プロローグ
これからなあなあと続きます
《act:0》
銀髪の女は、目の前の光景を信じられない気持ちで見つめていた
見慣れた背中。赤い髪を長く流した後ろ姿を見間違える筈がない。むしろ、見間違いであってほしいとさえ願ってしまう
確認する事を心根で拒否していたのか、足が自然と止まっていた
「何を……しているのよ、セフィラス」
震えた声を掛けると、セフィラスはゆっくりと振り向いて美しい微笑みを浮かべた
左手には『何か』を握りしめてる
「あら、元気?今は……ルアと名乗っているんだったかしら?」
「ッ」
まるで今の空気を無視した、日常の穏やかな挨拶。彼女の言い回しに、ルアと呼ばれた女は動揺を隠せず、髪と同じ彩の瞳を揺らして、一瞬だけ言葉を詰まらせてしまう。それでも唇を噛み締めてから声を振り絞る
「アンタっ、何をしているのかって聞いているのよッ!この宝物庫はユニサス導士の管理下にあるわ。それを勝手に持ち出したりして、只じゃ済まないわよ!?」
ルアはセフィラスの握る物の正体を知っている様子
だが怒鳴られた相手は、動じた風もなく左手のソレに軽いキスをして口を開く
「彼は現在眠りに入っていて目醒めないわ。後の召喚で、戦う能力すら失ってしまうでしょう……それだけに、今から準備が進められている。
『特別な存在』の為に、可哀想な『彼女』の為に、ネ……だからね、ルア?」
ふと、セフィラスは視線をルアへと向けて問いかける。その声を黙って聞きながら眉を潜めた
「‥‥?」
「こんな世界、いらないのよ」
「‥‥‥は?」
セフィラスの声は聞こえていたが、一瞬何を言われたのかを理解できずに反応が鈍る
でも一方的な会話は続いた
「私が歴史も伝説も変えてあげる。『可哀想な彼女』を助けるの」
「……っ、セフィラス!?」
力無く嘲笑いながら左耳に触れるセフィラスに、ルアは血相を変えて彼女の元へ再び駆け出して手を伸ばしたが、すかさず乱暴に振り払われた
目を見張って動きを止め、振り払われた右手を見つめながら戸惑うルアに、セフィラスは目を細めて告げる
「永きに渡り、私たちはずっと一緒だったわね。お互い親を知らず、だからこそ誰よりも一緒にいた……」
「そうよ!ずっと一緒に育って学んできたはずじゃない!だからこそ信じていたわ!?
アンタだから、アタシは追い付こうと必死で競い合って……」
「____……そして貴方が選ばれた」
「!」
セフィラスの言葉に目の前が真っ暗になった。貧血状態の様に足が縺れそうになって、サーと血の気が引いていくのが分かった
何とか立っている体勢を保っていると、そんな彼女に同情を含んだ苦笑を浮かべて頬へ触れてくるセフィラス
ビクッ
ルアの肩が脅えるように撥ね上がり、その反応に益々苦笑した
「誤解しないでね。私はその事に関しては何も感じてはいないの。予想していた結果だったもの。
導士は気付いていらしたのよ、私の野心、企みを。
だから貴方は私に気を遣うことも、罪悪を感じることもないの。
………でも…___サヨナラね」
セフィラスは美しく微笑む
ルアは泣きたくなる気持ちを抑え込み、眼前の彼女を睨み付けた
「何がしたいわけ!?動機は何!?あれだけ優秀なアンタがソレ以上の『力』を手に入れてどうするの!?」
「動機?……ふふ、いずれ教えてあげるわ。いいえ、むしろ気付かなくてはならないのよ。解らなくちゃ許さないわ。
計画は開始したの……この『力』と、そしていずれ訪れる未来。駒は自然と集まりつつある」
そう呟くセフィラスの、冷たい笑顔と左耳に妖しいほどの輝きを放つピアス
「アンタ、まさか……」
ルアの目が見開かれ、血の気は更に引いていく
そんな彼女を尻目に、静かにセフィラスは呟いた
「まずは龍を手にいれる」
「ッ……馬鹿げてる!できっこないわ!!」
即座に非難したが、セフィラスは鼻で笑って受け流しただけ
「そうかしら?『何事もやってみないと分からない』そう言っていたのは貴方じゃない。どんな時でも真っ直ぐで好きだったのよ?そんな貴方は『ルア』に成り遂げた。
……だから私も何者かになれると思うの。貴方が、いずれ育てる子達……彼等の運命も私が変えられる事が出来るのではないか、そう考えたの。
……導士がよく言っていたわね。
『運命に身を委ねよ……運命に抗うことは罪』
本当にそうなの?」
そう呟くセフィラスは、酷く哀し気で言葉に出来ない
「ルア、よく考えて頂戴……そして答えを教えて。
でも、次に会うときは親友ではなく、敵でしょうけど。
……さようなら、親友であった私の心」
ハッ
我に返り、離れ掛けたセフィラスの手を掴もうとしたが一歩の所で届かず、セフィラスの体が浮く
「待ってッ、セフィラス!ッ……セフィラスーッ!!」
何度も彼女を呼んだが、応えはないままに目の前で消えた彼女
引き留めきれなかった親友を、残されたルアはただ茫然とその場に崩れ、両手を付いた
震える肩は、怒りと悔しさと
……そして…____
「どうしてッ」
やるせない気持ちは受け止める場所すら失った
最後の彼女の表情だけを記憶して
《act:1》
突然現れた彼女の言っている事が真実なのであれば、今まで夢で見続けていた事も、また然り……
『アレ』も起こり得るという事だ
全てが過去と未来の出来事なのか?
なら、幼い日の記憶にある幼馴染みに起きた不可解な現象……夢だと信じていたが、『アレ』も実際に起きた事であの子はそれに巻き込まれている
思えばソレからだったな。妙にリアルな夢を見始めたのは……
それなら自分はやるべき事をしよう
……例えそれが間違った選択であろうとも
それで『あの子』を泣かせてしまう結果になったとしても……
‥‥…―――どうでもいい事
「協力するよ」
俺は、一つの決断をする。彼女の手を取りながら自然と笑みが漏れていた
スリルなゲームに向かい合った感覚に似ている
そう、これはGAMEだ
……『あの子』との
その方がずっと楽しいし
「思い通りにはいかないよ」
―――……シリュウ
《act:2》
《…龍を解き放ち…
ゴロ ゴロ …カッ
「うわ、また光った」
窓の外を眺めながら『龍宮 星竜』は空を見上げて眉を潜めた
窓を弾く暴風雨の勢いは増すばかり
「ドシャ降りだもんなぁ。雨、とっ」
ゲームに夢中になりながら、弟『龍宮 修』も相槌を打つが、外の様子どころか、顔を挙げる事すらしない彼に星竜は呆れながらに振り返り肩を竦める
「雷、すぐ近くだったよ。もうコンセント抜いた方が良いって」
《…目醒めさせなければ……
「ぅえー?なんで?」
非難の声をあげる修の質問に「危ないから」と即答した
「アンテナに落ちたときヤバいでしょ?パソコンゲームなんだからノートパソコンでやればいいのに。わざわざテレビ使って……コンセント抜いとかないと誘電するよ!セーブデータ飛んでも知らないから」
「それはマジ泣きする……(さっきやっと完成したのにな……)はいはい、分ぁーったよ。寝る!寝ますよ!
ツーか、何でオレの部屋に入り浸ってンの?姉貴。やる事ないなら寝ればいいじゃん」
もっともな疑問
星竜は夕食後、ヒマと称して何をするでもなく修の部屋を訪れていた
自作ゲームを制作するのが趣味の修とは逆に、星竜は現実思考。
毎日のように来てはパソコンに向う修に話をして戻る、が最近の日課になりつつあった
別に修もそれは嫌ではなかったのだが、ふと気になったのだろう
しかし、聞かれたく無かったのだろうか?ギクリと顔を引き吊らせる
「…… 最近夢見悪くて、すぐ寝たくなかったから」
気まずそうに苦笑いを浮かべると修が顔を上げた
「怖い夢?」
心配しての質問というよりは好奇心に近い
「分からない」
これは本当
気付いたら夢の内容はほとんど忘れているが、残る余韻は気持ちの良いものではないし、むしろ忘れている事が幸いだと感じていた
それを説明するには複雑で、その答えがやっと
《…滅んでしまう……
「何ソレ?」
流石の弟も、この答えには顔を歪めた
「説明できないの!
寝るッおやすみ!雷落ちたら嫌だから絶対忘れないでよッ元栓!!」
修の疑問に答えるのが面倒になったのか、逃げる様に部屋を出て行った
最後にキッチリ釘を指すのは忘れずに
修も深く追及する気は無いのか、素直に引き下がり「おやすみ」と再び画面の方へ注意を戻した
《……助けて…
「ん?」
星竜がドアを閉めたと同時に修はふいに顔を上げ、僅かに振り返り、小首を傾げる
《……ドラゴンファンタジーを
「今、声がしたような…?」
でも、この広過ぎる子供部屋にいるのは、主人の自分ただ一人だけ
《救って…――
「姉貴、何か言ったのかな?……?ま、いいか!
オレも寝よっと♪」
気のせいだろうと結論を出し、片付けを始める事にする
《待っています……ドラゴンナイト…》