状況報告会 橘
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その後も内閣府には震災情報が入ってくる。その中で被害状況がさらに明確になってきた。やはり東京23区内の建物は全壊となっており、マグニチュード10を超えるような地震が発生したことが判明していた。さらに地震と同時に衝撃波が発生しており、まさしく爆風に近いものが被害を大きくしたことがわかっていた。
この地震の原因が分からない状況も続いていた。救援しようにも再度、地震が発生する可能性があるのか、ないのか、対応を決めるためにもまずは地震の原因究明が不可欠であったが、そんな中でも人命救助の観点からも救援活動は続けられていた。自衛隊や警察,消防士などは自身の命を懸けて現地で救助活動を進めていたのだ。
政治活動は大坂分室が中心となって、各省庁の生き残りを分室に集結させていた。
そんななか、内閣府の大会議室で最初の状況報告会が開催された。
如月を議長とし、各省庁の幹部クラスを招集しての初めての確認会議である。この会議には総勢100数名が参加していた。会議は分室の大会議室でおこなわれた。コンベンションホールのもっとも広い会議室で、教室のような並びで各自2名ずつが座る机があり、壇上には如月が鎮座していた。また、如月の背後には映画でも映せそうな大きなスクリーンがある。
如月が開会の音頭を取る。
「皆さん、お集まりありがとうございます。多忙な毎日が続いていることと思います。会議をやる時間も惜しいとの声も聴きますが、まずは現状を全体で共有したいとの考えで会議を開催いたしました。なるべく短時間で終わらせていきたいと思います。質疑応答はその都度、行ってくれて構いません。それでは会議を始めます」
まずは、内閣府防災担当からの状況報告があった。
「それでは、地震の状況報告からおこないます。4月25日8時28分に丸の内周辺にてマグニチュード10の巨大地震が発生しました。震源地は概ね丸の内直下になります。これについては気象庁の清水さんから要因分析をしていただきましたが、残念ながら原因は不明です。よって、地震については諸説あり現在、専門家に分析をお願いしているところです」
これに如月が質問する。「専門家は北沢教授だったな」
「はい、京都大学の地震災害研究センター北沢教授にお願いしています」
「とにかく、マスコミからの問い合わせが続いている。暫定でも良いから何らかの報告をおこないたい」
「了解しております。なるべく早い段階で暫定でも報告できるものを用意します。それでは報告を続けます。地震と同時に爆風が発生しています。このことから、地震ではなく、爆弾のようなものかもしれませんがミサイルなどの武器使用の痕跡は発見されておりません。また核兵器使用後の放射能も測定されておりません。これについては後程防衛相から報告があると思います。
結局、その爆風が今回の被害をさらに大きくしています。耐震等級3の建物についても爆風被害で損壊しているようです。耐震等級3とは現在の規定では最も強い耐震構造を意味します。人的被害については丸の内中心に10Km圏内にいた人間の生存は絶望的となっています。これはサンプリング調査により確認いたしました。また都心の直接の被害映像はほとんど残ってませんが、さいたま副都心からの映像が残っていました。こちらを確認ください」
会議室のスクリーンに映像が流れる。
見慣れた東京都心の映像から始まった。さいたま市の高層ビルに設置されていた固定カメラからの映像である。都心に向けた画面であり、東京タワーを中心に右側に六本木ヒルズ、森ビルが見え、都心のビル群が並んでいる。いつもの見慣れた都心部の映像である。
次の瞬間、大きな地震が発生したことが分かる。建物が大きく揺れている。その次に核爆発のような爆風が発生する。建物がその影響で倒壊していく。それはさながら、水爆などの実験映像のようだった。建物が砂の城塞のようにもろくも崩れ去っていく。さらに震源地付近から上がるきのこ雲が、どんどん大きくなっていくのがわかる。そしてさらに爆風によるカケラなどの粉塵がカメラに降り注いでいき、ついに映像が途切れた。カメラが破壊されたようである。
会議メンバー全員の顔に苦悩の色が広がる。震災以降家族や知り合いのことを思わない日はない。このすさまじい映像からも都心にいた人間の生存確率は限りなくゼロに近いことがわかる。
防災担当からの報告が続く。
「こちらの映像はさいたま副都心のものですが、東京以外の被害状況は現在、詳細を集計中です。郊外については概ね想定されていた震度7の地震被害に相当するものとなっています。こちらについては、ある程度、東京直下型地震対応がなされており、想定内の被害となっています」
「想定内とは具体的にはどのくらいですか?」如月が確認の意味で質問する。
「想定は東京直下型地震を基本に算定したもので、こちらは火災被害が主なものです。元々地震による火災被害が主な被害要因であると想定していました。ところが都内は爆風の影響が大きすぎたということになります。都心でも火災は起きていますが、全壊後に発生しているといった状況です。
反面、郊外では火災被害がでており、それによる死者数は数万人レベルとなっています。
東京以外の被害状況はこれから、詳細を集計することになりますが、言い方は悪いですがこちらは直下型地震による想定内の被害となっています。
ただし、交通機関については想定を超えています。公共交通機関は関東周辺は全滅です。また、新幹線は九州のみが稼働しています。山陽新幹線を含めそれ以外の新幹線は不通になっています。ただ、関西方面や東北地方の公共交通機関は概ね1週間以内には復旧の見込みです。
幹線道路も高速道路はこちらも本州については、軒並み不通になっています。一般道も不通になっている箇所が多く、各地で渋滞が起きています。道路についての復旧見込みは今のところ出せていません。被害が大きすぎて見積もりも出来ない状況です」
その後、各省庁から質疑応答が続いて、防衛省からの報告となった。防衛省からは近畿中部の岩木という人物をプロジェクトに入れて進めることになっていた。岩木は防衛補佐官の肩書を持つ幹部で、橘と同世代の防衛省キャリアである。
「近畿中部防衛局から防衛省を代表して報告いたします。現在、全国各地の自衛隊員を首都圏救助に向かわせていますが、実際は都内に入ることが出来ません。ガレキの撤去から始める必要があり、幹線道路の復旧を中心に作業を進めているところです。次に防衛省からの地震現象の確認報告になります。防衛省管轄の衛星『きらめき2号』のデータ解析により、先ほどの地震発生時刻にお台場中心に衝撃波が発生していることが確認されております。衝撃波の原因は不明です。ただし、ミサイルや核爆弾などの爆発物は確認されておりません。そういった飛行体の確認が出来ていないということです」
如月が質問する。
「ミサイルでないとすると、どういったものが想定されるのかな?」
「全く未知の爆弾であれば・・・いや、しかし、考えられませんね。まず、飛行体であれば、なんらかの軌跡が残るはずですし、当日、日本近海で潜水艦や艦船の航行もなかったことが確認されています。しかし潜水艦であっても核魚雷だと自爆攻撃になりますし、今はやりの自動運転AI攻撃潜水艦があるとしても、こういった爆発を起こせるような爆弾自体が存在しません」
「全く未知の爆弾ですかね」
「いや、これほどの被害をもたらす爆弾は人知を超えてます」
「兵器関連の最新情報については、どこかに専門家はいないのかな?どう考えても我々では役不足だ」
これに岩木が回答する。
「現在、日本で兵器、特にこういった新兵器の研究開発は遅れています。いや、行っていないのが現実です」
「専守防衛の観点からも新兵器についての情報収集などもやっていなかったということですか?」
「それはおこなっています。防衛省に防衛装備庁が作られています。その中に次世代装備研究所がありますが、ここぐらいでしょうか?」
「兵器の開発は民間でもやってますよね」
「はい、ただ、基本は防衛省からの指示が中心になってます。民間が独自に研究開発はおこなっていないはずです」
「そうですか?その次世代装備研究所はどうなりましたか?」
「世田谷なので、おそらく壊滅したと思われます」
「そうですか・・・・」
「一応、残党がいないか当たっては見ます」
「よろしくお願いします。海外の専門家にあたった方がいいのかもしれないな。ただ、最新兵器となるとほとんどが機密事項だしな。どうしたものか・・・」
結局、地震の原因については専門家の意見聴取を待つことになった。
内閣府からは、臨時政府の組閣や政府関連組織の復旧についての報告をおこなった。政情不安からくる治安悪化やデマのたぐいが多く流布されているため、内閣府からは適宜、適切な情報を流していたが、国民の政府不在への不信感が強く、臨時政府からの宣言を早急に行う必要性を確認して、当会議は終了となった。




