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ある日突然 ある親子の1週間  作者: 春原 恵志
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キャンプ場 みゆき

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みゆきは母親やいじめのことなど、色んなことを考えながら走っていたら、思ったより進んだみたいで、結局、温泉付きのキャンプ場に着くことが出来た。ベアさんはみゆきのがんばりをほめてくれた。一日50㎞も走れるんだ。それも山道だよ。わたしってすごいかも。

ベアさんは走り終わった後のクールダウンが重要だと、筋肉をリラックスさせる運動をしばらくやった。みゆきもクタクタだったけど、無理やりやらされた。本当に効果があるのかな。みゆきは筋金入りの運動音痴なんだぞ。

さすがにテント一式は車に置いてきたので、キャンプ場でテントを借りて設営。みゆきはほとんど、グロッキーでベアさんが一人で作業をしていた。なんか、今日ぐらいの自転車走行だとベアさんは運動不足みたいだった。

みゆきは甘いものが食べたくて仕方がなかった。ベアさんは体が糖分を求めているからだと言って、キャンプ場で売っていたソフトクリームを買ってくれた。

「信じられないぐらい。うまい。なんなの、ここのアイスは」

「普通のソフトクリームだぞ。みゆきは今まで何を食べてたんだ?」

ベアさんはソフトではなく缶ビールを片手に話をする。ベアさんはお酒も好きなんだな。

そうして、今日の目的の温泉に入る。ここの温泉は昔からあるらしく、お風呂自体は普通の民宿みたいだった。入湯料700円と実に安い。

湯船は4畳半ぐらいの大きさで小さい銭湯ぐらいなのかな。温泉らしくちゃんと白く濁っていた。そしてあんまり硫黄臭くはない。これはアルカリ温泉なのかな。湯船と同じく、洗い場も3人分しかない。ちょうどベアさんとみゆきしか入ってなくて、貸し切り状態だ。

洗い場の蛇口も昔ながらの回すタイプで、年季を感じる。みゆきは湯船につかる。

「うーーん、極楽、極楽」みゆきが感想を述べる。

「ずいぶん、古臭い言い方だね」

「温泉って、こう言うんじゃないの」

「いや、正解だよ。極楽、極楽、疲れも取れるだろ」

「そうだといいけど、多分、明日は筋肉痛だと思うよ」

「みゆきの歳なら、筋肉痛なんて起きないだろ」

「私の運動不足ぶりを知らないから、そんなこと言えるんだよ。ゲームしてても筋肉痛になるぐらいなんだよ」

「まじか、それはある意味すごいな。ここの温泉は強アルカリで美肌効果もあるし筋肉痛にも効果絶大らしいぞ」

まったく、ベアさんはいい加減なことばっかり言ってる。

「みゆきは意外とボインだな」

「セクハラ発言!」

「ほめてるんだぞ」

確かにベアさんは筋肉しかついてない。プロレスラーみたいだ。それにしても温泉は気持ちいい。確かに疲れが取れる気がする。

「みゆき、下着はここで洗っとくんだぞ。私も洗って毎回、干してるんだからな」

「なんか、恥ずかしいよ」

「うん、気持ちはわかる。しかし今は非常時だ。仕方ない。お風呂の石けんを使わせてもらってゴシゴシ洗うんだ」

みゆきは洗い場で石けんを使って下着を洗濯した。うーん、貧乏くさいな。でも荷物が増えるのは困る。パンツ1枚の重みも無駄には出来ないな。その後、頭と身体も洗ってすっきりして、再び湯船につかる。

そこでみゆきは前からベアさんに聞きたかったことを尋ねてみた。

「ねえ、淵さんのお母さんってどんな人だったの」

「私のお母さんかい・・・うーん、実は知らないんだ」

「・・・・」

「うん、私が生まれてすぐ、亡くなったんだ」

「そうなんだ」

「父親もわからない。母親が一人で産もうとしたらしい。その辺の事情は母親がなくなったんでよくわからないんだ。私は施設で育ったんだよ。軽井沢の施設ね。そう言った意味では施設の先生が母親代わりかな」

「へえ。お母さんの写真はなかったの」

「何にもないんだ。施設の人も残したかったみたいだけど、病院で亡くなったらしくって、施設の人はその後に私を引き取ったから、何も残ってない」

みゆきはなんて言っていいかわからなかった。ベアさんは母親の記憶も記録もないのか。

「子供の頃はやんちゃ盛りで良く怒られたよ。エネルギーが有り余ってたからね。それでもちゃんとした大人になれたのは施設の先生達のおかげだよ」

「さびしくなかった」

「どうかな。親のいる同級生の話を聞くと羨ましいとは、思ったけど、それは仕方ない事だからね。でも、今だから言える話かな」

「そんな風には見えないな。凄く前向きに生きてる」

「前向きか。ちょっとは周りも見ないといけないんだけどね」ベアさんが笑う。

「大丈夫だよ。淵さんは周りもしっかり見てると思う。私が言うことじゃないね。へへ」

「ありがとね。でも後先考えずに自衛隊やめちゃったからな。今ごろ、自衛隊のみんなは大変だろうな。救援やら支援やらで、申し訳ない気分だよ」

「どうして、やめたの」

「それは、ひとことでは言えないな。ただ、納得できないことがあってね。このまま続けられないと思ったんだよ」

「そうなんだ。あれ、そういえば、淵さんは鳥取に帰るって言ってなかった?」

「軽井沢の施設の先生が引退しててね。鳥取にいるんだ。挨拶がてら顔を出そうと思ってね」

「鳥取かあ、私も行ってみたいな」

「一緒に行くかって、冗談だよ。ふふふ」

みゆきは本当に一緒に行きたいと思ってしまった。温泉はほんとに疲れが取れるみたいだ。色々なものが流れて行って、ほっとした気分になる。

風呂上り、テントの脇にはロープで吊るされた二人分の下着がたなびいていた。盗まれたらどうするんだろう。今日の夜ご飯はインスタントラーメンだった。ベアさんは5人前ぐらい食べていた。みゆきは半分、眠りながら食べていた。気が付いたら、テントの中でそのまま寝てしまっていた。


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