームを一瞥したが


(シャワーじゃ、また冷えちゃいそうだし仕方ない、面倒だけど浴場まで行くかぁ)


二階の浴場室は、常時お湯が張ってある


温まった方が懸命と判断して着替えを用意し、部屋を後にした


「ありゃ、ここも電気やられたの?真っ暗」


四階建ての吹き抜けの広い廊下も、言葉通り暗くて常時点けられている明かりも無い


星竜はゲンナリしながら壁寄りに歩く事にする


慣れているとはいえ、なまじ必要以上に広いと足元が覚束ない


「だからイヤなのよ、この家」


星竜は世界的な財閥・龍宮家の娘で、もちろん暮らし振りも群を抜く


20はくだらない部屋数を保持する大豪邸で、膨大な広さを誇る屋敷内は屋内・外どちらにしても明かりは無くてはならなかった


「この暗さじゃ自分家でも流石に怖いわ」


誰も見てないのに、やや腰が引けている言い訳をしながら歩いていたが、ふと顔を上げて目を瞠る


「およ?」


隣の修の部屋(これがまたドアとの間隔が遠いこと)のドアが僅かに開いていて、一定の明かりが漏れてきていた


雷の光ならば消えたり光ったりとランダムな明かりを持つはずなのだが?


「?」


おかしく思って部屋を覗いてみる


「あ!」


思わず声を上げて、星竜は中に入っていた



ザ-…


テレビ画面が点いたまま砂嵐を映し出している


先程まで修が夢中になっていた付属品


「アイツーッ、あれだけ忠告したのに結局やりっぱじゃん!起こしてやる!!」


元々イライラな処に、怒りは爆発。そのまま奥の寝室があるドアへ向かう



しかし、星竜は気が付いていなかった


疑問に思うべき事を……



今ハ、雷ノセイデ停電シテ電気ハ使エテナイ事……


 

「なんだよ!寝たんじゃなかったのかよ!?普段は一度寝たら殴っても起きないくせに寝起きは良いったら……」


起こされて不機嫌な様子で非難がましい視線を送る修に、星竜は構わずその手を引いた


そして目的の物の前まで来てビシッと指を差したそれは砂嵐をチラチラさせているテレビがあった


「『何だよ』はコッチの台詞よ!危ないから消してって約束したのに!」


怒鳴る星竜の掴む手に力が込められ痛みで僅かに顔をしかめたが、叩き起こされた理由を知って……でもその表情は納得でもバツが悪そうでもなく、ただ驚愕を映していた


「信じられない…」そんな顔


星竜から解放され、画面を呆然と見つめている


「何で……?」


「何でって何?何で聞くの?消し忘れたんでしょ!?まだ雷鳴ってるのに、まったく!」


星竜はブツブツ言いながらテレビリモコンを探すが、見付からないのか、キョロキョロしている。

早く風呂に入って温まりたい気持ちが急いているようだ


修はまだ部屋の真ん中で立ち尽くしたまま、おもむろに騒ぎだす


「おかしいって!オレ、ちゃんと消して……コンセントだってッ……!?っ」


急に言葉に詰まる修。

ソレには気付かず机の下を覗いている星竜


「(リモコン無いなぁ)現に点いてるんだし認めなよ」


結局リモコンが見つからなかったらしく、テレビ本体の主電源に手を伸ばす


「リモコンどうしたの?探しといてよね(いい加減なんだから)!」


修はそんな星竜の説教も上の空で……いや、耳にすら入って無い様子で凍りついていた


視線はテレビのコンセントの先……


修の中で血の気が引いてく。

自分は確かにコンセントを抜いたはずだ、間違いない。だから、当初は星竜の悪戯とも考えていた。実際テレビは点いているのだからそう考えるのが普通だった


しかし……?


(コンセント、入って…ない……)


入っているはずの物が放ってあった。昨夜、修が行なった時そのままに


電気は通ってなかったのだ


全身鳥肌が立って顔を引き攣らせた


その時




「キャアアァッ!!」





「! 姉貴?!…って……」


星竜の悲鳴で我に返れば、信じられない光景に目を疑った


「うそ……だ、ろ?」


顔面蒼白で凍り付く修の視線の先




テレビ画面が、星竜の両手首を飲み込んでいたのだ


「イヤァァァッ!!何これ!?ヤァァッ!修ッ、助けて!!修!」


パニックして、必死に藻掻き抗いながら助けを求める叫び声


修も現実になりふり理解するより先に、体が動いた


星竜の腰に手を回し、引き戻そうと力を込めるが、その強力な力の前では抵抗も虚しく……


「…――ッ!!」


星竜は言葉にならない声を上げ、体は完全に画面に飲み込まれてしまった


ダンッ


その反動で修は跳ね飛ばされ、壁に叩きつけられる



「ぅ痛ッ……あ、アネ…アネキ、姉貴ッ!!」


それでも痛みを堪えて体を起こし、直ぐさま星竜が消えたテレビへ駆け寄った


すでに電源は切れ、沈黙している


「姉貴ッ、姉貴?!何だよコレッッ!何ナンダヨ!!

アネキィ!どんな手品だよっ!答えろって!姉貴ってば!!」


興奮して、バンバンと容赦なくテレビを叩いて怒鳴り散らす




だから背後から近づく気配に気付かなかったのだ


忍び寄るその手に……


不意に肩に手が置かれ、驚いて振り返ると、そこには心配そうな表情を覗かせた両親が何事かと立っていた


警戒していたせいか、反応が過敏になっていた分、正体を認めると一気に脱力してその場にしゃがみ込んでしまう


母・鈴音(スズネ)が修に目線を合わせる様にして膝を折り、小首を傾げた。

怯えるように冷や汗を浮かべている修の頬を、包み込む


「修、真っ青よ?この騒ぎ、何があったの?それに肩から血が出ているわ、怪我しているの?」


眉を潜める鈴音


指摘通りパジャマの下から血が滲んでいる。おそらく先程の衝撃で痛めたのだろう


自覚するまで(それどころじゃなかったし)気が付かなかった。

指摘され、今更痛みを自覚したが、それを「平気」だと告げ「そんなことより」と鈴音の肩を取った


「あねき、姉貴がっ… 」


混乱も手伝ってうまくまとまらず、いざ説明するにも躊躇われるのは当然だった


次の言葉が出てこない


自分だって未だ半信半疑の出来事を、見ていなかった彼らに一体どう説明したら信じてもらえるか……最悪、精神を疑われかねない


何から話して良いのか判らないまま口を接ぐんで俯いてしまった息子に、父・進夢(ススム)が鈴音に並んで膝を付く


「星竜がいなくなったのか?」


なぜ状況を知らないこの両親がそれを察したのか疑問に思う事も、その時は考えられなかった


只、問われた事に黙って頷くだけが精一杯。

簡単に『消えた』で済まされない異常な現実を目の当たりにし、当然と言えば当然だ


まだ緊張に表情が強張ったまま暫く沈黙が続いたが、間もなく修も持ち前の冷静さを取り戻してきた


顔を上げ、二人を見据える


「何でいなくなったって分かったの?理由を聞かないの?」


修は戸惑いながら次々に湧いてきた疑問を投げ掛ける


両親は困ったように立ち上がり、複雑な笑顔を向けただけで答えない


修もゆっくり立ち上がり、両親に答える気が無い事を悟ると、質問を変える


「どうしてこんな夜中に二人一緒に起きてきたの?」


この家は全室がそれぞれ防音の利いた造りになっている。

修たちの騒ぎを聞いて駆け着けたにしては、おかしな話だ。別の理由を問いた


不思議なほど冷静な修。

これが彼の本質、むしろ本性。星竜には無い一面を、この少年は隠し持っている


育った環境というよりは、ある人物の影響が大きい


息子の質問に、両親は当惑しながら表情を曇らせる。一度、顔を見合わせ、向き直る


「実はね、電話で起こされたの」


「電話?」


修は訝しげに眉を潜め、室内電話を振り返る。外線も全室に繋がっているソレは、鳴った覚えがない


何より時間的に非常識な時刻である


「誰から?」


修の疑問を察して、鈴音が自分の携帯をガウンから取り出し「お隣の…」と続けた


「冥時兄?」


心当たりのある馴染みの名を挙げると、進夢が「違う」と否定し、鈴音が答える


「その姉の春生ちゃんからよ。

最初は直接、星竜に掛けたらしいけど繋がらないからって、私に掛けたのね。

それで私たちで星竜の部屋を見に行ってみたんだけど、姿が無いからアナタの部屋に来て、この騒ぎよ」


おそらく星竜が部屋を出てすぐの話だったのだろう


修は更に眉を潜めた


姉と同級生の幼馴染み『闇河夢(ヤミガユメ) 冥時(メイジ)』は隣人でもあり、二人にとっても家族以上の存在と言っても過言じゃない


その彼でなく、7つ年上の『春生(ハルキ)』からの連絡など滅多に無い事だ


(それも姉貴経由で?)


嫌な予感がする


「それで?この時間に春姉は何て?」


修の疑問に、二人は一呼吸置いてから、躊躇いがちに言った


「冥時くんもいなくなっていたらしいの。昨夜から、ずっと……」


「!」


修の目が見開かれた



雷が遠くに聞こえる


不意に電気が復活し部屋を照らして、暗闇に慣れていた目を眩ますが、今の衝撃に比べれば大した事では無かった


「あの冥時兄が?……いなくなった?」


胸が高鳴り、握る拳に汗が滲む


(姉貴)


そして気掛かりなのは、やはり異常な消え方をした姉の安否


(冥時兄までいなくなるなんて、おかしくないか?

姉貴……今、何処にいるんだよ。生きてるんだよな?‥……どうしてこんな時にいないのさッ!?冥時兄!!)


誰よりも頼りにしている人


今はいない


突然、今になって襲ってきたプレッシャー


彼の存在感は修の中でそれ程に大きい


それが益々不安を増大させ憤りを生み出すのであった



(オレ、何もできないよ!)

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