新首相会見 如月
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橘たちが京都大学を後にした同時刻、新首相発足会見が大阪にあるホテルの大ホールにて開催された。約200名程度の参加だった。
会場を見ながら、総務課長の坂本が如月に話をする。
「さすがに報道陣の数が少ないですね。通常の半分程度でしょうか」
「そうだな。東京壊滅の影響だろうな。まだ、交通手段も確立されていないから、報道もここまで来るのも骨が折れただろうな」そこに分室の若手が来る。
「大和田さんの準備は出来たようです」
「よし、それでは開始するか」
如月が舞台脇のマイクの前におもむろに向かう。
「皆様、お待たせいたしました。それではこれから新首相の就任会見をおこないます。私は内閣府政務官の如月と申します。内閣府がこの会見を仕切るのは筋違いとのご意見もございましょうが、この非常時においてやむを得ないこととなっております。また、新政府の発足についても今回は超法規的措置を取っております。この件についても様々なご意見はございますでしょうが、とにかく、現状打開のために必要不可欠との思いで進めさせていただいております」
一部の記者から不満の声が上がる。如月はそのまま進めていく。
「首相の会見とその後に質疑応答の時間を設けておりますので、質問等はその際にお願いします。それでは、大和田新総理の就任会見を行います」
大和田氏が会見場に姿を現す。一斉にカメラのフラッシュがたかれる。
大和田は少し眩しそうにしながら、壇上にあがる。
大和田は会場を見回してゆっくりと話し出す。
「大和田です。まさか再びこのような舞台にあがるとはまったく予期しておりませんでした。つい、先週には畑の手入れをしていて、夏野菜を植えたところでした」
この出だしでピリピリしていた報道陣が若干、なごむ。
「まず最初に今回の厄災、ならびに今朝ほど起きた再度の厄災で、不幸にも亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。事実関係が分からない点が多々あるようで、被害実態についても現在、調査中のところがございますが、少なくとも500万から800万人に至る方々にご不幸が及んだ可能性があるようです」
報道陣がざわめく。
「被害の実態は徐々に明らかになると思われますが、詳細報告については、いましばらく待っていただきたい。ただ、世間で噂されているような日本沈没やこれ以上の被害発生についての可能性は低いものと判断しています。
それから言っておきたいことは、まず、最初にこれは首相の所信表明ではありません。就任依頼に対して昨日、受諾したばかりで、政府としての基本方針やどういう形で日本を動かしていくかの詳細はこれから固めていきます。新政府発足会見を再度、おこなうのでそこで宣言させてください。
東京を襲った厄災により、現在は東京そのものが消滅したこととなります。つまりは政府機能が欠落した状況です。これは由々しき問題です。そのため、あくまで臨時という形ではありますが、超法規的措置にて私、大和田が総理大臣を務めさせていただきます。早い段階で新政府を立ち上げ、復興を目指していきます。そのうえで新たな政治をおこなうための仕組み作りをおこないます。我が国は法治国家で議会制民主主義でありますので、その前に国会を再興させる必要もあります。ただ、私には今までの政治のやり方でよかったのかという反省もあります。国会議員数の問題もあり、地方の在り方、必要な部分とそうでない部分の精査、さらに自治体にもっと力を与えてもよいのでないか、もっと効率よくこの国を運営していく形を考えていきたい。政治だけではなく、官公庁についても必要最低限の機能を持たせた省庁に再編していきます。民間でやれることは民間でやる。そういった考え方を推進させていきたい。
いまや日本が新たに生まれ変わる必要があります。太平洋戦争でのダメージ以上の負債がこの国を襲いました。人的、産業的に致命的な被害を被っています。戦後の復興を大きく上回る復興をこの国が遂げられるように力を注ぐ覚悟です。
歴史を振り返ると、日本は外的要因により、国の骨格を変えていきました。江戸時代は黒船来訪で明治維新に向かっていきました。太平洋戦争では米国により新たな民主主義国家になりました。そして今回は大震災です。この災いをなんとか好転させたい。この国を新しく生まれ変わらせたい。その思いだけは肝に銘じて邁進する覚悟です」
報道陣も大和田の心の叫びを聞いた気がした。政治家ではあるが人間としての本音で話をしたことは理解できた。如月が再びマイクを取る。
「それでは、これから質疑応答をおこないます。質問のある方は挙手をお願いします。指名された際に会社名とお名前を言ってください。それでは質問をどうぞ」
報道陣から一斉に挙手があがる。
「それでは、前のあなたから」
如月が手前の男性を指さす。
「日本公共放送の寺前です。先ほど、総理がおっしゃられた政治改革について、質問です。具体的にどの程度の政治改革を検討してますでしょうか?」
大和田が答える。
「詳細はこれからになるが、衆議院、参議院の2院政も見直したいと思う。現在,両院制の意義が薄れている。もっとスリムに迅速に国会運営をしていきたい。議員数は今までの半分、いや四分の一ぐらいでいい。それでも民意は反映できると信じている」
報道陣から驚きの声が上がる。さらに挙手が続く。
「毎朝新聞の田所です。新政府の構成はいつ頃、分かりますか、また、人選などはどうなってますか?派閥もなくなった状態でどのように組閣されるおつもりでしょうか?」
「組閣は1週間以内には発表する。君が言うように派閥どころか政党がなくなったんだ。組閣も民間から有能な人材をとるしかないだろう。元々、マネジメントもわからんような政治家が大臣をやって何ができるのかと思っていたんだ。どうだい、君がやってみるかい?」
田所は目を白黒させる。報道陣から笑いが出た。
「残念ながら政治家はもういなくなってしまった。政党もない、派閥もない、しがらみもないわけだ。今さら権力抗争もないだろう、真の日本の政治を始めようと思う」
期せずして報道陣から拍手が起こった。如月にとってもこんなことは初めての経験だった。さらに質問が続く。
「関西テレビの北島です。失礼ながら大和田さんもご高齢であり、体力的に心配ではないかとも思うのですが、その点はいかがですか?」
「うん、今回の厄災で思ったんだが、人間、一寸先は闇だ。生きるも死ぬも時の運というかね。とにかく、その日やれることをやる。これしかないだろ、今のところ何とか生きてるしね。とにかくやれることをやる。やれなくなったら、その時だよ。無責任かな」
「いえ、その心意気があれば、よろしいかと思います」
ここで大和田が話をする。
「あと、みなさんが聞きたいだろう話だが、これからの政治は風通しを良くする。政治家の情報は全部公開する。とにかく金のかかる政治はやめだ。政治献金もなくしたい。政治をやるのに金がかかるから不正が起きる。政治家も優遇され過ぎだ。政治家をやる余禄のない状態で本当に国をどうにかしたい意欲のある人間を政治に参加させる。そういうことだ」
こんな状況での記者会見ではあったが、報道陣も主催者側も前向きな姿勢で進められた。
如月はこの会見で日本は息を吹き返した気がした。まだ、やれる。日本は生まれ変われる。




