八雲レンは合理主義者である
「人は何故、セックスをするのだろうか……?」
八雲レンは問うた。八雲レンにとって『それが生物としての本能だから』などという答えでは納得できない。八雲レンにとって、それは思考停止以外の何物でもない。
生物としての本能ということであったら、人は単なる快楽の追求としてのセックスをするということを説明できないし、世には様々なフェティシズムが存在することも説明できない。
「人がセックスをする合理的理由など存在しない……」
八雲レンにとって、合理が全てである。自分が存在することも、世界が存在することも、もちろん今目の前に真っ裸の美少女がいることも合理的な説明ができるはずだと思っている。
「そんなの、キモチイイからするんでしょ? それ以外に理由なんて必要?」
真っ裸の美少女は蠱惑的な笑みを浮かべながら言う。そして、レンの首に両手を回す。レンは柔らかい胸の感触と甘く熱い吐息を感じる。
「……理由なんて必要か否かと問われれば、それは当然、必要と言える。そもそも君とボクは未成年だ。責任能力の有無に関して完全ではない。性行為は当人同士の合意でのみ成立するとは言え、成人と同様の責任能力を持ち合わせないボクたちが性行為に及んでいいのかは甚だ疑問だ。それに――」
「はあ……。八雲くんっていっつもそんなんだよね。そんなんで生きてて楽しいの?」
レンの言葉をさえぎって、真っ裸の美少女が心底呆れたと言わんばかりの表情を見せる。
「楽しい。君にとっての『楽しい』がボクにとっての『楽しい』とは違うだけ」
レンは全く表情を動かさずに、スラリと言葉を並べる。
「はいはい。もういい。噂には聞いていたけど、そこまでの朴念仁だとは思わなかった」
美少女は大きくため息を吐くと、近くの脱ぎ捨てた服を着はじめる。
そして、服を着ると、もう一度大きくため息を吐く。
「レンくん、一つだけ言わせて? もう少し、人の気持ちってものを考たら?」
美少女はそう言うと、レンの部屋から出ていく。
「……人の気持ちなんていう、極めて不合理なものはどうでもいいよ」
ポツリと呟くレンの声は、誰もいなくなった部屋に虚しく響き渡った。