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ある日突然 ある親子の1週間  作者: 春原 恵志
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寺沢教授 橘

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大阪分室の橘は不眠不休で作業を続けていた。とにかくやってもやっても仕事が終わらない。それどころか逆に増えていく。これは橘だけの話ではない。内閣府分室の全員が仕事に忙殺されていた。職員の中には家族と連絡が取れなかったり、自宅が無くなったりしており、そういう現実から逃避できるという意味でも仕事に埋没することが救いになってる。

目に隈が出来ている橘のところに元気象庁の清水がやって来た。清水も同じような顔をしている。

「橘さん、寺沢教授のアポ取れましたよ。これからオンラインで打ち合わせします。参加されますか?」

パソコンと書類の束の中にいた橘が返答する。

「ああ、今すぐかな?」

「はい、出来れば」

「わかった。どこでやる?」

「小会議室を取ってます。用意するので来てください」

「了解、今行く」

橘は満足に食事を取っていない。先ほど自動販売機で買ったパンをかじりながら、会議室に行く。そんな橘に清水が言う。

「橘さん、大丈夫ですか?」

「うん、なんとか・・・」

食べながらパンがポロポロこぼれている。口も満足に動かせないのか。

清水はオンラインをつなげていく。ちょうど、先方もログインした模様だ。画面に教授が映った。

「お疲れ様です。内閣府の清水です。寺沢先生聞こえますか?」

「はい、寺沢です。大丈夫です。画像も見えます」

「寺沢先生、内閣府の橘と申します。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

清水が話す。

「先ほど、データ類を送りましたが、ご覧いただきましたか?」

「はい、見させてもらいました」

「それでどうでしょう?」

「うーーん、いやね。今回の震災について、最初からこっちでは隕石じゃないかと思ってたんですよ。あれだけの爆風なんでね。地震の被害じゃないなとは思ったんです」

「やっぱり、そうですか?」

「いや、でもね。データ類を見させてもらって、動画も見たんやけど、隕石とは思えないんですわ」

「はあ」

「普通、あれだけの被害を起こす隕石やったら、火球になって肉眼でも見えるはずやし、途中で観測されないはずがないんですわ。地震発足直前の衛星画像にも何も映ってないしね。いきなり爆発が起こっとる」

「観測できない速度だったとかは考えられないですか?」

「通常、隕石は秒速10km以上の速度で突入するとして、この規模の破壊力とすると、直径数百メートルはあるはずなんで絶対観測は出来ますよ。それが何の痕跡もないんやから、隕石とは思えない」

「そうですか」

「そやけど、物理学者としては非常に興味深い現象ではあります」

「ほかに何か要因は考えられますか?」

「そうやね、いい加減なことは言えませんけど、思いつくのは核爆弾かな?それも超大型の水爆かな。でも放射能は検出されてないんでしょ?」

「そうです。我々も爆弾の可能性を疑ってはいますが、核使用の痕跡はありません」

「不思議やな。まあ、こっちでも色んな意見を聞いてみますわ、それで何か気が付いたら、また、連絡します」

「はい、よろしくお願いします」

これでオンラインは終了し、清水はパソコンの接続を切る。

「清水さん、いよいよ原因不明だね」

「困りましたね。やっぱり新型爆弾かな・・・」

「そうなると、やはり最先端兵器技術の専門家が必要だな」

「そうですね」

橘は防衛省の生き残りを探していた。


深夜になり、仕事が終わらない橘が休憩室に来ると、そこに如月がいた。彼の表情にも疲れの色が浮かんでいた。

「お疲れ様」

「おお、橘か、お疲れ。もうそろそろ帰れよ。徹夜続きじゃないのか?」

「それはお互い様でしょ」

「やることが多すぎだ」

「そうですね。また、もう一回、戦後作業をやってるのと同じですからね」

「そうだな。まさに第二次世界大戦後だな。実体験はないが状況は同じだ」

「今回はGHQじゃなく、我々が枠組みを作りますが、日本自体が復興できるんでしょうか?」

「そうだな。太平洋戦争後は今と違って人間の活力があった気がする。今、この国にそういったパワーが残っているのかな」

「どうでしょう。当時とは人間の質が変わってきていいるかもしれませんが、私は日本人の底力に期待したいです。窮地であればこそ、変わっていってほしいです」

「そうだな。希望的観測だけど、そこに期待するしかないな。ところで、震源地の調査はどうなった?」

「民間にお願いしました。海洋調査研究所です。最初は震源地調査なんてできないの一点張りで、最後はほとんど脅迫ですよ」

「そうか、まあ、命懸けかもしれんしな。気持ちはわかるな」

「とりあえず、潜水調査の前に現地をヘリで確認することにしました。船の航行も確認しないとならないので」

「そうだな。ヘリはいつ飛ばすんだ?」

「明日の朝一番です。潜水調査の時期はまだ未定です。なるべく早くで依頼中です」

「わかった。よろしく頼むよ」

「はい。ああ、そういえば、岩木さんから聞きましたが、研究部門防衛省の残党が見つかったそうですね」

「ああ、そうらしい。たまたま、神戸で先端兵器のシンポジウムがあったみたいで、生き残ったやつがいたとのことだ」

「次世代装備研究所のエリートなんだとか聞きました。明日から勤務出来るそうです」

「兵器関連はそいつに期待しよう」

「ところで臨時政府はどうなります?」

「今、引退した首相経験者を基本にあたっている。高齢でもこういう状況なんで国民から信頼のおける人物ではないと」

「そうですね」

「宮内庁の問題、天皇の後継問題もある」

「天皇は皇位継承順位で行くんですよね」

「ところが皇位継承者はほとんど都内在住なんだよ。継承順位だけで人選してもそれでいいのかという問題もある」

「すべてが東京に集中していたんですね」

「ここまで国家中枢を狭い範囲に集約した国家が他にあるのか、というぐらいの国だったんだよ」

「ほかにこんな国はないでしょうね。危機管理意識が皆無ですね。相変わらず島国根性ですか・・・」

「もっと前から、政府機関を分散する計画を実現すべきだったな」

「分室があって良かったということですね」

「ああ、徹夜続きだけどな。ははは」

二人とも力のない笑い声になった。如月が思い出したようにつぶやく。

「霞が関のメンバーは全滅の可能性が高いな。同期もほとんどが東京勤務だったからな」

「優秀なやつほど、本部勤務ですから・・・」

「そうだな。みんな日本のために頑張ってきて、この厄災だからな。俺たちはみんなの思いや意志を継いでいくしかない」

「こっちのメンバーも単身赴任が多くて、家族の安否もわからない状態です」

「うん、みんなに申し訳ないと思ってる。不安を抱えながら仕事に埋没してもらっているからな」

「しかし、こういった厄災が起きると人間の運命というか、一瞬先は闇というか、何が起きるか分からないことを痛感します」

「そうだな。現在、生きていることが、次の瞬間には無くなる可能性があるってことだ。それもなんの前触れもなくな。我々だって、次の瞬間にはどうなるか分からないって話だよ」

「そうですね。東京にいた連中も誰も予想すらしなかったはずです」

「そう考えると、不思議な気がするな」

「まあ、そんなことを考える暇もなく、仕事するしかないですね」

「ああ、そうだな」

大坂分室は働き方改革など無縁の不夜城と化していた。橘以外の人間もほとんどが残業に明け暮れていた。

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