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ある日突然 ある親子の1週間  作者: 春原 恵志
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三日目 防衛省安達 橘

三日目

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朝、眠そうな顔で橘が出勤すると、さっそく総務の坂本課長が寄ってきて話をする。

「橘さん、おはよう」

「おはようございます」橘はまだ頭が働いていない。

「例の防衛省の人間が来てますよ。今、岩木さんと小会議室で打ち合わせ中です。橘さんも来てくださいとのことです」

「わかりました」

この話で橘は気合が入る。状況が少しは進展するかもしれないという期待感だ。橘は小走りに小会議室に向かう。ドアを開けるとそこには防衛省の岩木と若い人間がいた。

「おはようございます」

「おはようございます。橘さん、こちらが研究所の安達くんです」

「安達です。よろしくお願いします」

「橘です。よろしくお願いします」

安達は30歳前後の防衛省のエリートだろうか、いかにも切れそうな若者で、ちょっと見はモデルのようだった。短髪で今流行りのヘアスタイルなのだろうが、橘はよくわからない。顔もすっとしてどことなく欧米人を見るようである。岩木が紹介する。

「安達君はアメリカのロッキード・マーティンの研究開発部門出身なんだ。MIT卒業だったよね」

「はい、そうです」

「凄いですね。マサチューセッツ工科大学ですか、アメリカでは何をやってましたか?」

「ロッキードでは、元々、飛行機が好きで航空機の開発をやりたかったのですが、今、ロッキードも開発の主流がAIになってまして、私もそこでAIを開発してました」

「AIですか、今やすごいですものね」

「そうですね。急速に発展してきた分野です。まだまだ色々な展開を見せますよ」

「それで、どういう経緯で防衛省にはいったんですか?」

 橘はそこまでの人材がなぜ、防衛省に入ったのかが不思議だった。

「実は実家の親が倒れまして、仕方なく日本に舞い戻りました。ちょうど防衛省が研究所を立ち上げたところで、先端兵器の専門家を必要としていたのでいいタイミングでした」

「そうですか。それにしても今回の厄災では運が良かったというか、なんというか・・・」

「そうですね。世田谷の研究所はおそらく全滅だと伺ってます。残念です。たまたま、シンポジウムに出席していて九死に一生を得ることが出来ました。そういう意味では私としては仲間の分もがんばりたいと思っています」

「そうですね。我々も同じ思いです」

 本題に入るべく、安達が真剣な顔で話し出す。

「それで、岩木から少し話を聞いたのですが、今回の厄災が何かの兵器使用ではないかということですね」

「そうです。こういった分野について我々は知見がないもので、専門家の意見を伺いたいんです」

「私で力になるかはわかりませんが、分かる範囲でお答えします」

「厄災の状況については、把握されてますか?」

「いえ、一般的な情報だけです。もう少し詳細なデータを確認させてください」

「わかりました。それでは岩木さんと一緒に資料とデータを合わせて見てください。また、その後で打ち合わせしましょう」

「はい、よろしくお願いします」


それから、約1時間で岩木と安達はデータ確認と解析作業をおこない、その後、橘と如月も参加して、解析結果の打ち合わせが小会議室でおこなわれた。安達が話をする。

「データ類を確認させてもらいました。現時点で分かる範囲になりますが、兵器使用の可能性について言及します。まず、ミサイルが使用されたか否かですが、可能性は低いと思います。

現在、各国にてミサイルが発射されるだろう地域についての観測がおこなわれています。自衛隊にもミサイル防衛システムがあります。情報収集衛星光学7号機による観測結果や、米軍や関連各国からも情報収集をおこなっています。その結果として今回ミサイル発射の情報はありませんでした」

橘が質問する。

「ミサイル発射を観測する地域は限定されているんですよね」

「そうです。中国、北朝鮮、ロシアなどを中心に観測しているはずです」

「システムで観測できないミサイルは存在しないと考えていいんですか?」

「はい、一般に衛星の監視システムでは赤外線を使って観測します。よってステルス性の高いミサイルでレーダーでは測定できなくても衛星では判断可能になります。赤外線を出さないミサイルを開発できれば話は変わってきますが、現在、そういった情報はありませんし、燃焼しないで推進するミサイルは今のところ考えられませんので」

「必ず赤外線を出すということですね」

「そうです。ロケットエンジン、ジェットエンジンなんでも燃焼して飛びますので、必ず赤外線が出ます」

「ステルス機についても同じことですね。赤外線は出る」

「そうです。ただ、ステルス機についてはレーダー網でも探索できるはずです。複数のレーダーで観測もれを防いでいます。今回はステルス爆撃機の飛行記録もありませんでした」

「なるほど」

「また、地震の現象を確認した限りでは、確かに爆発物の可能性が高いと思われます。震災後に大きなきのこ雲が観測されています。また、広範囲に爆風も発生しています。ただし、この規模のエネルギー量を生み出す爆弾が考えられません。たとえ、水爆の大きなものを地下に埋めて爆発させてもここまでの被害を出すのは難しい。地殻変動をおこさせるような桁違いのエネルギー量になっています」

如月が質問する。

「現在の核爆弾の規模がよくわかりませんが、広島に落とされたものとはけた違いの威力だとは聞いたことがあります。それよりももっと大きな破壊力ということですか?」

「はい、当然、現在の大型の水爆では広島、長崎の原爆よりも数千倍の破壊力があります。ただ、今回の震災のエネルギー量はさらにその数千倍以上かと思われます」

「すさまじいな・・・」如月と橘は目をむく。そこまでのエネルギー量だったとは。続いて橘が質問する。

「放射能が検出されていないようですので、核爆発は考慮しなくてもいいんですよね」

「そうです。ただ、可能性でいえば放射能を出さない核分裂反応もあり得るんです。実際、研究もされている。まあ、実現されたという事実を掴んではいませんが」

「爆発物の可能性はあるが、具体的にあげられる爆弾は存在しないということになりますか」

「はい、そうです。申し訳ありませんが、そういった結論になってしまいます。もし、開発に成功した国があるとすれば、米国、中国辺りになるかと思いますが、今のところ、防衛省にそういった情報は入っていません」

如月が質問する。

「爆弾の規模はさておいて、もし仮にそういった爆弾を作ったとして、あの場所に投下させたり、埋没させたりする手段はどうなんだろう?果たして出来るのか?」

「仮にそういった爆弾があるとして、先ほど述べたように熱を出さずにレーダーにも見つからずに投下させることは不可能です。地下に埋めるとすれば、その前に大掛かりなボーリング作業をしたことになります。都心で秘密裏にです。そういった事実はもちろんありません」

「そうだな。結局、原因は不明ということになるな」

「すみません。力になれなくて、引き続き可能性を探っては見ます」

「わかった。よろしく頼む」

打ち合わせはこうして終わった。

如月と橘が二人で会議室に残って話をする。

「橘、マスコミになんて説明するかな」

「そうですね。弱りましたね。とりあえず地震の原因は引き続き解明中です。というぐらいでしょうか、世間は2次被害を恐れていますので、現在のところ、そういった兆候はないといったところですかね」

「その線かな。色んなところから突き上げがありそうだが、致し方ないな。その方向で広報経由で情報公開をしてくれ」

「わかりました」

橘も気が重いが、世間のデマを少しでも防ぐためにはこれぐらいしか手がない。

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