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ある日突然 ある親子の1週間  作者: 春原 恵志
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5日目 おかあさん みゆき

5日目

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みゆきの自転車の旅も4日目となり、いよいよ最終日になった。ビジネスホテルを出発し、途中のコンビニで朝食を取る。

昨日、思い切り泣いたのと、今までの胸のつかえがとれたのもあり、みゆきはすこぶる元気だった。ひょっとするとここまですっきりした気持ちになったことがない。

そして、いよいよ今日は大阪到着だ。

「あと60kmだよ。今の調子だったら、昼過ぎには着けるよ」自転車を振り返ってベアさんが言う。

「なんか、完走できそうだ」

「間違いないよ。とーちゃんもびっくりするだろうな」

みゆきもだいぶ、自転車に慣れてきて、普通に走れるようになっていた。ベアさんから離されることは相変わらずだけど。もっともベアさんが本気になったら、この前の救急車なみなんだけどね。

「お昼はたこ焼きか、きつねうどんかな、大阪はうまいものが多いからね」

ベアさんはあいかわらず、色気より食い気だな。

いよいよ淀川沿いを走る。大阪は地震の被害も小さく、周りの人も日常を生きている感じだった。


いよいよ、おとうさんの職場が近づいてきた。近づくほどにどんどん気乗りしなくなる。

大坂の中心街が見えてきた。都市部の風景は東京も大阪もあんまり変わらないな。

おとうさんの職場は大阪城の近くにある。

「みゆき、そろそろ到着だよ」

「うん・・・・」

大坂城の前に大きな公園がある。ベアさんはそこで止まった。ベアさんは自転車から降りるとみゆきに向き直って話す。

「みゆき、ここでお別れだ」

「え、もう。おとうさんに会って行かないの?」

「とーちゃんも忙しいから、またの機会にするよ」

「あと、これから淵さんとどうやって連絡取ればいいの?」

「落ち着いたら、こっちから連絡するよ。とーちゃんのところでいいだろ。みゆきは携帯ないから」

「うん、きっとだよ。それから早くスマホを買いなよ。いまどきスマホもないなんて」

「りょうかい。鋭意検討します。みゆき、とーちゃんが待ってるぞ、早く行きな」

「・・・・・」

みゆきは涙が止まらない。ベアさんも目に涙をためている。みゆきがこらえきれずに話す。

「やだよ・・・私、淵さんとずっと一緒に居るよ」

「ふふふ、何言ってるんだよ。私はみゆきの親じゃないよ」

「淵さん・・・」みゆきはベアさんにすがりつく。

「大きな子供だね・・・」

ベアさんは、しばらくそのままにしてくれた。

「みゆき、今回、自転車でここまで来たけど、私は絶対できると思ってたよ。みゆきは負けない子だよ。いじめにあってもずっと学校に行ってたし、母さんが亡くなった時もくじけてなかった。もう一回言うけど、14歳なんて、何にでもなれるんだ。世界は360度広がってるんだよ。これから、色々あるだろうけど、この数日間でみゆきは大きくなったよ。それは私が保証する。人生はいいもんだよ。いろんな出会いもあるし、みゆきが生きてきたことを実感する人とも出会えるはずさ」

「うん」

もうみゆきはぐしゃぐしゃの顔をしている。

「きりがないから、ここで別れよう。元気でな」

ベアさんは振り返らずそのまま離れていく。みゆきは見送る。だんだんベアさんが小さくなっていく。

だめだ、みゆきは走り出した。みゆきの中のみゆきが止まらない。

そしてベアさんにしがみついた。

『おかあさん!』

びっくりしてベアさんは振り返り、飛び込んできたみゆきを抱きしめた。

『おかあさん、おかあさん。おかあさん!』

みゆきのなかのみゆきが何度も叫んでしまう。

ベアさんはそのまま、みゆきの頭をなでてくれた。みゆきのおかあさんは誰が何と言おうとベアさんだよ。

大阪城公園の風はやさしく、二人をなでていく。あと、数時間で地球がなくなるというのに実におだやかな、あたたかな空気だった。

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