大阪分室 橘
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大阪分室。夜になり内閣府の幹部が約50名ほど、大会議室に集まり状況報告会が行われた。日中は多忙で各自が集まることもままならなかった。今は9時過ぎになる。
如月が会を仕切る。
「皆さんご苦労様です。まだまだ詳細については不明の部分が多いだろうが、現時点でわかったことを共有し、今後の対応を決めていきたいと思う」
これにまず先陣を切って橘が答える。
「それでは、まずは私から、内閣情報調査室の衛星画像を入手しました。ここまで時間がかかったのは調査室の権限移譲に時間を要したからです。先ほどようやく手に入れたものになります。とにかくご覧ください」
会議室の手前にある大型スクリーン上に衛星画像が映される。
画面は上空から東京丸の内周辺を捉えている。中央にあるのは皇居の森で、南北に流れるのは墨田川でその東側には荒川が見える。
「丸の内中心の動画になります。画面は概ね5kmの範囲になります」
次に地震が発生した模様がわかる。ビル群が揺れているのか微妙に動きがある。さらに一部から粉塵の様なもやが発生している。高速道路も同じように粉塵をあげて、同じくもやがかかる。この画面だけでも相当な震度であることがうかがえる。これだけなら通常の地震なのだろうが、次に画面中心部から爆発のようなものが見える。これはおそらくきのこ雲なのだろうか、煙幕状の雲のようなものが外側に拡大していく。さらにそこから爆風らしきものが周辺に伝播し、ビル群が一瞬にして倒壊していくのがわかる。それを見ていた如月がうめくように話す。
「ああ、これはなんだ。爆発したのか?」
「そのようです。震源地付近から爆発現象が起きています」
「じゃあ爆弾なのか?」
「画面を見てもミサイルとかそういったものの軌跡はなかったので、あの場所に元から何かがあったのかもしれません。もしくは地下から噴火が起こったのかもしれませんが、詳細は不明です」
さらに動画が続いていく。爆風が周辺のビル群を倒壊させた後に色々な箇所から散発的に爆発が起きている。これはガスや現場にあった可燃物が引火したことを表すようだ。ただ、爆風による被害が大きく、火災の前に建物はほぼ全壊していた。
「被害は23区内全域にわたっています。この爆発だとおそらくこの地域にいた人間の生存は絶望的だと思います。画面を見ても震災以降に動くものは確認されていません。衛星からのデータをもとに生体反応を調べましたが結果はゼロです。動物も含め現時点で生物は残っていません」
「・・・」如月に言葉は無い。
「今後は動画については衛星画像以外でも各方面から色々なデータが入手できると思います。しかし、現場付近の動画類は機器が残ってないので無理かと思います。すこし離れた個所からの画像になるものと思われます」
如月は考えを巡らすように話す。
「地震の原因を確かめる必要があるな。普通の直下型地震とは思えん。わかるやつを探してくれ」
「わかりました。気象庁の残党を捜索中ですが現在まで見つかっていません。地震の専門家を含め検討しています」
「地震なのかな、もう少し多角的に分析したほうがいいかもしれないな」
「そうですね。そう言った点も考慮して専門家を探してみます」
「とにかく急いでくれ。マスコミからの問い合わせも矢継ぎ早に来ている。早めになんらかのアナウンスをしないとならない」
「はい。急ぎます」
「生存者の確認はどうするんだ?」
これには防衛庁担当の課長が話す。
「はい、自衛隊に依頼しています。ただ、救難信号等は受信しておりませんので都心よりも近郊を中心に被害の大きい地域を優先して救助活動をしています」
「都心については地域をサンプリングして生存の可否を当たるしかないな。しかし人員はそこまで割けないだろうから、まずは救難依頼のある郊外の救援を中心に行うのが先だろうな」
「そうです。都心は絶望的ですが郊外は被災者が生存しています。救助はそちらを優先させています」
「そうだな。郊外の被害はどんな感じなんだ?」
「爆風の被害は東北から中部地方まで出ています。当然震源地から離れるほど被害は少なくなっていますが、それでもけが人は相当数出ている模様です。関東各地の震度ですが気象庁の被害が大きくてまだまとめきれていません。自治体単位で確認した限りは概ね震度6強を計測した模様です」
「そこまでの被害が出ているのか」
「自衛隊と警察の状況はどうなってる?」
「自衛隊は北関東防衛局が機能していますので、防衛庁の権限をある程度、そこに移譲する形で動いてもらっています。しかし警察のほうが問題が多くて、良くも悪くも警察庁主体だったようで地方は独自に動く傾向が強く指示するのが大変です。とにかく地元の救援活動については機能していますが、県を越えての救援や総合的な活動については難しいようです」
「縄張り意識の強い組織だからな。警視庁と言う組織の再編を優先しないとならないな」
「そうですね。早く組織化しないと厳しいです」
橘が話す。
「そういう意味では東京中心で動いていた組織については地方での動きは鈍いです。中央の指示を仰ぐシステムになっていて独自に動くことができません」
「そういう意味だと政府と官公庁を再編しないとならないということになる。少なくとも機能するようにしていかないと、それと今まで言ったような事柄を同時並行で進めないとならない」如月が悩む。
続いて原子力担当課長が発言する。
「原子力発電所ですが、今回の震災での被害はありません。近いのは東海、浜岡ですがそれぞれ震度6を計測しましたが、建物も含め異常はありませんでした。爆風の被害も微小でした」
「了解した。それはなによりだな」
経済財務担当課長から報告が続く。
「日銀ですが、日銀ネットは機能していますので何とかなると思います。あとは日銀総裁をどうするかです」
「総裁も被害にあったのか・・・しかし株式市場もなんとかなるんだろう?」
「東証は機能しませんが、他がありますのでなんとかなります」
「経済の骨子がなんとかなれば救われるな。停滞はやむを得ないが致命的なことにはならないということだな」
「そうですね。ただ、経済で言うと民間はどうなるか、東京本社のみの企業は難しいです。混乱は避けられません。金融決済関連は相当混乱します」
「確かにどうしようもないだろうな。まずは各担当ごとに課題と対応策を明確にしてくれ」
「わかりました」一同が答える。
「あとは首相をどうにかしないと、その後は政府だな」
「そうですね。ただ、政治家は残っていません。とにかく政党は東京に集中していましたから、リタイヤされた方から選定するしかないかと」
「そうだな。しかし適当な人選はできないな。国家存亡の危機だ。政治家は本当に全滅なのかな」
「はい、国会議事堂も跡形もないですから」
「国会会期中でもあり、日本という国の機能を停止させるための地震としか思えないな。たった10Km圏内を破壊しただけで、日本が動かなくなる」
広報担当課長が報告する。
「とにかくマスコミからの問い合わせが多くて対応に苦慮しています」
「そうだな。現時点で分かった部分の情報をまとめてくれ。俺のほうで原案を作成する」
「それはいいんですが、今、ネットやSNSではまた地震が来るといったような噂が多く、日本が沈没するといったデマまで出ています。ひどいやつは第三国の新型爆弾だとか、攻撃が続くと言ったようなものまでが拡散しています。放射能汚染が広がっていて東京から離れないと危ないといったデマもあります」
「そういった噂やデマはとにかく否定するしかない。早めに専門家の見解を出すことが必須だ。当たってくれ」
「わかりました。なんとかします」
その後も色々な意見や課題が噴出して、会議は深夜までおこなわれた。
会議後、橘は分室から自宅に戻った。少しでも仮眠を取らないと体がもたない。
単身赴任者はアパート暮らしをしているものが多い。橘も分室近くにアパートを借りている。すでに日付は変わっている。身体は疲れているが気が張っているのか眠気がこない。寝酒用の缶ビールを飲むが余計に目がさえてくる。
震災対応の件も気になるが、みゆきが心配で仕方がない。橘にとってこの3年は後悔しかなかった。なぜ、もっと家庭を顧みなかったのか、妻、祐子の苦悩も気付いていたが、無視していた。その結果が自死という最悪の報いで却って来た。人が死んでしまうということを痛烈に感じた。
親の死もそれなりに痛みをともなったが、妻の死というものがこれほどつらいものとは思わなかった。いまさら、恋愛とかそういった感情からくるつらさではない。ただ人として救えなかったという後悔が、自己嫌悪とともに襲ってくる。彼女の悲鳴をいつも聞いていたはずなのにどこかで慢心していた。まさか死ぬことは無いだろうと。
みゆきが5年生に上がった頃だったか、祐子がみゆきのいじめについて話をしだした。
まさかうちの子に限ってと、しばらく相手にしなかったが、実際にけがをしていたり、荷物が汚れていたりと証拠が上がってきて、どうすればという話になってきた。それでも俺は気のない返事ばかりしていた気がする。話は聞いていたが何をするでもなく祐子に任せていた。その時期には彼女が壊れていることも気が付かずに、心療内科に通院していたのは知っていたが、それほどの事でもないと自分を納得させていたのだ。しかしそう考えたことに何の根拠もない。
そしてあの日をむかえる。まさに家庭が壊れた日だ。あの瞬間に祐子を失っただけではなくみゆきも失った気がする。人は簡単に壊れるのだ。今まさにみゆきも壊れ始めている。
なんとかしないとと焦れば焦るほど、みゆきとはおかしな関係になってしまう。仕事にかまけて家庭をおろそかにした罰だが、家庭も救えない人間が国家を救えるのだろうか、とにかくもう後悔だけはしたくない。祐子のためにもみゆきは救わないとならない。




